007:レストリア
――北方の国【ノースフォース王国】
ここで言う北方とはセントラル大陸の最北端のことを示す。つまりは、ノースフォース王国はこのセントラル大陸の最北端の国ということになる。
ノースフォース王国領、最北端の街レストリア。
魔の森に一番近く、北の最果ての街としても有名なレストリアは活気がある。主に冒険者に出入りは激しい街としても有名だ。
「大体はこの魔の森、マジカルフォレスト目当てだけどね」
前にも言ったようにこのマジカルフォレストは特異な場所として知られている。ダンジョンのように異空間に入る訳でもなく、現実に存在する大森林。
そういう訳でダンジョンとは異なり森だけのエリアなのだが、その中は非常に特異であることが知られている。
まず、現実にあるはずなのにダンジョンのようなエリアであること。
浅いところ……ダンジョン風に言えば上層だが、この辺りの魔物はそこまで強くない。種類も基本的に固定で稀に特殊個体が出てくる程度。特殊個体でもそこまで強くないので初心者でも潜りやすい場所と言える。素材も定番なものなら生殖しており、納品系の依頼にももってこいな場所だ。
ここまでなら問題ないが、問題なのはその奥。中層以降のエリアからは上層では見ない魔物が蔓延っており、更に奥に進むに連れて魔物も強くなっていく。
これは普通の森では考えられないものらしく、その性質が非常にダンジョンに類似している。これが特異と言われている所以でもある。
「ダンジョンのようにボス部屋みたいなのはないけど……」
その代わり、ボスに匹敵するような魔物が普通に生息している。下層までなら上級者であれば来ている記録もあるし、生還している記録もある。もちろん、その人たちはきっちりと準備をしてパーティーも組んでいる前提だ。
で、そんな下層でもまだ100%踏破されている訳ではない。さっきも言ったように奥に行くに連れて魔物が強くなる訳で同じ下層でも奥の方が強い訳だ。
これで察せると思うが、奥の魔物は強い。だからこそ、それらを対処しながら先に進むしかなく、利口な冒険者であれば引き際を決めるだろう。
「まあ要するに強すぎて進めないってことよね」
ざっくりしているけどその通り。
魔物も強くなるけど採取できる素材も同じように奥に行くに連れてレアなものが手に入るという。ダンジョンよりは頻繁ではないけど宝箱も見かけることがあるとのこと。
だからこそ、人が集まるのは必然であろう。国としてもマジカルフォレストの調査に乗り気らしいので、その辺りも盛んなのだ。
「まあ一番の理由は……ノースフォース王国にはダンジョンがないからだろうけどね」
ゼロという訳ではないけど、あるのは大体階層の少ないものばかりで素材も特に他で手に入るようなものばかりだから誰も行きたがらない。
だからこのダンジョンに似た性質のあるマジカルフォレストに力を入れるのは至極当然だろう。しかもレアな物まで手に入る訳で……。
「そりゃあ、ここぞとばかりに力を入れるよねって」
因みにこのレストリアは現在、どこの貴族の領地でもなく国の直轄地となっているそうな。元々持っていた貴族がなんかやらかしたみたいで罰を受けて領地没収されたみたい。
で、マジカルフォレストの全容が段々と分かってくるに連れて国もこの森の調査に力を入れ始めて今に至る。
「最初の街としては規模が大きい気がするけれど仕方がないわね」
普通こういうのってテンプレなら小さな街からじゃない? これは偏見か……まあでも、規模が大きく活気があるってことは色々なものが手に入るチャンスでもある。
「――ハイド」
闇属性魔法”ハイド”は姿を消す魔法に当たる。気配と音を消して相手から認識されなくなる。まあ、こっちから目立つような行動をすると当然だけどバレる。
え? なんで気配を消したのかって? ……いやあ、レストリアの門を見てみると分かる。めっちゃ並んでいるんだよね……そんなところに並びたくないし、あと入場料がちょっともったいない。ということで……。
「よし、入れたかな」
誰一人わたしに気付くことはなく、すんなりとわたしはレストリアの中に入った。わたしが神っていうのもあるだろうけど……本当に誰も気付かなかったね。めっちゃ目の前に立ってみたけど反応なかったし。
「よし。早速冒険者ギルドに行かないとね」
人の気配のない場所で”ハイド”を解除する。因みに白と黒の羽と頭に浮かんでいる輪っか……ヘイローは隠している。自由に出したり消したりできる設定にしていたし。目の色は両目とも青色に偽装している。
大鎌を何もない空間から取り出す。何もないというか、マジックボックスから取り出しただけだけども。
「さて……あっちだったかな」
既に神眼スキルでギルドの場所は把握しているので単に向かうだけである。
□□□
その時、ギルド内の空気が凍り付くように固まった。
「……!」
私の名前はフィリア。しがない冒険者ギルドの受付嬢である。
レストリアと呼ばれるこの街は、冒険者の数も多く出入りが激しい場所だ。最北端の街ということもあって気候は年中気温が低く、雪が降りやすい。
今日もいつものように受付をしているとふいにギルドのドアが開かれた。ドアが開くのは当たり前なんだけども……。
「あの子……」
小柄な少女が1人、入ってきた。ただそれだけだというのに、空気が凍り付く。息をのむ冒険者も居るし、私を含めて受付嬢全員もこの異様な空間に気付いていた。
「……っ」
このプレッシャー……あの子、ただの少女じゃない。むしろ人間であるかも怪しい。いやこれは失礼かもしれないけど。
小柄な身体には似つかない、黒光りする大鎌。それを片手で持っている。少女の身体よりも大きいのではないだろうか。
「あの?」
「! は、はい!?」
「?」
「あ、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって」
気付けばその少女は目の前に立っていた。何とか平常心を保ち、対応する。
「びっくり?」
「あ、いや……大鎌を軽々と持っているからちょっと」
我ながらちょっと苦しい言い訳かもしれない。こてん、と首をかしげる少女……かわいい。はっ!? 今私は何を!?
「あーなるほど。これはわたしの武器ですよ。もしかして持ち込んじゃダメでした?」
「あ、いえいえ! 持ち込みは特に禁止ではないです。ギルド内で武器を振り回したりしなければ」
「それは流石にないですよ(たぶん)。……ここって冒険者ギルドであっていますか?」
今この子、たぶんって言ったよね!? やめてね? 既に貴女のそのオーラで何人かの冒険者が怖がってるから!
「こほん。ここは冒険者ギルドレストリア支部で合っていますよ。えっと……できればそのオーラを抑えてくれるとありがたいのだけど……」
「?」
かわいらしく首を傾げる少女。ちくしょう、可愛いな!
「あー」
何かを思い出したかのようにポンと手を叩く。いちいちかわいい動作してくるわねこの子……無意識なのかな? 別に私は同性愛者とかではないよ? 本当だよ? 誰だってこの子の容姿を見たら反応するでしょ。
そこでさっきまでギルド内を支配していたオーラが消えたことを確認する。何人かの人はそそくさに外に出て行ってしまい、また何人かはほっと安堵していた。
「すみません。ちょっと忘れてました」
「え、ええ……次からは気を付けてね」
ちょっとどころじゃなかったけど!!
「それでどのようなご用件でしょうか」
いつも通りの対応。さて、このやばそうな少女は何しに来たのだろうか。
「冒険者登録をお願いします」
少しだけ考える素振りを見せてから、少女はそう答えたのだった。
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