006:準備


 一通りログハウスを確認すること数十分。


「寝るところないのかと思ったら屋根裏部屋にあったのね」


 端っこの方に上げ下げ可能な階段があってそれを上ると屋根裏部屋に行けた。そこにはベッドとランプ、ちょっとした机と椅子、クローゼットがあった。後は簡単な窓ガラスが1つ。


「おお……いい感じ」


 それとこの階段は屋根裏部屋側でも上げ下げできるようになっているっぽい。いいね、こういうの好きだよ。


「生活の基盤は何とかなりそうね」


 後は食材とかだろうか? ベッドは布団もセットで設置されているから別で用意する必要はなさそう。


「食材もそうだけど、調味料とかも欲しいところね」


 行く行くは畑を作ってみるのもいいかもしれない。田んぼも。近くに水はあるから田んぼも作ろうと思えば作れそう。

 え? 勝手に家を建てて大丈夫って? この森は実際のところ、どの国の領土でもなく中立となっているから問題ない。まあ領土にしたくとも魔物が強いから諦めているって感じかもね。

 それにこの世界、別に日本とかみたいにどこが誰の土地で誰がこの土地を買っているかとかその辺は結構杜撰っぽいね。街とかだってどこの貴族が納めていて状況がどうかとか、その程度。嘘の申告し放題だね。そういう類の貴族ならやりかねない。

 因みにそういう行為は発覚すると当然、罰せられる訳で一番重いと処刑、その次だと国外追放とか云々。そこまで行くのは国家反逆とか犯した場合だけど。


「ふむ」


 ここで1つ、問題が発覚。

 調味料とか食材を手に入れるには街とかに入って買ってくる必要があるという点。魔物の肉とかならこの森でも手に入るけどその他の食材や調味料はそういうところに行かないと手に入らないだろう。


「生成で作ろうと思えば作れるけど……」


 それはあくまで地球のもの。

 あまり地球のものを持ち込むのは良くない気がするし、それだと何より依存してしまう。この世界で暮らすならこっちの世界のもので何とかしたい。


「まあどうしても欲しいやつは別だけど」


 頼り切りにはしたくないのでそっちも考えないとな。

 話を戻そうか……つまり人里を探す必要がある。それだけではなく、そういった人里……街や村に入るには何か身分を証明できるものが必要だ。


「神眼さんによると、身分証を手に入れる手段は大きく分けて3つ」


 1つは国に留まり、国内に街や村にて家を購入し、身分を購入して暮らすこと。宿の利用は対象外。

 要するに国民として暮らすこと。ここは地球でも同じで税を払う必要も出てくるが国民となるため身分が確定するし安定して暮らせる。

 身分を購入というのはちょっと語弊があるかもだけど、これは保証金の一種。だからそれなりに金額を取られる。まあ、普通に考えて身分のないものに身分を与えるというのはそれなりにリスクがある訳だしね。

 家も購入しないといけないという制約もある。だからかなりお金がかかる方法だと思う。その分、安定した暮らしは出来るけどね。国の保護も一応受けられるわけだし。

 後、身分証の発効までにそれなりの時間を要する。


 2つ目は1つ目とあまり変わらないが……何処かの家族の養子になること。平民でも身分がしっかりしている家であれば問題ない。貴族の養子となっても当然身分を手に入れることはできる。平民であれば納税の義務はもちろん発生する。こっちは割と早めに発行されるし、貴族であれば最短1日程度で出来るとのこと。

 まあこれも選択には入らないかな。貴族の養子とかどう考えても厄介だし、そもそも何の利もない者を養子にする訳がない。平民だって家族が1人増える訳だから負担も当然増えるし、好き好んで養子にする人は居ないだろう。居るとすれば……いややめておこう。


「どっちもナシだな」


 街にもよるけど街に入る際に、入場料という名の保証金を支払えば一時的に滞在することはできる。もちろん、入らせないっていう街とかもあってその辺りは領主次第かな。

 村については別に普通に入れるところがほとんどだ。ただよそ者嫌いな村もある訳で、そういった場所では良く思われない。


「いちいち払うのも面倒よねぇ」


 お金は特典だか何だか知らないけど、それなりにあった。1ヶ月は贅沢しなければ暮らせる程度には。でもいちいち支払ってたら出費が痛い。現状、収入の方がないからね。


「まあ……何も食べなくでも生きれる身体ではあるけどさぁ」


 で、ここで上とは異なる3つ目の方法の出番だ。

 3つ目は各地にある冒険者ギルドで登録し、冒険者となること。ファンタジー世界によくある組織だね。この世界にもあるらしい。

 何をするのかと言えば、まあ普通に依頼をこなして報酬を得るという至ってシンプルな職業。ただ依頼によって報酬がぶれるし、安定した収入を得られるかは運次第、実力次第。でも簡単に稼ぎやすいという点ではメリットかもしれない。

 話を戻すと、この冒険者ギルドに登録すれば基本的に冒険者ライセンスが即日発行される。このライセンスは身分証としても使えるので持っておくとかなりいい。

 基本的に年齢制限はなく、だれでも登録が可能だ。ただ登録したては最下位ランクからのスタートとなるため、そんな稼げない訳だけどね。


「これが一番楽で無難よね」


 注意点としては一定期間、依頼を受けなかった場合降格する場合がある。更にひどいとライセンス無効処置を取られる場合もある。まあこっちはその前に警告が来るらしいけど、降格の方は特になく冒険者ギルドに寄った時に通達されるみたいね。


「……んー」


 まあ一定期間空けなければ問題ないか。ちょっと面倒かもしれないけど、これもこの世界での暮らしのため。それに力はあるのだし……目立つことはしたくはないけど、状況によりけりかね。

 依頼とは別に冒険者ギルドでは素材とかの買取もしてくれていて、基本的に相場の価格で買い取ってくれる。ただモノによっては鑑定屋とか買取店、お店とかで売った方が高くなることもある。その反対も然りで買い叩かれる可能性もある。

 安定したギルドで売るか、ちょっとリスクを負うかのどっちかになる。まあ、わたしの場合は神眼スキルがあるので買い叩かれてるということとかは分かると思うけどね。


「登録するか。ただこの見た目だと嫌な予感しかしないのよね」


 手ぶらで行くのは避けた方がよさそう。元より手ぶらで行く考えはなかったけどね……この大鎌とか結構目立つけど、でもこれを軽々と持っているわたしを見れば牽制くらいにはなるよね。


「うーん、身長140センチにしたのは失敗だったかしら」


 いやぁ、自分がシルフィーになるとは思わなかったし……。

 でも一応違和感は消えている。これもたぶん、このシルフィーという1人の少女になったから、だろうけど。


「よし」


 大鎌を手に持って街がある方へ……まずは異世界への第一歩である。別に今更後悔はしてない。このキャラは自分が作り上げたのだから。


 ……とりあえず、大鎌にも何か名前を付けた方がいいかもしれない。大鎌だけだとちょっと分かりにくいし、武器としての大鎌は他にも存在しているだろうしね。


 そう思いながらも神眼で見た街の方へ、わたしは歩き出すのだった。



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