009:散策


「異世界飯、うまし」


 いや、ちょっと物足りない感はあるのだがそれでもそれなりに美味しい料理があって安堵する。

 レストリアは知っての通り、人の出入りが激しく賑やかな街だ。活気があるとも言う。だからこそ、当然だがお店とかもかなり多い。レストリア自体もかなり広い街だし。


 一応、街としては城塞都市とも言える。

 というのも、このレストリアはそれなりに高い城壁で囲われている。でもって、詰め所や城壁の上には兵士が立っている。異世界あるあるな街の形をしているけど、そもそもこのすぐ近くに魔の森ことマジカルフォレストがある訳で警戒しない方がおかしいのである。

 人も多いから治安維持もそれなりに大変だろうし。


 それと普通に壁のある街よりも規模が大きい。国の力の入れ様が伺える。


<基本的にこういった城壁がある街はレストリアの半分くらいの高さですね>

「ふむ」


 ということである。

 で、今喋ったのが誰なのかと言えば……察しがいい人なら分かると思うけど神眼スキルさんこと、スールさんである。名前決めたのだ。

 スールさん曰く、名前が付いたことで存在が確立し1つの個体として意思を持ったそう。因みに名前の由来は見通す? スルーから取った。スルーさんだとなんかあれだったので伸ばし棒の場所を変えてスール、とした訳だ。声は女性のもの、というかわたしに似た声になっている。


<新たなスキルとして”叡智”が覚醒しました。ただこれは神眼と統合されるため表示はされません>

「叡智って何……」

<そのままの意味ですね。この世界の全てを知識として与えられるスキルです。神眼と同じようなものですが、これの効果によって理解しやすくなります。また、どんな大きな情報を見てしまっても負担がなくなります>

「なるほど?」


 つまりあれか。

 全てを見ようとしてしまった際に襲ってくるあの激しい頭痛がなくなるってこと?


<おおよそその通りです>

「おー……でもそこまで見ることってあるかしら」

<ないですね>

「えぇ……」


 まあ、スールに聞けば何でも分かってしまうから確かに必要性は感じないな。


<そういうことです。まあでも仮に事故で全部見てしまった際とかにはいいでしょう>

「それはそうね」


 何らかの拍子で油断してしまい、全情報を見てしまった際とかあの激痛が来なくなるというのは保険としてはいいかもしれない。


<既に魔法を理解していた時点で叡智の覚醒の兆しはありましたけどね>

「あ、そうなの。もしかして他の属性の魔法まで使える?」

<可能です。叡智によって属性の魔法を理解したのでシルフィーの頑張り次第で習得できるかと>

「あ、ポンって使える訳じゃないのね」

<普通はそうです。シルフィーの場合は既に最初から暗黒魔法と神聖魔法を習得しているので分かりにくいかもしれませんが>

「そう言えばこの二つって闇と光の上位互換なんだっけ」

<肯定します。というより最上位です>

「……」


 最上位だったか。


「ま、まあ……力があることに越したことはないわね」

<肯定します。力があるほど生存性も上がります。シルフィーの場合は既に安全圏になっていると思いますが>

「あー……うん。あの死への誘いね」

<はい。死への誘いは最凶クラスのスキルです。こうしてわたしが意思を持ったのでシルフィーはスキルを使うか使わないかを選ぶだけですね>

「あ、そっか」


 今までは神眼で見てから魔眼で死への誘いを発動させるという手間があったけど、それをスールに任せることで手間をなくし、わたし自身は対象を選んで使うだけになる。


「チート過ぎない?」


 死への誘いについては使う機会がなければいいけど。魔物相手ならいいけども。


 話が逸れたから戻すけど、この世界の料理はそこそこ美味しいし種類もそこそこなので食事に関しては困ることはなさそうだ。

 若干の物足りなさはあるけど、その辺りは自分で何とかすればいい。一応地球では一人暮らしをしていた訳で、ある程度の料理は可能である。


「他の属性の魔法って覚えた方がいいと思う?」

<否定します。シルフィーのレベルであれば他の属性はいらないと思います。暗黒魔法と神聖魔法だけでも一生暮らしていけます>

「ふむ」

<火属性等の魔法が使えなくとも、簡単に火を扱える方法も存在しますし普通に生活する分には問題ないと判断します。それにシルフィーの場合は不老不死ですし、神ですからね>

「神、ねえ。あまり実感湧かないけれども」

<神というよりかは現人神あらひとがみの方が適切ですね>

「まあ、わたしはただのんびり暮らせれば問題ないわ」


 スローライフ第一である。

 でも、こういうさ、スローライフ系の話って地球でもよく見るけど、スローライフできたためしがないよなぁ。わたしもそうなるのだろうか? いや、なりたくないけどさ。


<それをフラグと言います>

「分かってるわよ」


 それにしても、何というかどんな料理があるのか気になって色々巡っているけどなんか視線を感じる。結構な視線を。


「まあ原因は分かっているけど」

<その見た目でその武器ですからね、大丈夫だとは思いますが敵意の混じったような視線もありますので注意を>

「それはなんとなく分かってた」


 手を出して来るのであれば、こちらも相応の対処をするつもりだ。平和主義ではあるけど、それで自分が死んだりしたら意味がない。

 地球人とは思えない発想かもしれないけど、この世界はあっちよりも命が軽いから仕方がない。治安も向こうと比べれば悪いし。


「今のところ、こっちに来る感じはしないし無視ね」


 警戒をスールに任せ、再び街の散策に戻る。もちろん、自分でも警戒はするけどね。



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