010:新スキル覚醒?


「このくらいでいいかしらね」


 その後、特にこれといった問題は発生せずに杞憂に終わったことに若干安堵しつつ、散策を続けていた。

 で、今何しているのかと言えば……食材や調味料を買い漁っていると言えばいいだろうか。料理するにもまずは材料がなければ意味がない。それと同時にこの世界にはどんなものが売っていてどう言ったものがなく、どれが高級なのか……まあ市場調査も兼ねている訳だ。


「ざっと見た感じだと野菜類は地球とそう変わらないわね」


 キャベツやらレタスやら、トマトやら……その辺りの野菜は普通に売っていたし栽培もされている様子。食材には困らないかも。

 野菜類はそんな感じで、肉類については魔物の肉か動物肉かのどっちかになる。食用というか食べられる魔物の肉はそれなりにあって意外にも種類が多い。


「まあそもそも……」


 魔物自体、動物が変異したような見た目をしている。

 魔物の出現については謎が多く、現状倒しても倒しても何処かから生まれてくるという結論に至っている。その何処かが未だに分かっていないし、そもそもその場所というのが存在するかも怪しい。


 ただ一定の数より多くは生まれることはなく、何らかの上限があるのではないかと考えられている。増え続けているのであればいつ溢れて人里になだれ込んできてもおかしくないはずだしね。

 魔物自体かなり昔から存在している訳で、そんな長い年月の間増え続けていたら世界は魔物に覆われつくされていても何もおかしくないのだ。それがないってことは上限のようなのがあるのではないか、と考えるのも納得である。


「よく分からないわね」

<魔物についてはわたしでも分かりませんね。ただ魔物には数があって、それらを倒すことで倒された分の魔物がどこかでまた生まれるとされています>

「なるほど?」


 人間たちというか、この世界には他にも獣人やエルフと言って種族も居るけど、それらが魔物を倒すとその倒した分だけ補充される、ということなのだろう。


「でもスタンピードとかは起きているのよね」

<肯定します。主にダンジョンの魔物が外に出てきてしまう現象が稀に発生しています。また、何らかのきっかけで魔物が爆発的に増えて人里を襲うことも発生していますね>

「原因は不明?」

<はい。特にダンジョンは謎が多いので>


 謎が謎を呼ぶとはこのことだろうか。

 とはいえ、別にその辺は興味がない。異世界の生態系は確かに気になるけど、実際に体張って調べたいかと聞かれればノーである。スローライフにそんなものはいらない。


「さてと、今日はもう帰ろうかしらね」


 日が沈み始めている。

 レストリアで宿をとることも考えたけど、ログハウスの方が安全だろう。それに今のところは余計な出費は控えておきたいし。


「街に居ると面倒事とかあるかもしれないし」


 スールにも聞いたけど、確かにレストリアは国が総力を挙げて発展させている街なので治安は王都の次くらいにはいいが、それでも完全に安全とは言い切れない。日本だって結構あっちこっちで事件が起きている訳だしね。


「人が居る限りそういうのは消えないものね」

<消してしまいますか?>

「いやいや!? 何言ってるのスール!?」


 怖いよ! そんなことはしたらわたしも消えるでしょ。


<シルフィーの場合は神ですし、対象からも外すので大丈夫ですよ>

「いやいやそれでもそんなことはしないよ!?」


 世界が寂しくなるでしょ。


「さ、帰るわよ」

<了解しました>


 とまあ、とんでもないことを提案してきたスールについては置いとくとして……まあスールも冗談で言ってたと思うし……冗談よね?

 とにかく! 今日は引き上げることにするのだった。





□□□





「ふぅ」


 場所変わってわたしのログハウス。

 すっかり日は沈んでしまい外は暗い。ただこの湖が謎の発光現象を起こしていて外がそこそこ明るい。いやなんで発光しているのって突っ込みたくなったけど、ここは異世界だしそんなこともあるだろうと言い聞かせた。


「突っ込むだけ疲れるし……」


 とりあえずそういう湖なんだと思う。名前は分からないけど。


<ここの湖に名前はありません。そもそもここまで人間が踏破できていないですからね>

「あ、そうなの」

<位置としては最奥部付近なので今の人類ではたどり着けないでしょう。それにこの湖周辺は結界が張られていますから>

「あーやっぱりそういうの張ってるのね」

<はい。シルフィーの予想通り、湖の底に結界の魔法陣を確認しました。間違いなくこれがここの空気が澄んでいる原因でしょう>

「緩んでいるとか、結界が壊れそうとかはない?」

<肯定します。特に解れは確認できません。当分は問題ないでしょう>

「まあ最悪、わたしが張りなおすって言うのもできるだろうし」

<肯定します。神聖魔法を持っているので問題なく張れます。それもこの結界よりも強固なものにできるでしょう>

「あ、そうなのか……でもまあ、今はいいかな」


 とりあえず、今はいいや。

 しかしここが最奥部に近い場所なのか。確かに稀に見慣れない魔物が居たけど、別に普通に倒せたし……それはいいか。


「妖精の泉――フェアリーレイク、なんてね」


 なんか光ってるし妖精って言ってもおかしくない気がする。

 まあ、ネーミングは適当である。それっぽい単語を合体させただけっていう。自分のことながらセンスないな……。


<妖精の泉、フェアリーレイクと命名されました。命名者”シルフィー” これに伴い”シルフィー”が妖精の泉の所有権を取得しました>


「えっ!?」


<領地を取得したことで新たなスキル”領地経営”が覚醒しました。また妖精の泉の範囲に生息する種族を持たない全ての個体が”妖精族”へ特殊進化しました>


「え、ちょっと待って待って!?」


 続け様に流れるスールのアナウンスに理解が追い付かない。え? 領地所有? どういうこと?


<領地取得に伴い、張られていた結界が再度張り直されました。術者の上書きにより、結界は”シルフィー”の聖力に依存するようになりました>

「!?」


 瞬間、この辺一帯にあった聖力の気配が一気に強まり、全体を包み込んだ。はっきりと分かる、聖力。明らかに先ほどよりも強くなっている、この感じ。


「わたしの……聖力?」

<肯定します。シルフィーは神……性別的に言えば女神でしょうか。女神であるため桁外れの聖力を保有します。正確には聖力よりも強力な神力というべきですね>

「神力……」

<はい。名前の通り神の持つ力を示し、聖力よりも強力です。というよりそれ以上のものは存在しません>

「うわ」

<その影響で張っていた結界が聖力よりも上位の神力へ上書きされました。この妖精の泉周辺の結界は、最早本人以外破壊は不可能と言っていいでしょう。少なくとも現在この世界で生きている種族では壊せないと断言します>

「まじか」


 いやそれよもりだよ。いやこれも中々おかしいけど、その前!


「領地経営って何よ」

<シルフィーに分かりやすく言うのであれば領地経営機能がアンロックされました、でしょうか。詳しくはスキルを使えば理解できると思われます>

「……」


 名前からして予想はできるけど……仕方ない確認してみるか。



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