004:盗賊のアジト(笑)を抜けると森だった


 盗賊のアジト(笑)から抜けると、そこは森の中だった。

 アジトだし、そういう場所にあるよな……張りぼてとは言え、街の中に堂々とあったらそれはそれで流石に笑えない。


「……うん。感じる」


 森に出て感じたのは幾つもの生物の気配。アジトの中とは違い、ちゃんと動物やら何やらが生息しているようで安心した。

 お約束であればこういう異世界には敵対生命体が居ると思うんだよな。魔物だとか魔獣だとか……魔王とか? 魔王は何か違うか……いやそもそも魔王なんて居るのだろうか。


「考えても仕方がないか」


 大鎌を両手で持ち、いつでも戦闘態勢を取れるようにしつつ足を進めていく。

 覚醒とか神とかそういうやつの影響なのかは分からないが、非常に冷静であることに内心驚いている。最初気付いた時だってそうだし……最初こそは混乱を極めていたけど、いつの間にか落ち着いていた。


「……キャラの記憶の影響かな」


 盗賊のアジトは本当に手抜きもいいところだけど、キャラとしての記憶、出自等はこの頭の中にちゃんとある。


「そう考えると……この子の人生を狂わせたのはわたしになるのかな?」


 憑依……ではないと思う。身体も何もかもが自分のものだと確信できるから。

 覚醒がトリガーで記憶を思い出した、的な感じかもしれないな。設定通りであれば……何せ、色々と考えて作り出したのがこのシルフィーだからね。


「その辺はがっちり反映されているのね……」


 わたしが作らなければこの子は居なかった。同時にわたしが作ったからこの子は生まれ、辛い人生を歩んでしまった。


「なんか……複雑」


 でも大丈夫。自分で作ったキャラなんだ。これからはちゃんと幸せにするというか、幸せにならないとね。


「恋愛方面はたぶん無理だけど」


 だって一応中身はわたしというか、俺な訳だし……こっちまでは流石に染まってない。なので俺としての恋愛対象は女性になる訳で。


「同性愛、になるのかな」


 仮に好きな女の子が出来たらそうなるよね。当分は考えるつもりはないけど。まずは生活を安定させなくては。


「おっと……魔物のお出ましみたいね」


 気配に敵意を感じ、すぐに戦闘態勢に入る。


「フォレストウルフ。うん、見た目オオカミよね……」


 森とかに多く生息する魔物らしく、基本的に群れで行動するとのこと。素早く、森の中でも俊敏な動きをし、地形なんてなんのそのだとか。

 ただ、ある程度慣れてくれば倒せる魔物らしい。とはいえ、初心者とかにはお勧めできない、というか逃げるべき魔物だけど。


「森のそこそこ奥の方に居るって書いてあったけど」


 もしかしてわたしが居る場所ってそのそこそこ奥なのだろうか。この場所に盗賊のアジト……いや何も考えるな。きっとここの盗賊はそれなりに強かったのだろう。そういうことにしておこうじゃないか。


「まあ……場所も正体も分かっていれば隠れていでも無駄ね」


 スキル――魔眼、発動。

 スキル――死への誘い、発動。


『GYU??!!』


 魔物の断末魔が聞こえる。向こうからしたら突然、やられたのだから魔物でも驚くだろう。そのうち、魔物の声は聞こえなくなって行き敵意を消滅する。


「……このスキルやばいわね」


 神眼で場所を特定、敵を視認したら魔眼でそれを見てスキルを使えばそれでもう終わりとなる。死に方とかを特に指定しない場合は即死するっぽいかな。


「凶悪過ぎるわ……人の前ではできる限り使わないでおこう」


 できる限り、ね。

 あ、でも……目の前で使ってもスキルを使ったことを悟らせなければ使える? いや、そんな堂々と人の命を奪う真似はしないけども。最悪の場合、使う必要が出てくる場面だってありそうだし。


「基本は魔物相手に使うことにしようかな」


 このスキルを使わなくてもわたしには他にも攻撃手段があるからそっちでもいいのだけど。魔法とかじゃなくてもこの大鎌でもやっていけそう。なんかスキルに神域・大鎌っていうのもあったし。


「武器スキルというか適性みたいなものらしいね」


 因みに神域が最上位であり、その下に超越、達人、上級、中級、初級とあるらしい。適性みたいなものなので、最初から高い適性がある場合は中級だったり上級だったり、そこからスタートする人も居るらしいよ。初っ端から達人という例は過去に存在しないとのこと。


「神眼さん、ぱないっす」


 なんか神眼スキルがふんすってしているような気配を感じたけどたぶん気のせいだろう。


「現在位置は……魔の森、通称マジカルフォレスト、ね」


 え、魔の森はなんかあれだけどマジカルフォレストって……急に緊張感なくなるなぁ。

 どれどれ……セントラル大陸の最北端に広がる大森林で浅いところまでであれば人の出入りは多いけど、その先からは滅多に人が入ってこない森?


「理由は……ふむふむ。ダンジョンに似た性質を持っているとな?」


 浅いところはそこまで強い魔物は居らず、むしろ初心者や初心者よりの中級者が腕を磨くために居ることが多い。ただし、奥に行くに連れて魔物が強くなってくるらしく、最奥部まで行けた者は誰一人居ない、と。行こうとした者も居たが旅立った後、何の音沙汰もなく連絡も途絶えた者がほとんどで生還した者は少ない。


「それもあって行っても中層くらい、らしい」


 強い人というか上級者であれば奥……ダンジョンのように表現するのであれば下層でも安定して戦えるし帰っても来れてるみたい。


「そもそもダンジョンって何……」


 あー理解した。一瞬で神眼さんが教えてくれました。隙がないね……。


 ……ダンジョンは簡単に言うと突発的に出現した異空間。特に場所に条件はないらしく、あっちこっちで目撃情報がるらしいよ。

 見た目とは違って中は広く、階層型になっておりフロアを進むと景色が変わったりとか魔物が変わったりとかするらしい。そして大体5階層ごとにボス……他の魔物とはレベルの違う強さを持つ魔物が配置されているらしい。

 特に10階層毎のボスは強力な魔物が多く、討伐には危険が伴う。ただ、お約束みたいにボス部屋に入ったら出られないっていう仕様ではないらしいね。


「でもそういう仕様のダンジョンも稀にある、と」


 多くの資源や富を得られる代わりに危険性が高い。ハイリスクハイリターンなのがダンジョンとのこと。ダンジョンの最深部にはコアがあって、それを壊すとダンジョンが消えるみたい。

 ただ、一回きりというのは損しかなく、あえてコアを壊さずにダンジョンを残し、そこを起点に街を作っているところもある、と。


 コアさえ壊さなければ魔物やボスは一定時間経過後に復活するし、必ず置いてある宝箱の中身や、資源とかもリセットされるみたい。ただ中身はランダム。現状、ダンジョンは謎が多い場所とされている。


「なるほどね」


 一度踏破記録があればボスの特性とかも分かるし、安全面は上がるか。ただたまに特殊個体……分かりやすく言うならレア個体が出現することもあるらしい。


「それが出たら大惨事ね……勝てないと分かれば逃げるという選択肢をとる方が利口」


 特殊個体というのは同じ魔物個体でも特殊な攻撃や、攻撃パターン等に差異があることがほとんどで、耐久面でも異なっている。逆に耐久が低くなるっていう例もあるけど、それはその分他のところが強化されているということ。


「ゲームみたい」


 それ。

 とはいえ、ダンジョンにはちょっと興味がわいた。生活の基盤とか出来て安定したら行ってみるのも手か。


 そんなこんな考えつつ、森を進むのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る