002:シルフィーになってる!?


「イタタタ……何だったんだ本当に」


 地面に叩きつけられた衝撃と痛みで目を覚ます。

 ……謎の白い空間で変な装置でキャラメイクをして確定ボタンを押したというところまでは覚えている。その後、意識が途切れたんだと思うが……。


「ん?」


 起き上がり、たらりと垂れてきた髪の毛が視界に映る。そこでは違和感を覚えた。


「銀……髪?」


 垂れてきた髪を見ればそれは銀色をしており、嫌な予感がしてくる。あと声がおかしい。

 試しに髪を一掴みし、引っ張ってみると頭に鋭い痛みが走る。つまりこれはの頭から生えている、髪の毛なのは間違いない。

 がしかし、垂れるほど長いはず無いし、そもそも髪の色は日本人特有の黒であったはずだ。


「……あははは」


 胸を触ってみる。小さいながら、柔らかな感触が伝わってくる。


「ひゃあ!?」


 更に弄ってみると、感じたことのない謎の感覚に変な声が出てしまう。

 何かの悪い夢かと思ったが、ほっぺを抓っても痛いだけだし、空気もまるで本当に外にいるような感じもする。


「まじかよ……」


 最後の希望と言わんばかりに、手を下半身の方に伸ばすが……失くなっていた。相棒が居なくなっていたのである。


「……」


 長い銀色の髪に白い肌。

 自分のものとは思えない声……そのまま視線を下に向けて見れる範囲で服装を確認してみる。うん……なんか見覚えがある。

 色々と混乱しつつも……は1つの答えにたどり着く。と言うかそれしかない気がする。


「シルフィーになってる?!」


 そして……すぐ近くにはこれまた見覚えのある真っ黒な大鎌が置かれている。

 ここまで揃えばもう、何も否定できない。あの白い空間で作ったキャラ……”シルフィー”になっているようだった。





□□□□□□□□□□





「まあ、良いか」


 あっさりと、すんなりと受け入れた。

 これが最近流行りの異世界転生というやつなのだろうか……まだ異世界かは分からないけど何となく地球ではない、そんな気がする。


 地球での暮らしは別に可も不可もない、平凡な物だったし、未練も特にない。両親は既に居ないし、交流関係もあまりない。

 日々、自由に生きていたと思う。何というか空っぽのような、そんな毎日。仕事をしてお金を貰って生活と趣味に費やす。

 特にやりたい事も目指したいこともなく、ただただマイペースに。オンラインゲームだって面白そうって感じでやったりしてた。


 これは転機なのではないか?

 非現実的な体験ではあるものの、実際こうなってしまっているし、どうこう言っても意味はない。目の前で起きているこれこそが現実なのだ。


「でもさ……性別変わるのはおかしくない?」


 そりゃ、キャラメイクしたのは自分自身だけどさ……誰がこうなると予測できたよ! こうなること知ってたら男で作ってたのに。

 とはいえ、この”シルフィー”も自分の理想の姿でもあるんだろう。確かにいつかは忘れたけど、女性になってみたいって思ったことはある。

 女の子で可愛くて強いって最強じゃない? と思っただけである。あの頃は魔法少女とかそういうのが流行っていたと思う。魔法少女は今でも流行っているが……。


 ゲームでは基本的に女性を選択する。理由はネカマがしたい訳ではなく、操作するならやっぱ可愛い子が良いっていう発想からだ。

 それに、大体のゲームって女性アバターのほうが優遇されがちで可愛いものとかいっぱい出てくるし……男キャラはやはり不遇なのだ。


 因みにネカマプレイはしていない。ぶっちゃけ、フレンドとか作る際は男であることを公表するし、プロフィールにも男と堂々と記載している。だってそういうプレイがしたい訳ではないしな。


「シルフィー、になってるのは確定だろうね」


 十中八九、あの時キャラメイクした”シルフィー”になっていると思う。

 視界に入った両手鎌を試しに持ってみる。両手じゃないと持てないと思ったけど、そうでもないらしく、普通に片手でも持てたわ。


 どうやらこの身体はかなりの力持ちらしい。目線がかなり低くなっているのは気になるけど……。


「よし、切り替えていこう」


 軽く頬を両手でパチンと叩いた気持ちを入れ替える。

 女って言うことはまあ、完全納得とは行かないが……なってしまったものは仕方がない。それに、作ったのも自分自身だしな。文句を言うのは筋違いだろう。

 ……まあ、自分がなるってことが分かっていたら男キャラにしていたかもしれないが。これはさっきも言ったか。


 今更か。もう手遅れだろうし……何も言わないでおく。


「まずはえっと、ここが何処かってところからだよね」


 あとは一人称をどうするか。

 渾身のキャラである”シルフィー”は、設定として”わたし”としている。一人称の設定項目もあったからそうしたんだけど……。

 というか待て。なんかすごい自然に聞き流していたけど、自分のこと俺はなんて言っていた?


「俺……


 ……俺という一人称の方に物凄く違和感を覚えるこの感覚。

 もしかして、設定が影響している? 気を抜いて話すと普通にわたし、と自分のこと言っているし、違和感もない。


「なるほどね」 


 多分そういうことなんだろう。

 ふと、周りを見てみれば……何かしらのアジトっぽい場所。今更ながらはっとなる。シルフィーの設定としてはどう書いていた?


「……盗賊に襲われて覚醒」


 そう。そういう設定で作ったはず。

 何処で、までは考えてなかったけどその辺りは勝手に選んでくれたのかね? どう見てもここアジトっぽい場所だよなあ。


「……」


 改めて周りを見る。

 粉々に砕かれた何か分からない残骸。辛うじてリング状である物ということは分かる。


「手枷足枷と言ったところかな」


 分からないけど。わたしのことを拘束していたもの……だと思う。それが壊れているってことは既に覚醒した後ってことかな?


「人の気配も何もないな」


 まるで設定の為だけに作られた場所的な?


「まあいきなり死体を見せられるよりはマシ……か」


 まずは状況確認と整理から始めようか。




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