TS転生した少女は異世界でのんびり過ごしたい

月夜るな

001:始まりの白い部屋


「うぐ……」


 変な声を出すと同時に俺の意識は覚醒する。起き上がりながら周囲を確認するも、何というか殺風景な場所だな。


「何処だここ」


 殺風景で一面が真っ白な、白い箱の中のようなそんな空間。ただ、部屋の中央には良く分からない装置が有る。


「何でこんな場所に……うーん?」


 まさか誘拐か!? ってそんな馬鹿な。女の子なら分かるが、俺はもう男でしかも既に成人してる会社員だぜ……? こんな俺を誘拐してどうするって話だよな。

 身代金? いやそれはないな。俺の両親は既に他界してるし……親戚とか知り合いもあまり居ない。俺は一人暮らしをしてる身だしな。


 それはともかく。

 記憶を整理しようか。目が覚める前……気を失ったであろう前を思い返してみる。金曜日で更に定時にあがれて、意気揚々と帰宅したよな?

 うちの会社は完全週休二日制で、土日は基本休みで、中小企業では有るもののホワイト企業と言っても良いと思う、多分。


「今日の夜にリリースされるオンラインゲームやりたかったのに」


 良くあるMMORPGだけど、面白そうって事で事前ダウンロードをしていたし、金曜日の定時上がりってことでサービス開始と同時に遊べるはずだったんだが。


「家に帰ったまでは良いか。その後がはっきり思い出せんな」


 考えても仕方がない。

 この何も無い謎の空間で、自己主張の激しいあの真ん中にある装置、あれぐらいしか気になるのはないよなぁ。


「……パソコンか? てか、何で浮いてんの」


 近づいてみると、それは良くあるデスクトップPCのような物だった。スクリーンは一つあって、キーボードとマウスが置かれてる。

 ただ肝心な本体が見当たらない。他にはこのキーボードとマウス、スクリーンが置いてあるテーブルの上空に浮く、謎の丸い球体くらいしか無い。どういう原理で浮いてるか分からんけど、謎な装置なのは間違いない。


「何々……理想のキャラを作ろう! キャラクターメイキングはこちら……何処のゲームの宣伝だよ!?」


 巫山戯てるのか、と言いたいけど現状これくらいしかヒントみたいなのはないよな。


「てか、本体無いのに動くのか……」


 マウスを操作すると普通のパソコンのように、カーソルが動く。で、キャラクターメイキングはこちら、と書かれてる文をクリックすると画面が遷移する。


「ゲームじゃん」


 遷移先の画面では、何というかMMORPGやってる人なら誰もが知ってるようなUIが表示される。

 そう、アバターの作成というやつだ。ゲーム内で自分の分身として操作するキャラを作るっていう定番なやつ。

 見た感じ、かなり細かいとこまで設定できそう?


「うーむ。よし」


 何が何だか知らんけど、取り敢えず何か作ってみるか。そんな訳で俺はアバター作りに手をかけるのだった。





□□□□□□□□□□





 体感数時間かかったような感じがするが、中々の渾身のキャラができた気がする。こんな状況で良くこんな怪しいものに触れるな、と我ながら思う。

 いつの間にか出てきていた額の汗を手で拭いつつ、作成したキャラクターを見てみる。かなりの自信作である。


 なんかさこれ、めっちゃ細かく設定できる項目があったり更にそのキャラに関する出自やら性格やらまで自分で設定できるようになってた。


「今どきの最新ゲームでもここまでのものはないぞ……」


 久しぶりに自分の集中力が極限になった気がするわ。


 で、話を戻そう。今回作ったキャラはこれである。

 まず、性別は女の子。髪色は銀色でロングのストレートと言いたかったが若干ウェーブがかかったゆるふわロングである。腰まで届いている。

 瞳の色は青と赤のオッドアイ。肌色は普通よりも白。病的な白さともいうべきか……でもそれがいい。

 全体的に小柄で華奢な身体になっており、身長は140cmちょっと程度。身長を弄る項目で身長の数値が右上に表示されてたので多分合ってると思う。胸は控えめ。

 そしてこの子はこんな見た目ではあるものの年齢としては20歳くらいにしている。まあ要するに合法ロリ? いいよね……いやそれは今は置いとく。


 そして服装は地雷系っていうの? フリルの使われた長袖ブラウスに黒のコルセットスカートをチョイス。フリルの付いた白い靴下に黒いローファーを履かせてみた。因みにスカート丈は膝よりちょっと下くらい。驚くことにスカート系のボトムズは長さを自由に調節できるみたいだった。

 そこまで普通するかって話になるけど、まあ……明らかに現実じゃないからな、ここ。


 ヘアアクセサリーとして黒いリボンを二つ付けてみた。それに合わせて髪型も変わっているっぽい?

 で……この服の上から黒を基調としたケープを羽織らせている。因みにこれは一般的なケープとは違い、肩と首回りが隠れるくらいの短めなやつね。で、首元で赤いリボンで結んでいる。おまけにフード付きだ。


 キャラの見た目としてはこんな感じ。

 それから武器とかも選べるようになっていたので結構な種類が表示されている中、俺が選んだのは真っ黒、漆黒という言葉が似合う大鎌だ。チェーン付き。如何にも死神が持ってそうな大鎌である。


「小さい身体で大きい武器を振り回す女の子っていいよね」


 少数派かもしれないが。


「名前はシルフィー、種族は暗黒聖天使。完璧じゃないか!」


 種族やらなにやら選ぶところもあってさっきも言ったかもしれないが、非常に細かいところまで手が届くっていうね。

 設定としては元は人間の少女だったが、盗賊に襲われ身を弄ばれそうになったところで突然覚醒して暗黒聖天使とやらになった少女。因みに天使……神に近い存在なので覚醒した時点で成長が止まり、不老不死になった、と。


「……覚醒少女っていいよね?」


 助けてくれなかった、というかむしろ、この子のことを厄介払いにしていた村に戻ることはせずに、そのまま旅に出るのだ……。


「我ながら変にキャラ設定しちゃった気がするわ」


 この種族はどうも暗黒聖天使ということで光と闇の力を持っているらしいよ? なんか簡易説明に書いてあった。

 光の力を使うと青い瞳が、闇の力を使うと赤い瞳が光る。両方を使うとオッドアイになる……という設定にしてみた。え? なんだそれって? かっこいいやん?

 まあ、光るっつってもそんなぎらぎらと光る訳ではなくほんのり輝くというべきか。


 ここでご都合設定として、別に力を使っていない状態の場合は赤色の瞳か青色の瞳か、自分で切り替えることができる。他の色に偽装することも可能にしておく。

 そして当然ながら天使と付いているので羽がある。基本的な色としては左側白2枚、右側黒2枚の2対4枚の羽となってる。これも隠したり出したり任意で切替可能としている。

 この羽もどちらか一色に偽装することが可能としておく。


「凝りすぎっていうの問題だな……」


 ただキャラ設定はかなり細かくできるが、よくあるようなスキル? 見たいなやつを選択することは出来なかった。注釈によるとキャラ設定を元に色々変わるらしい。


「ってか作ったのはいいけど、これ結局何なんだろうな?」


 とりあえず、最終確認をしてちょいと調節やらなにやらしてから確定ボタンを押してみる。現状これしか今のところ手掛かりないし……。


「確定っと」


 カチッとクリックする音と共に俺の意識はぷつりと途切れるのであった。





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