014:戦闘経験と救助


「よっと」


 大鎌――サリエルを片手で持ち、襲ってきた魔物を殴るように斬る。斬られた音は当たり前だけどリアルでちょっとだけ忌避してしまったものの、次の魔物を斬る。

 確かに忌避感のようなものはあったけど、ただそれだけだ。この身体と言うべきか、シルフィーの方に色々と引っ張られているのかと思う。口調もそうだけど。


「ぐぎゃぎゃ!」


 場所は下層。

 マジカルフォレストのそれなりに深い場所だが、最奥部付近よりかは弱い魔物が多い。と言ってもCからAランクくらいだけどね。普通の人からすれば強い魔物ともいえるだろう。


「ボブゴブリン、ね」


 ゴブリンの進化系らしいけど、あまり見た目は変わらない。とはいえ、これでもCランクなので油断大敵らしいけれどもね。

 ボブゴブリン・ウィザードや、ボブゴブリン・ソード等と言った派生の亜種も存在する。現に今、ボブゴブリンたちは5体。ボブゴブリン・ソードが2体、ボブゴブリン・ウィザードが2体、ボブゴブリン・メイスが1体と言うバランスがいい? 編成で襲ってきている訳だし。


「ゴブリンなのに知恵が回るのね」

<普通のゴブリンでは知能はないと言っても過言ではありませんが、ボブゴブリンやハイゴブリンと言った上位種となるとそこそこの知能を持ちます。それらを統率するゴブリンキングとかは更に知能や身体が強化されていますから>

「なるほど……ねっ!」


 解説を聞きつつもボブゴブリンたちを処理していく。

 ゴブリンの生態系についはもう話す必要がないほどのテンプレ魔物である。異種族の雌を攫って苗床というか、繁殖するという本当に嫌なやつである。

 異種族と言うのは人間や、エルフとかも含まれていて攫われた女性は救助が来なければ、まあ……うん。


「ふう」


 最後の一体を葬り、サリエルを持ち直す。

 斬った時の感触は残っているけど、不思議となんとも思わなかった。最初に忌避感を感じた以外は特に問題なく処理できてた気がする。


「身体に順応しているのかしらね」


 こっちの世界に身体、こっち向けの身体。この世界の常識……それらの方が前世の記憶よりも強くなっているのだろう。まあ、だからと言ってなんだって話だけどね。一応まだ地球での記憶は残っているから消えている訳ではない……と思う。


「ふむ……」


 周囲を警戒するも、さっきのボブゴブリン以外何も居ないっぽい。ボブゴブリンの前になんだっけ? 赤い毛皮のオオカミみたいなやつ。あれに複数遭遇したけど、特に問題はなかった。


<ブラッディウルフです。ランクはBに該当します>

「あ、そうそう。それそれ」


 最初に戦ったフォレストウルフよりかは強かったと思うけど。


<ウルフ種の魔物は派生が多く存在します。また上位種も同じように派生が存在しており、種類が多いです。フォレストウルフは普通のウルフが派生し森に特化した生態系になったウルフになりますので下位種というか最下位ですね>

「名前そのままなのね」

<その方が分かりやすいと判断したのでしょう。そしてブラッディウルフはウルフの上位種、ハイウルフの派生になります。人間でいうならバーサーカー……血に飢えたハイウルフで非常に攻撃的なのが特徴です>

「確かに狂った感じはしてたわね」


 しかし、魔物も結構色々と居るんだなと思う。同じ種でも派生とか上位種とかを入れると幅広い。


「……スール」

<はい。察知しました>


 そんなことを話しているところでそれを察知する。

 敵意……ではなく、これは恐らく……死にかけ助けてくれと言っているようなもの。誰かが危ない目に遭っている。


 別に他人事だし無視することはできた。それでもやっぱり地球人と言うか日本人の性か……わたしはその気配の方に向かって駆けだすのだった。





□□□





「……居た」


 見つけた。

 速攻でサリエルを握って今まさにその人を襲おうとしている魔物を叩き切る。突然乱入したわたしに狼狽えたそれを問答無用で処理する。


「数は5体……血に飢えているのね」


 既に3体は葬ったので残りは2体。動きこそ素早いが、それでもただそれだけ。わたしからすれば遅いとしか言えない攻撃を回避し、透かさずサリエルを振って切り裂く。


「4体目」


 最後の1体となる。完全に注意はこちらに向いているようで、あの子は問題なさそうだ。それなら早いところ処理してしまおう。

 最後に1体を見てサリエルを握って一気に距離を詰める。全く反応できていない魔物を躊躇なく切り伏せる。鎌なので切り伏せるというのは間違っているかもしれない。


「5体目、と。これで討伐完了ね。他に敵は居なさそう?」

<肯定します。この付近には今のところ確認できません>

「よし、じゃあのこの子を……」


 肝心な人影……それは小柄な女の子であった。


「あ……うん。いったん連れて帰ろうか」

<そのほうがよろしいかと>


 気を失っているだけではあるけど、ちらりと下の方を見てしまい何とも言えない気持ちになる。流石にこのまま返すというのはあれだし。


「よっと」


 女の子を持ち上げ、周りに人が居ないことを確認した後”ゲート”を発動させるのだった。

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