第九章 昇る朝日に照らされて


 



 等間隔に揺れる振動に違和感を覚え、目を覚ます。心なしか視線が高くなった気がして、すぐに自分が背負われていることに気が付いた。


 朝の陽光に包まれた街はまだ静かで、人々はまだ眠りの中にいた。いつも市場が立ち並ぶ大通りはまだ青い影の中で、露店の骨組みがじっと息を潜めている。無音の世界の中で、コツ、コツと歩く音だけが木霊する。


 「……どうだ、ユリア。この景色は」


 喉から出た声は思ったよりしわがれていて、少し恥ずかしい。ユリアはこちらを見ることなく、おぶったまま歩き続ける。


 「寂しい街です。人も生き物もいない、時が止まったような景色。きっとこの世界の誰もこの色を知らない、可哀そうな街」


 「そうか」


 「……この光景も刹那的なもので、きっとすぐに消えて無くなる」


 「嫌いか?」


 「……昼間よりは嫌いじゃないです」


 ───良かった。俺と同じだ。だったらきっと、もっと理解できる。


 「……この街にはまだ色んな景色がある。まだお前に見せてないものだってあるし、お前が最初に見つける景色だって多分ある。だからさ、まだここに居ろよ。ここで、お前が少しでも好きだと思ったものを教えて、そしたら俺も教えるからさ、どっちがすごいか二人で勝負するんだ」


 これでいいのだろうか。思った本心を伝えようとしたが、言葉が喉を通るまでに気恥ずかしさで勝手にフィルターがかかる。これで本心は伝えられたのだろうか。

 遅れてでも言葉を紡ごうとするバルクの口を、しかしユリアが封じる。


 「勝手に暴れて勝手にぶち壊して、今更何を言っているんですか。アナタが守ると言ったんです。約束はしっかり果たして。バルク・バードリック」


 「お前、俺の名前を……」


 「さあ、早速仕事です。アナタのことですからとっくに気付いているかと思いますが、私は今迷子です。道を教えなさい」


 「なっ、お前さっきから同じ道グルグル回ってると思ったらそういうことかよ!」


 「口答えしない。誰が今アナタの手綱を握っていると思っているんですか。私が上で、アナタが下です」


 「くそ、可愛げのない……! っていうかお前、俺のシャツ弁償しろよな! 高いんだぞあれ!」


 「命に比べれば安いものでしょう、アナタはお金でシャツではなく命を買ったんです。もっと感謝して」


 「なんだとてめえ……!」



 騒がしくなってきた大通りを不器用が二人、二人三脚で歩む。


 どうやら、喧噪な日々はまだ終わらないらしい。










 「───責任、取ってもらいますからね」


 後ろから見えた彼女の横顔。口元が、かすかに笑っている気

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