第8話 水族館の記憶

児童館からの小旅行で、学たちは地元の水族館を訪れていた。その広大なる水の展示は、見る者に深い感動と驚きを与える。しかし、美織学にとって、この場所はただの娯楽施設以上のものだった。彼には、これらすべての水の景色が、どこかで経験したかのような、深い懐かしさを呼び起こしていた。


彼がゆっくりと水槽の前を進むにつれて、その瞳は大きな熱帯魚や、ゆったり泳ぐエイ、そして迫力あるサメの姿に釘付けになる。その度に、彼の胸に去来するのは、同時に感じる畏怖と畏敬の念だった。魚たちのゆったりとした泳ぎには、何とも言えない荘厳さがある。だが、そうした生き物たちの間でいかにして食物連館が成り立っているのかを、彼は痛いほどよく理解していた。それは、前世がミジンコであったがゆえに、心の奥底に刻まれた生存の記憶からだろうか。


展示を一つ一つ鑑賞するたびに、学は時折、圧倒されるかのように膝をつき、視線を伏せた。この光景を見た麻衣さんは、彼の側にそっと近づき、優しく言葉をかけた。「大丈夫? 休憩が必要?」彼女の温かい視線に触れ、学は少し心を落ち着かせることができた。彼女はいつも彼の変わったところを理解し、偏見なく受け止めてくれる数少ない存在だった。


学が見せるこのような振る舞いは、彼の中にある深遠なる世界の認識と、どこかの時代からの繋がりを物語っていた。彼の振る舞いには、ただの子どもの恐がりというよりも、はるかに複雑で深遠な背景があるのだ。


学のこの一日は、彼自身にとって、前世の記憶との葛藤と、そこからの受容に繋がる重要なステップとなった。水族館を訪れることで彼の内面にある恐れと直面し、またそれを乗り越える勇気を持つに至った。麻衣さんの寄り添う優しさは、彼が直面するあらゆる試練を乗り越えるための、大切な助けとなったのだった。この経験を通して、学は再び、人としての成長を見せ、自分自身の異常さを少しずつ受け入れていく。彼の旅はまだまだ続いていく。

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