第2話 水彩の秘密

朝の光が窓から差し込む児童養護施設の学の部屋は、彼にとって小さなアトリエです。壁一面には、学が描いた水の中の世界が描かれた絵が並んでいます。それぞれの絵には、ミジンコだった頃の記憶が込められています。今日も彼は、新しい絵のアイデアを探しています。


「学、朝だよ。学校に遅れるわよ」と、施設のスタッフ、麻衣さんが部屋のドアをノックします。彼女はいつも優しく、学の絵を見ても、変わっているとは言わずに、美しいと褒めてくれます。麻衣さんは、彼がこの施設で唯一心を開ける人です。


学校では、学はあまり友達がいません。絵を描くことが好きな彼は、休み時間も一人で絵を描いて過ごすことが多いです。しかし、今日はいつもと違う日になることを、彼はまだ知りませんでした。


美術の授業で、先生が「今日は自由に何でも描いていい」と言いました。私は迷わず水彩絵の具を選び、いつものように水の中の世界を描き始めました。私の絵は、他の子供たちの絵とは明らかに違っていました。深い青と緑、そして光の反射を描き加えることで、水の中の不思議な世界が徐々に現れてきます。


「おお、すごいね、美織。こんな絵、見たことないよ」と隣の席の佑太が言います。普段は、あまり話さない佑太の言葉に、私は少し驚きました。他の子供たちも次第に学の絵に興味を示し始め、彼の周りに集まってきます。


先生も学の絵を見て、「美織くん、これは素晴らしい。どうやってこんなにリアルな水の世界を描けるの?」と質問します。学は少し照れくさい気持ちになりながらも、「前世の記憶があるんです」と冗談めかして答えました。クラスメイトたちは笑い、先生も「面白い想像力だね」と言って笑います。でも、それは本当のことなんです。


その日、彼は初めてクラスメイトたちと不自然だったが会話を楽しむことができました。彼の絵が、少しだけでも他の人たちとの距離を縮めてくれたように、学は、感じました。家に帰る道すがら、学は心の中でふと思いました。「もしかしたら、私も仲間を見つけられるかもしれない」。


この日を境に、彼の孤独な日々に少しずつ変化が訪れ始めました。学の絵が、彼を新しい世界へと導いてくれることを、彼はまだ知らないのです。

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