第10話 絵が結んだ縁

美織学はいつものように公園のベンチに座り、絵を描いていた。彼の心を静かに満たすこの時間は、彼にとって最も平和な瞬間の一つだった。しかし、この日は少し違っていた。目の前に広がる公園の景色を描いていると、ふとした瞬間に、寂しげな表情をした高校生の女の子が彼の視界に入った。彼女の瞳に映る哀愁が、学にはなぜか心を動かされた。彼は声をかけたいと思いながらも、勇気を出すことができずにいた。


すると、意外にも女の子の方から学に話しかけてきた。「絵、上手だね!」その声に驚きつつも、学は照れ臭さを隠しきれずに「あ、ありがとう」と答えた。彼女は名乗って、「私、るんっていうの。実は、ひとりぼっちなんだ」と、少し寂しげに話し始めた。学は彼女の言葉に心を打たれ、自分もまたひとりぼっちであることを告げた。


るんは、学と似たような境遇で、両親を失い、施設で生活していたことを明かした。彼女にとっても、この公園は孤独を感じないための唯一の逃避場所だった。彼女が学に声をかけたのは、彼の孤独そうな姿が自分と重なり、何か共感を覚えたからだった。


話が進むにつれて、二人は共通の感情を共有し、心を開いていく。初めて会ったにも関わらず、不思議と会話は自然に弾み、笑顔がこぼれた。別れ際には、「また会おうよ!」という約束を交わし、二人の間には新たな絆が生まれていた。


学にとって、るんは初めてできた友達であり、心の支えとなる存在だった。彼女との出会いは、彼にとって新たな一歩であり、孤独を乗り越える希望の光となった。家に帰る道すがら、学はふと心に手を当て、自分の中に芽生えた温かい感情を噛みしめていた。この出会いが、彼の人生にどのような変化をもたらすのか、学自身もまだ知らない。しかし、一つ確かなことは、彼にとって大切な人がまた一人増えたことだった。

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