第4話 池のほとりで

校外学習の日、美織学はクラスメイトたちと自然の見学会に参加していた。周りが花や緑にあふれ、大きな池が静かに輝く風景は、学にとって心地よい安らぎを与えてくれた。彼は、自然の中で特に水の近くにいることを好む。それは、前世のミジンコとしての記憶が、水辺に強い憧憬を抱かせるからだ。


クラスの子たちは、小さなグループに分かれて活動していたが、学はまだ自分から積極的になることができず、ひとりで池をじっと見つめていた。その時、彼のクラスメイトである女の子が近づいてきて、不意に声をかけた。「なんで、池ばっか見てるの?」彼女の声に驚き、学は警戒心を隠しきれずにいた。しかし、彼女の純粋な好奇心に答えようと、「水が好きだから」と小さな声で返した。前世の記憶が彼の心に深く刻まれていることは、この瞬間も彼女には明かせない秘密だった。


女の子は「ふ〜ん」と一言、不思議そうに首を傾げた後、何も言わずにその場を離れていった。学は彼女が去った後、ほっとしたような、しかし同時に何となく寂しい気持ちも覚えた。彼はふと、自分がいつも人と距離を置いてしまう理由を考えた。自分の内面に秘めた前世の記憶は、他人には理解されにくいものだと知っている。だが、その記憶が彼を独特な人物にしていることも、否定できなかった。


学は再び池を見つめた。水面に映る光と影、そよ風に揺れる水草の様子は、彼にとって唯一無二の風景だ。その瞬間、学は決心した。自分の感じる世界を、もっと多くの人と共有できるようになりたいと。学校での孤立を乗り越え、もっと自分を開くことの大切さを、池のほとりで学んだのだった。


この日の体験は、学にとって小さな一歩だったかもしれない。しかし、それは彼が自分の殻を破り、外の世界にもっと積極的に関わっていこうとする決意の始まりでもあった。

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