第5話 夢の中の記憶
夜が深まると、美織学の心は再びその時へと戻る。水の中、暗く、広がる無限の世界。そこは安らぎと同時に、ある種の恐怖を孕んでいた。夢の中で学はミジンコだった自分を見つけ、周囲を取り巻く生命の脅威に晒されている。それは、実際に前世で経験したことなのか、それともただの夢なのか。学には分からない。ただ、その夢を見るたびに、心臓が高鳴り、汗でシーツが濡れるほどに恐怖を感じる。
この夢は、学にとっての大きな負担だった。日中、他の子供たちと一緒にいる時には、その恐怖を忘れることができる。しかし、夜が来ると、孤独と共に恐怖も訪れる。学はこの夢を誰にも話せなかった。どう説明すればいいのか、誰がこんな話を信じるのか。そう考えると、言葉を飲み込むしかなかった。
施設での生活、学校での孤立、そして両親を亡くした悲しみ。これらすべてが夢の中での恐怖と絡み合い、学の心を重くしていた。しかし、ある夜のこと、いつものように恐怖に駆られて目覚めた学は、ふと窓の外を見た。そこには、静かに輝く星空が広がっていた。その美しさに心を奪われた瞬間、学はふと気づいた。この広い宇宙の中で、自分はただの小さな存在。しかし、その小さな存在である自分が、こうして生きている意味があるのではないかと。
その夜から、学は夢を見るたびに、星空を思い出した。そして、夢の中で感じる恐怖に立ち向かう勇気を少しずつ見つけていった。この夢が、自分の中にある過去の記憶との対峙であり、それを乗り越えることが、自分を成長させることに繋がると感じ始めたのだ。
学にとって、夢はもはやトラウマではなく、自己を深く理解し、乗り越えていくための試練となった。彼はまだその意味を完全には理解していないかもしれない。しかし、学は自分の内なる恐怖と向き合う勇気を持ち始めていた。そして、それが彼を少しずつ変えていくことになる。
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