第6話 ミジンコとの約束

美織学にとって、理科の授業はいつもと異なる試練の場となった。ミジンコを観察するという今回のテーマは、他の誰にとってもただの授業であるかもしれないが、学にとっては、自身の過去と直接向き合うことを意味していた。彼の心は、ミジンコに対する同族意識に満ちていた。それは彼の中に深く根ざす、前世の記憶から来るものだった。


授業中、学は自分の感情と葛藤しながらも、ミジンコへの深い共感を隠すことができず、観察することに抵抗を感じた。理科の先生が彼を叱責した時、学は内心でミジンコたちに謝った。「ごめん、見てあげられないよ」と。


放課後、学が水槽を持ち出し、ミジンコを自然に返した行動は、彼にとって非常に重要な意味を持っていた。それは、彼が自分の過去と現在をつなぐ架け橋として、ミジンコに対してできることをした、という証だった。近くの池にミジンコを放つその瞬間、学は前世の自分との約束を果たしたような気がした。


理科の先生に叱られた後、学が涙ながらに語った「ミジンコがかわいそうで、放っておけなかった」という言葉は、彼の深い共感と優しさを表していた。しかし、理科の先生はその真意を理解することなく、ただ彼を変わった子として扱った。


児童養護施設に戻った学が麻衣さんに心を開いた瞬間は、彼にとって大切な支えとなった。麻衣さんの「あなたの思った通りにやってみなさい」という言葉は、学にとって大きな勇気となり、自分の感じたことを大切にすることの重要性を教えてくれた。

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