第19話 夢の中の彷徨

美織学の夜は、時として冷たい水の世界に彼を引き戻す。その夜もまた、ミジンコだった頃の記憶が夢となって学の心を訪れた。彼は夢の中で、終わりのない水中を彷徨っていた。孤独、不安、恐怖が交錯する中、彼はただ漂うことしかできなかった。目的地もなく、ゆらゆらと浮かんでいるだけの自分。そして、恒例となったように、何かに食べられそうになる瞬間に、彼は現実へと引き戻された。


目を覚ますと、学の体は汗でびっしょりと濡れていた。この夢は、彼にとって長年のトラウマとなっていた。ミジンコだった頃の記憶があるという事実を、彼は誰にも共有できずにいた。小学生の時に一度だけ勇気を出してその記憶を打ち明けたことがあるが、その結果は惨めなものだった。周りからは理解されるどころか、馬鹿にされ、一方的に責められる経験をしたからだ。それ以来、学はその記憶を心の奥深くにしまい込んでいた。


しかし、金賞を受賞したことで得た自信や、るんとの再会、新しい家族との温かい関係は、学に少しずつ変化をもたらしていた。彼は、自分の内面と向き合い、感じていることを表現する大切さを学んでいた。それでも、ミジンコの記憶とその夢がもたらすトラウマについては、依然として誰にも話すことができずにいた。


ある日、学は美術の先生と話している時に、不意にこの夢のことが口をついて出そうになった。先生は学の才能を高く評価しており、彼のことを深く理解しようと努めていた。しかし、学は最後の瞬間に言葉を飲み込んだ。彼はまだ、自分の最も深い部分を他人にさらけ出す勇気を持てずにいた。


この夢と記憶は、学にとって解決すべき課題であり続けた。しかし、彼はそれを乗り越えるための一歩を踏み出す準備をしていた。絵を通じて、そして少しずつ人との関わりを深める中で、学は自分自身を受け入れ、過去の記憶と向き合う方法を見つけようとしていた。

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