ミジンコだったんです。
星咲 紗和(ほしざき さわ)
第1話 ミジンコの記憶
彼の名前は美織学。小学5年生です。でも、普通の小学生とは少し違います。なぜなら、学には前世の記憶があるんです。それも、ミジンコとしての記憶。信じられないかもしれませんが、これが彼の真実です。
学がこの世界に足を踏み入れたとき、最初に気づいたのは、どこか懐かしい水の感触でした。幼い頃から、学は水に触れると安心するんです。水彩画を描くのが大好きで、特に水の中の世界を描くことに夢中になります。その理由は、前世の記憶が学の創造力の源だから。湖の中を彷徨っていた時の感覚、光と影が交差する水中の美しさ、そして、何よりも強く感じた孤独。これらすべてが、彼の絵の中で息づいています。
しかし、この特別な記憶は、同時に学に大きな孤独をもたらしました。両親や友人にこの話をしても、誰も信じてくれない。まるで、学だけが異世界から来たような気持ちです。だからといって、この記憶を無視することはできません。それが彼の一部なんですから。
両親は、学が絵を描くことをあまり好ましく思っていませんでした。もっと普通に、他の子供たちと同じように遊びなさいと言われ続けました。でも、学にとって絵を描くことは、ただの遊びではありません。それは、前世の自分と今の自分をつなぐ唯一の方法なんです。
不幸にも、両親は彼がまだ小さいときに事故で亡くなりました。その後、親戚にも受け入れられず、児童養護施設に預けられました。そこでも、学は孤独感に苛まれ続けました。でも、絵を描くことで、その孤独を少し和らげることができます。学の絵は、彼だけの秘密の窓。そこから見える世界は、誰にも邪魔されない、学だけのものです。
こうして、学は今日もペンを取り、新しい絵を描き始めます。水の中の世界を、もう一度。この絵が、いつか誰かの心に届くことを願いながら。
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