逃亡

「うぅ……汚されてしまいましたぁ」

 

 椅子にグルグル巻きにされ、ピアスの穴を開けさせられたヤンデレストーカーが悲壮気に言葉を告げる。


「何が汚されただ。少しピアスを開けただけだろうに。しかも、ピアスまでプレゼントしてやっただろう?」


 悲しむヤンデレストーカーに対して朝陽はニヤニヤと笑みを浮かべながら縛っていた彼女の縄を解いて解放する。


「それにちゃんと可愛いだろう?」


 そして、朝陽はヤンデレストーカーへと持っていた手鏡を見せて現在の様子を確認させる。


「あっ……ほんとだ。結構似合っている……ふへへ、それに朝陽くんが可愛いって」


「だろう?だから満足して黙っていろ」


「……あれ?なんか急に冷たくなった?」


「気のせいじゃないか?」


 朝陽はヤンデレストーカーの言葉に首をかしげた後にソファの方へと座りなおす。

 そして、朝陽は特に意味もなくテレビのリモコンへと手を伸ばしてそのチャンネルをつける。


『突如として失踪した芸能人は今!今回取り上げたいのは十年前に大ブレイクを果たし、世界の歌姫と称されながらもその姿を忽然と消してしまっ───』


 だが、朝陽は苦虫を嚙み潰したかのような表情を浮かべた後にすぐテレビを消す。


「どうしたの?」


 テレビをつけたはすぐに消すという、意味の分からない行動をする朝陽にヤンデレストーカーは首をかしげる。


「そろそろ帰って?」


 そんな彼女に対して朝陽が告げるのはさっさと帰れという冷たい言葉であった。


「えっ!?な、なんで……もう、ちょっと朝陽くんと過ごしていたいんだけど」


「僕はもう寝るから」


「えぇー、早くない?」


「……うるさい。さっさと帰って」


 自分の言葉に食い下がってくるヤンデレストーカーに対して朝陽は機嫌の悪そうに言葉を吐き捨てる。


「それとも何?僕の寝こみでも襲うの?」


「……寝こみを、襲う?」


 寝こみを襲うのか、という朝陽の疑問の言葉を受けてヤンデレストーカーの脳が一瞬にしてその機能を停止させる。


「おう……例えば───」

 

 己の隣に座っているヤンデレストーカーの耳元へと己の口を近づけた朝陽はそのまま彼女へと決して未成年には聞かせらないような話を丁寧に、丹念に語り掛けていく。


「はわ……は、わ……あわわ」


 中高一貫の女子高に通い、大学すらも女子大へと進んだ現役大学生であるヤンデレストーカーは犯罪行為へと手を染めておきながらも色恋沙汰に疎く、性事情も非常に初心であった。


「え、え、え、エッチすぎますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううう!」


 自分の耳元で朝陽に囁かれたエッチな言葉に一瞬で頭が沸騰してしまったヤンデレストーカーは頬を真っ赤にしながら逃亡し、そのまま朝陽の部屋を飛び出して何処かへと走り去ってしまうのだった。


「なんでストーカーまでしている女が初心なんだが」


 逃げ返るヤンデレストーカーを見送った朝陽はゆっくりと席から立ち上がる。


「……ちっ」


 そして、既に消えているテレビへと視線を送った朝陽は舌打ちを一つついてから歯を磨くべく洗面所の方に向かうのだった。

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