盗聴器

「……朝陽くんが悪いんだよ。私の愛を受け入れてくれているのに、わざわざ必要ない女の子と会話したりしているから」


 無駄に広い自分の部屋の中に置かれている天蓋付きベッドに腰掛けるヤンデレストーカーはぶつぶつと独り言を呟いている。

 そんな彼女の手元に握られているのは一つの機材である。

 機材から伸びているのはイヤホンであり、それをヤンデレストーカーはしっかりと装着していた。


「朝陽くん朝陽くん朝陽くん朝陽くん朝陽くん……ふへへ、朝日くん」


 ヤンデレストーカーが暮らしているその自室は実に殺風景な部屋と言えるだろう。

 かなり広い部屋なのにも関わらず、部屋に置かれているのはアルバムが詰まった本棚に勉強するときに使っている机と椅子に教材。

 今、彼女が座っている天蓋つきのベッド。

 この五つ以外にあるのは僅かな衣類しかなくスカスカの大きなクローゼットと、高そうなギターだけである。


「……んんぅー!」


 そんな部屋の中にいるヤンデレストーカーは朝陽のことについて考えてその意識をトリップさせながら、ベッドに寝っ転がるとそこに置かれていた一つの抱き枕。

 朝陽の身体がプリントアウトされている抱き枕へと抱き着く。

 その抱き枕は微かながらも朝陽の匂いが染みついており、それがヤンデレストーカーへと多幸感を与えてくれる。


『ただいまー』


 そんなことをしていると。


「来た!」


 静寂だけを返し続けていたイヤホンからようやく一つの声を届かせる。

 それは間違いなく朝陽のものであった。


『ふんふんふーん』


 いつも歌っている朝陽の鼻歌。

 無駄にクオリティーの高い彼の朝陽がイヤホンから聞こえてくるヤンデレストーカーの心は徐々に昂っていく。


『……おん?今日のところはあいつ。まだ来ていないのか』


「はわわわわ、朝陽くんが私のことを気にしていてくれているぅ!」


 そして、イヤホンから出てきた自分のことについて言及する朝陽の声に彼女は喜びの声をあげる。


『ふんふんふーん』

 

 再び朝陽の鼻歌の音が聞こえてくると共に、彼が自分の服を脱いでいるであろう音が聞こえてくる。


「あわわ……でふっ、えへへ」


 それを聞いてヤンデレストーカーの豊かな想像力は朝陽が服を脱いでいる情景を明瞭に思い浮かべ始める。

 そして、それと共に思い出したのは以前一緒に入ったときに見た朝陽の裸である。

 何度、彼女がそれにお世話になったことか。


『……ん?』


 ヤンデレストーカーが朝陽の裸を思い浮かべている間に、彼は足を止めて何か疑問の声を上げていた。

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