訪問
「朝陽くん、様子を見に来たよ?今日、バイトを休んでいたけどどうしたの?風邪でも引いちゃった?」
鍵のかかった玄関の扉をガチャガチャと鳴らす音に女性の声。
「だから様子を見に来たんだけど……大丈夫?今日はお部屋から出てきてないよね?いるよね?中に、ねぇ、開けて?……ねぇ、なんで開けてくれないの?なんで、開けてくれないの?どうして?どうして私のことを無視するの?いるのはわかっているんだよ?ねぇ、なんで出てこないの?……ねぇ、なんで出てくれない?なんで?なんで?なんで?あっ、もしかして動けないほどに体調がわるかっ……って、あれ?待って?」
留まることのなかった女性の言葉。
「お部屋……ここであっていたっけ?」
それが随分と間抜けの声と共にピタリと止まってしまう。
「そこはお隣さんの部屋だからやめろ、マジで迷惑だ」
それと同じくして。
己の名を呼ぶ女性の声。
それが隣の部屋の玄関前に響いている。
流石にそれを無視出来ない、呼ばれている当の本人である朝陽が玄関の扉を開け、廊下の方に顔を出して苛立った声を上げる。
「ふぇぇぇぇぇぇ!?」
「その部屋の人、ブラック企業に勤めてていつも疲れているんだから……辞めてあげて」
マンションの一室で一人暮らし。
今日も一人で夕食の準備をしていた朝陽はちょうど、昨夜ネッ友たちに話したヤンデレストーカーを前に苦笑を浮かべる。
「えっ……あ、あの……ごめんね?」
部屋を間違えてしまったヤンデレストーカーは気まづそうな表情を浮かべて謝罪の言葉を口にする。
そんな彼女。
腰にまで伸びた白い綺麗な髪に、これまた白くて長いまつ毛に覆われた宝石のような青い瞳。
その身長も高く、異様なまでに端正な顔立ちを持った彼女は傍から見てかなり目立つことだろう。
「はぁー」
そんな少女を前にする朝陽は深々とため息を吐く。
「とりあえず家の中に入りなよ」
既にただでさえお隣さんにはかなりの迷惑をかけている可能性があるのだ。
ここから更に廊下で騒いで邪魔するわけにはいかない。
そう判断した朝陽は呆れながら自分の部屋の玄関の
「……あっ、はひっ。失礼しましゅ」
部屋を間違えるというドジをやらかしたヤンデレストーカーはその白い頬を真っ赤に染めながら恥ずかしそうに朝陽の部屋へと当たり前のように入っていく。
「……はぁー」
そして、そんなヤンデレストーカーの後を追って朝陽も部屋の中に入っていくのだった。
■■■■■
そんな折。
「クソカップルどもめがぁぁぁ」
ビール缶が転がる実に汚い部屋の中で、一人のくたびれた成人女性が恨み妬みのこもった声を上げたとかなんとか。
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