彼女の過去
「自分の部屋でいつものように、独りぼっちで英語のお勉強をしている時だった。朝陽くんの歌声が聞こえてきたのは」
朝陽に過去を語るように言われたヤンデレストーカーは瞳を輝かせながら言葉を響かせる。
「その歌はあまりにも綺麗で、私の足は自ずと部屋を飛び出してその歌声の主に向かって……そして、私は初めて朝陽くんに出会った。屋敷の中庭で楽しそうに歌っている朝陽くんの姿は何もかもが綺麗で、衝撃的だった。天まで届けと声を響かせて歌う朝陽くんの楽し気な表情が」
過去のことを語るヤンデレストーカーの瞳は何処までも綺麗で、何処までも大切な思い出に浸っていた。
「今、思えば一目ぼれだったのかなぁ?」
彼女は自分の中にいる幼かったころの朝陽が浮かべていた満面の笑みを思い出しながら嬉しそうに言葉を漏らす。
「……っ」
だが、それに対して……朝陽はこれ以上ないほどにその話を表情を歪めながら聞いていた。
「ふへへ……朝陽くんはそれから私の屋敷に一か月くらい通い詰めていたよね?私は、さ。今は大丈夫なんだけど、昔は病弱なところがあってあまり学校にも通えていなかったから、ずっと友達もいなくて、両親も仕事ばっかりで私に構ってくれなくて。いつも、独りぼっちだった。そんな私にとって、毎日のように屋敷に来て、私と会話を交わして、私と色々なことをしてくれた朝陽くんが、いつの間にか私の世界の全てになっていた」
ヤンデレストーカーは常にたった一人の世界で生きていた。
そんな彼女の前へと唐突に現れた、すべての人の視線を奪うようなスター性を生まれながらにもった少年はあまりにも毒であった。
彼女の世界は一瞬で染められてしまったのだ。
「一か月。朝陽くんが私の元に来てくれたのはそれだけだった。でも、あの日々のことは二度。忘れたことはないよ。長かったなぁ、病弱だった体を元気にして、今まで出来ていなかった分のやらなきゃいけないことをやって、自由になって……再び、朝陽君の元に来るまで……まさか、久しぶりって言った私のことを朝陽くんが覚えていなかったとは思っていなかったけど」
ヤンデレストーカーは何で、自分が朝陽のことを好きになったのかを語り終える。
「そうで!?ど、どうかな……思い、出してくれた?」
「……僕は歌が上手い」
すべての話を聞き終えた朝陽はヤンデレストーカーの方に視線を向けることもなく一つ、言葉を漏らす。
期待でもって彼の方に視線を向ける彼女に目もくれずに。
「だって、僕の母親は世界の歌姫の優れたる才能を幸運にも引き継いで、基礎をあの人に教えてもらって、あの後もずっと……歌っていたのだから」
そして、彼女の過去を聞いた朝陽は静かに、自分の過去へと思いを馳せるのであった。
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