過去

 全然知らないと断言する朝陽に対してヤンデレストーカーはショックを受けたような表情で、瞳に涙を浮かべながら口を開く。


「ほ、本当に覚えていないの!?」


「うん、まるで覚えていない」


 ヤンデレストーカーの言葉にあっけらんとした態度で朝陽が頷く。


「ほ、ほら!私のお父様に朝陽くんのお義父様が会いに来るからって、それの付き添いでよくきていたじゃん!」


「……あぁ」


 ヤンデレストーカーの言葉を受け、朝陽が苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら頷く。


「あの頃か……両親、離婚しているんだよね。僕」


「えっ……あ」


「だから、あの頃の時代あまり思い出したくないんだよね」


 朝陽は忌々しそうに表情っを歪めたまま淡々と言葉を話していく。


「ご、ごめんなさい……迂闊な、ことを言ってしまって」


「別に良いよ。そんなに嫌な話というわけでもないしな。適当に流してくれても」


 朝陽は申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にするヤンデレストーカーの言葉を軽く受け流しながら言葉を続ける。


「確かに、あの頃の僕は特に意味もなく歌を歌い続けていたからね。僕の歌はうまくて周りからの評価も高かったし」


「確かに、プロ並みだったね。いつも凄いなって思って聞いていたんだよ」


「ありがとう」


 ヤンデレストーカーの誉め言葉に頷いた朝陽はそのまま軽い口ぶりで返す。


「そ、それで……思い、だしてはくれたのかな?」

 

 そんな朝陽に対しておずおずとした様子でヤンデレストーカーが疑問の声をなげかける。


「いや?普通に知らん。あの時代の僕は色々なところに行って歌を歌っていたから」


 それに対して再び朝陽が返したのはこれまた実に素っ気ないものであった。


「ふぇぇぇええええええ!?」


 そんな朝陽の言葉にヤンデレストーカーは再び驚愕の声を上げる。


「仕方ないだろ……あの時代は、色々あったんだよ」


 朝陽の半生は実に波乱万丈である。

 両親が離婚し、その後にまもなく自分の親権をもった母親が精神に異常をきたして精神病に入院。

 それから一人暮らしを続けているのだ。

 信じられないような経歴である。


「そ、その……何か本当にごめんなさい」


 朝陽の表情から何かを読み取ったヤンデレストーカーが謝罪の言葉を再び口にする。


「もう良いんだよ、過去は……それで、ほら、聞いているやるから。お前の過去でも話してくれ。誰かも含めて」


 そんな彼女に対して朝陽は軽い口調で過去を話すように促していく。


「あっ、う、うん!」


 そして、それに頷いたヤンデレストーカーは続きを話していくのだった。

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