帰り
既に日が落ち、それでも人間の営みによって彩られている夜の街の一角で。
「今日はありがとうね。助かったよ」
「いえいえ、前回は自分がお休みしてしまいましたから」
朝陽はバイト先の店長と言葉を交わしていた。
彼が働いているのは個人経営の喫茶店である。本来であれば今日、シフトの入っていなかった朝陽であるが、それでもヘルプとして急遽参戦していた。
「それでも、だよ。体調悪いのであれば仕方ないよ。朝陽くんはちゃんと必要な時は居てくれるから助かるよ」
「いえいえ、そんな。それでは自分はここで失礼します」
「あぁ、呼び止めて悪かったね。さようなら」
「はい、さようなら」
朝陽はバイト先の店長と別れの言葉を交わしたのち、帰路へとつく。
「ねぇ……なんで?」
自宅への道をショートカットするために路地裏へと入っていく朝陽はその道の途中で突如、日陰に立っていた女性───ヤンデレストーカーから声をかけられる。
「流石にそこに立っているのは怖いからやめて?」
路地裏の日陰で、ハイライトの浮かばない瞳で立っていたヤンデレストーカーに朝陽は呆れながら声をかける。
彼女から声を掛けられるまで全然気づかなかった。
気づいたら隣に女性が!とか、普通にホラーだよね、などと考える朝陽は自然体でヤンデレストーカーへと向き合う。
「なんで?バイトに、出るのは良いんだよ。必要なことだし、周りとコミュニケーションを取ることも大切だと思う。女の子と、話すのだって嫌だけど許してあげる」
「おう」
「……だけど、何?あれは。朝陽くん、客の女の子から連絡先とラブレターを貰って、デレデレしちゃっていたよね?」
「別に僕はお前のことなんて知ったこっちゃねぇよ」
「酷い……っ!なんでそんなこと言うの?」
「ふんふんふーん。さぁ、帰ったらセフレと気持ちよく寝よ」
「……いじわる。いじわるいじわるいじわるいじわるぅ!」
意地の悪い僕の言葉に対してヤンデレストーカーは頭を振って激しく取り乱しながら言葉を荒げる。
「……わからせ、ないと。わからないと」
そんな彼女が懐から取り出したのは一つの包丁であった。
「あぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」
そして、そのままヤンデレストーカーは朝陽へと斬りかかりに行く。
「ほい」
だが、その仕草はあまりにも無駄が多く、隙だらけであった。
朝陽は迷いなく包丁が握られているヤンデレストーカーの腕を叩き、そのまま包丁を地面へと落とす。
「あひゃ!?」
「ふんっ!」
そのまま流れるように手ぶらになってしまったヤンデレストーカーの手を朝陽は掴む。
「あぎゃっ!」
そして、勢いよく背負い投げを一閃。
ヤンデレストーカーを地面へとたたきつけ、その意識を強引に吹き飛ばす。
「帰るか」
その後、包丁をしっかりと回収した朝陽は気絶しているヤンデレストーカーをその場に捨て置き、自分は帰路へとつくのであった。
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