第5話 牧真マホヨと誘拐事件(前編)
ある日の放課後遅く。
空が暗くなってきた時間帯。
レイナとカフェで勉強をしていると、誘拐事件が発生したと緊急コールが入った。
続いて、詳細な情報がメールで送られてくる。
場所は品川区。
また遠い……。
けど、誘拐事件ということで経験豊富な魔法少女が必要らしいと名指しでのヘルプだった。
誘拐犯は海外からやってきた、怪人の犯罪グループらしい。
行くしかないかー。
「ごめんね。呼ばれたから行ってくるよ、れいちゃん」
「いってらっしゃーい。気をつけてね、まほちゃん」
レイナに見送られ、今日も魔法少女のお仕事。
目的地の品川区まで魔法の箒で15分くらいかな。
ちなみに、使い魔のせっちゃんはお留守番。
今回は極秘任務。
白いカラスって目立つし、すぐに私が来たってばれるからねー。
私は誘拐犯が潜伏している可能性が高いという住所情報をもらった。
スマートフォンで、地図アプリを開く。
目的地は沿岸部に並ぶ倉庫街。
そーいえばあの近くに美味しいハンバーガー屋があったなー、とか思い出しつつ。
「よっし! ひとっ飛びしますか!」
魔法の箒に魔力を込めて、一気に上昇した。
◇◇◇
品川区の埋立地にある倉庫街は、夜になるとひとけがなくてとても静かだ。
こういう時は……。
(太陽魔法・
魔法少女の姿はとても目立つ。
私は誘拐犯に見つからないように、光を操って姿を隠す魔法を使う。
いわゆる光学迷彩ってやつ?
そして、魔法の箒の上から広い埋立地にずらりと並ぶ巨大倉庫を眺めた。
(うーん……、全部同じに見えるなー)
この中のどこかに誘拐犯グループがいるらしいんだけど、一個一個見回っていたら朝までかかりそう。
ボーーーーン…………
遠くで船の汽笛が鳴った。
荷下ろしをおえて出向する船がいるみたい。
このあたりからは、ライトアップされたレインボーブリッジがよく見える。
(夜景が綺麗だなぁー…………って、違う)
えっと、誘拐犯を探さなきゃ。
でも、この広い敷地を当てもなく探すのは厳しいなー。
どうしようかなー。
もうしばらくすると警察の人たちも集まってくるらしいから、みんなで人海戦術が現実的かなぁ。
うーん……。
私は何か、ヒントになるものがないか、今回の依頼内容のメールを見返す。
犯人の居場所のヒントになるようなことは、書いてない。
この倉庫街のどこかとしか……。
誘拐されて、人質となっているのは
(あれ?)
誘拐事件と聞いて慌ててやってきたので、重要な情報を見落としていた。
人質になっているのは――
しかも、知り合い。
仕事で何度も同じ現場で協力をしたことがある魔法少女。
(てか、あいつ港区の魔法少女のくせに……)
わざわざ担当区外に顔を出したらしい。
(もの好きねー)
担当区外の仕事は、極力受けない私とは正反対。
ただ、人質が魔法少女ってことなら話がはやい。
――
私は魔法少女の共通能力である、念話能力を使った。
半径数キロ以内に魔法少女がいれば応えてくれるはず。
(……私は光の魔法少女・牧真マホヨです。近くに魔法少女がいたら応答してください)
呼びかける。
何度か場所を変えて試そうと思っていたら、一発で当たりを引いた。
(あれ? マホヨ? 助けに来てくれたの? やったー!)
人質のくせに、元気そうに……。
(ヒメノ、あんた今どこにいるの? 倉庫の中で捕まってるんでしょ?)
私は質問した。
今、念話をしている相手は『桃宮ヒメノ』。
港区担当で同い年の魔法少女。
たしか魔法少女歴は5年以上で、私ほどじゃないがベテランだ。
じゃあ、何であっさり捕まっているのかと言うと、それは彼女の能力と関係があって……。
(えっとね、マホヨ。私が居るのは黄色い倉庫でバナナのイラストが書いてある大っきな倉庫だよ。位置は海側のほうだったかな)
(わかった、探してみる)
私は魔法の箒を上昇させて、海側の倉庫を眺める。
魔法少女は視力が高い。
前回の身体計測では『10.0』だった。
夜で色は分かりづらいが、バナナのイラストがある倉庫が見つかる。
(あれね。よし!)
私は魔法の箒を急降下させる。
黄色い倉庫の周囲をぐるっと回ってみたけど、中に入れるような場所はなかった。
入り口のシャッターは勿論、閉まっていて裏口には男が立っている。
(見張りか……)
一見、港の作業者のように見えて異常に周囲を警戒している。
しかも、ポケットの膨らみはおそらく拳銃だ。
絶対にカタギじゃない。
私はもう一度、魔法の念話を使った。
(ヒメノ、聞こえる?)
(マホヨー、聞こえるよー。念話の声が近くなったね)
どうやら、ここで間違いないみたい。
私はメールでこれから到着する警察の人へ、倉庫の住所と送った。
これでスムーズに誘拐犯グループのアジトにたどり着くだろう。
(さて、あとは警察の到着を待って犯人を確保すれば完了かな)
なんて考えていると。
(マホヨー、はやく助けてよー)
(あと1時間くらいで警察がくると思うけど)
(えー、遅いよー。もう疲れちゃったぁ。はやく助けてよー。トイレも行きたいしぃー)
(あんたねぇ……)
人質のくせにこの緊張感のなさ。
(トイレくらいさせてもらえるでしょ?)
(やだよー。見張りがいる前でしないといけないんだよ? 恥ずかしいじゃん)
確かにそれはちょっと嫌かな。
仕方ないなぁ。
(ちょっと、待ってて。今から突入するから)
(やったー。マホちゃん、大好き☆)
(はいはい)
一応、魔法少女には犯罪者の逮捕権がある。
だから単独で突入しても問題にはならない。
あんまりする人いないらしいけど。
私はゆっくりと倉庫の入り口で見張りをしている男に近づいた。
光魔法・
とはいえ、間近まで接近すると気づかれる。
「誰だ!」
見張りの男が、私に気づき拳銃を構えようとした。
でも、気づくの遅かった。
「ごめんね――
トン! と見張りの男の首元を叩き気絶させる。
(お、流石はマホ。本気を出せば首を落とせる光の手刀ね!)
(首なんて落としたことないから)
物騒なこと言わないでよね。
念話で話しかけてくるヒメノ。
あんた、もう自力で脱出しなさいよ。
私は見張りの男を、近くの壁にもたれさせて裏口の扉を開いた。
鍵はかかっていない。
薄暗い倉庫の中をゆっくりと中をすすむ。
倉庫の中に、短い廊下があってそこが作業者の荷物置き場や休憩スペースらしき部屋が並んでいる。
さらにもう一つ扉があり、そこは高い天井の巨大な空間になっていた。
つまり貨物船によって運ばれてきた、大量の荷物置き場だった。
ドアのガラス窓から中の様子を探る。
近くに人はいない。
が、見張りはいるはず。
(ドアを開けるとバレちゃうなぁー)
んー、ドアについた小さな覗きガラスからじゃ、中の様子が見れないなぁ。
その時だった。
「ねぇ~、喉が渇いたんだけどー」
ヒメノの声が遠くから聞こえた。
「わがままな人質だなぁ……」
「おい、水でも与えとけ」
「ええー、カフェオレがいいー」
「コーヒーで我慢しろ!」
「はーい」
(これは……)
ヒメノからのアシストだ。
今は誘拐犯たちの注意が人質に向いている。
私はそっとドアを開けて、中に入った。
(魔法の箒)
小声で箒を召喚して、
倉庫の中央あたりに、荷物があまり置かれていない作業スペースのような空き場所がって、そこに人が集まっていた。
人数は10名ほど。
そして、上空から見ると倉庫内を巡回しているっぽい見張りが数名。
合計人数は20名弱くらいの犯罪グループみたい。
そして、人が集まっている中央に一人の女の子が椅子に縛られていた。
長い銀髪に、ピンクベースの
ただし、キラキラしたジュエリーやヒラヒラのデザインのドレスは、魔法少女というよりテレビにでているアイドルだ。
――
その名の通り、相手を魅了することに特化した魔法少女。
多分、今回の誘拐も
犯罪組織を魅了で釣り上げる『囮捜査』の専門家。
東京都で怪人の退治数なら私がトップだけど、犯罪者の逮捕サポート数なら圧倒的に一位。
それが魅惑の魔法少女の桃宮ヒメノ。
牧真マホヨと桃宮ヒメノで、東京のダブルエースなんて呼ばれてたりするらしい。
じゃあ、ライバル関係なのかというとそんなことはなく。
多分、この前にあった新宿の新人魔法少女海川カリンちゃんを少し強くした程度。
その代わり、相手を魅了するという『精神魔法』の使い手としては、全国屈指の魔法少女。
……能力尖り過ぎなのよね。
犯罪者グループにうまく潜りこんだはいいものの、自分では犯罪者を逮捕できないから普段は警察や他の魔法少女と協力して犯罪者を捕まえる。
「なぁ、あんた。本当に魔法少女に人質の価値なんてあるのか? 国が引き換えに1億も払うなんて聞いたことないぞ」
(私も聞いたことないわ……)
また、ヒメノが適当なこと言ってる。
「もうー、私の言うことが信じられないの?」
「いや、信じてないわけじゃねーけどよー」
(信じてるんだ……)
犯罪者グループの一人と、仲良さそうに話している。
これが
初対面の相手にでも、数年来の友達のように親しくなる。
私は魔法の箒を使って、天井付近に留まっている。
いつでも奇襲できるけど、20名近くを私一人で取り押さえるのは骨だ。
逃しちゃうのはまずいし……。
一瞬で全員を一撃で倒す?
でも、加減が難しいなぁ、と悩んでいると。
……ブルルルル。
スマホが振動した。
――倉庫の包囲を完了。
という警察からのメッセージが届いた。
いいタイミング。
(じゃあ、片付けますか)
私は、犯罪者グループのど真ん中に降り立った。
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