第8話 牧真マホヨは紹介される


 とある日曜日。


 私と使い魔のせっちゃんは、調布駅前にあるドトールカフェのテラス席でお茶をしている。


 店の中の席にしないのは、使い魔せっちゃんがいるから。


 店内は動物の入店禁止だからね。


「ねぇ、せっちゃん。待ち合わせ場所ってここでいいんだよね?」

 私は使い魔に聞いた。


「そうだヨー。新しく狛江市の担当になった魔法少女が挨拶にくるんだっテ」

「ふーん、別に狛江市は近いから今まで通り私が見れるけどね」


 ちなみに今まで狛江市も私の担当エリアだった。


 魔法の箒なら1分以内にいけるし。


 それに調布市もそうなんだけど、この辺は平和なのでそんなにたくさんの魔法少女は必要ないと思うんだけどなー。


「それはマホヨちゃんは忙しいから魔法課の人が気を使ってくれたんだと思うヨ?」

「だったら、ヘルプの回数減らしてくれたらいいのに」


「それは難しいんじゃないかナ。強い怪人が出てきたら強い魔法少女が呼ばれるのは仕方ないヨ」

「えー、やだー」


 私は不満を口にしつつシロップを2個いれた甘いアイスカフェオレをちびりと飲んだ。


 壁に掛かってある時計を見ると、時間は午前10時58分。

 待ち合わせは11時。


 人を待たせるのが嫌いな私は、15分前にやってきていた。


 そろそろ約束の時間だ。


 ……ィーン


 自動ドアが開く音がした。


 そちらに視線を向けると、三十代くらいの真面目そうなスーツ男性と、小柄な女の子が入ってくる。


 一見すると親子のように見えるが、男性に見覚えがあった。


 調布市の魔法課の人だ。

 名前は鈴木さん。


 2年ほど前に魔法課に配属になった時以来の知り合い。


 きょろきょろと、私の姿を探しているようなので「すずきさーん!」と私は手を振った。


 こっちに気づいたようで軽く会釈された。

 中学生の私に対しても真面目な人。


 てことは、隣の女の子が新しい魔法少女かな? と思ってよく顔を見て気づいた。


(あれ?)


 見覚えがある。

 小柄で可愛らしいショートカットの女の子。


 確か名前は


「えっと……、あなたもしかしてカリンちゃん?」

「はい! この前は助けていただきありがとうございました、マホヨさん!」


 やってきたのは新宿担当の新人魔法少女、海川カリンちゃんだった。


 


◇◇◇




「じゃあ新宿から狛江市の担当に変更になったんだね、カリンちゃん」

「はい! よろしく願いします!

「うん、よろしくねー」


 私とカリンちゃんは笑顔で挨拶する。

 

 担当エリアが近い魔法少女同士は、こうやって市の担当魔法課の人が紹介してくれることがある。


 担当が近いと協力し合う場面が多いから。


 ……残念ながら、私ってあんまり周りの人が助けにきてくれることがないんだけど。


 ヘルプに呼ばれることは多いんだけどねー。


「カリンちゃん、何を注文しますか??」

 魔法課の鈴木さんが尋ねる。


「いえ、私は大丈夫です」

 何も注文しないらしい。

 あー、これは新人ねー。


「カリンちゃん、ここの飲食代は全部魔法課で払ってもらえるから頼まないと損だよ」

「え? そうなんですか?」

 目を丸くするカリンちゃん。


「てか、教えてないんですか? 鈴木さん」

 私は顔見知りの魔法課職員さんをちらりと睨む。


「い、いや! これから説明しようと思ってたんですよ、マホヨさん」

 慌てる鈴木さん。

 駄目だよー、こういう細いルールも忘れず説明しなきゃ。


「だから何でも頼んでいいんだよ、カリンちゃん。何が好きかな?」

「えっと、ではクリームソーダを…」

 なかなか良いチョイス。

 てか、私もクリームソーダにすればよかったかなー。


 鈴木さんはアイスコーヒーを頼み、すぐに商品が到着した。


 カリンちゃんがストローでソーダを飲み、バニラアイスをスプーンですくって口に運ぶ。


「♪〜」

 美味しそうに食べるなー。

 見てるこっちも楽しい

 

 私はカリンちゃんを眺めていると、鈴木さんが口を開いた。


「マホヨさんは、海川カリンさんとお知り合いなんですよね?」

「ええ、そうです。前に新宿でカリンちゃんと協力して怪人を倒しました」


「きょうりょく……?」

 カリンちゃんが何か言いたそうにしているがスルー。

 

「であれば、話が早いですね。海川カリンさんは新宿区の担当から狛江市の担当へと配置換えとなりました。まだ魔法少女になって間もないので、もしも怪人が出現した際にはサポートをお願いしたいんです。もちろん、その分の手当は出ますので……って、マホヨさんには今更な説明ですけど」


「はーい、任せてくださいー」

 私は快く返事をした。


 これまでも新人魔法少女のサポートはしたこと何度もあるし、問題はない。


 要は部活の後輩できたみたいなもんだし。


「ご指導よろしくお願いします! マホヨさん!」

「うん、一緒に頑張ろうね、カリンちゃん」

 私とカリンちゃんは笑顔で握手した。


 鈴木さんはその様子を安心した様子で見つめている。

 

 その後は、しばらく自己紹介タイムとなった。

 

 カリンちゃんは、小学6年生で新宿住まい。

 母子家庭の一人っ子……苦労してるみたい。


 うぅ、ますます放っておけない。

 私にできることなら何でもするからね!

 

 私は小学三年から魔法少女をしていること。

 今まで戦った怪人とか、得意魔法なんかを話した。


 ただ光の魔法少女は名が知られているから、カリンちゃんが知ってることが多かった。

 特に新宿にはよくヘルプで呼ばれていたから、私が怪人を倒すのを何回か見たこともあるらしい。


 ちなみに受験勉強をしていると、よくヘルプに呼び出されて困っている話は……しなかった。

 カリンちゃんが遠慮しちゃうと困るからね。



「セイヤ先輩! おれっちカリンの使い魔やってるポテトっていうケチな者っす! よろしくお願いするっす!」

「うん、よろしくネー」

 

 テーブルの端っこのほうで私の使い魔――白いカラスのせっちゃんと、カリンちゃんの使い魔である『ジャンガリアンハムスター』のマロンくんが挨拶をしている。


 ハムスターのポテト……なんか美味しそうな名前。

 いや食べないけどさ。

 そして、ちっこいジャンガリアンハムスターは食べちゃいたくなるくらい可愛い!

 

 さ、触ってみたい。

 けど、他の人の使い魔を勝手に触るのはマナー違反だからなぁー。


「マホヨさん? どうしましたか。うちのポテトくんをじっと見て」

「いいねー、うちの使い魔と違って可愛くて」


「マホヨちゃん! ボクは可愛くないってこト! それは聞きづてならないヨ!」

 私のぼそっと言った言葉を耳ざとく、せっちゃんがつっこむ。


「だって、せっちゃん大きいんだもん。ポケットに入らないし」

 ちなみにポテトくんは普段、カリンちゃんのポーチに入って移動しているらしい。

 ハムスターの使い魔って目立たなくていいなー。


「ボクは由緒正しい八咫烏の使い魔なんだよ! 使い魔だけど怪人と戦うことだってできる上級者使い魔なんだ! 希少なんだヨ!」

 怒られた。

 せっちゃんはプライドが高い。


「ごめんごめんて。さっちゃんは頼りにしてます」

「わかればいいんだヨ」

 胸をそらす白いカラスの使い魔。


 その後も少し雑談をして、お互いの紹介も終わった頃


「じゃあ、今日はカリンちゃんと顔合わせしたので用事は終わりですね」

 と言って私は立ち上がる。


「カリンちゃん、家まで『魔法の箒』で送っていくよ」

「いいんですかー? わーい!」


「あ、あのマホヨさん……」

 私とカリンちゃんはお店を出ようとしたら、鈴木さんが何かを言いたそうにこっちを呼び止めた。


「すずきさん? 」

「実は、マホヨさんに折り入ってお話が……」

 真剣な表情で鈴木さんに言われた。


「…………なんですか?」

 え? なに?

 私なにかやらかしたっけ?

 もしくは厄介な仕事の話かと身構えた。


「狛江市は、ながらく魔法少女がいなかったんですが……地理的に武蔵野市と三鷹市が近いじゃないですか。なので、一応『あの御方』にご挨拶をしたほうがいいんじゃないかと……」


「あー」

 私はが合点がいった。


 調布市のお隣である『三鷹市』と奥の『武蔵野市』には魔法少女がいない。


 代わりに居るのが魔法使いだ。


 それもとんでもなく強い魔法使いの人で、私も魔法少女になった時は挨拶に行った。


 というか、私の魔法はその魔法使いさんに教わったことも多い。


 私の『師匠みたいな人』にあたる。


「じゃあ、ミサキさんに挨拶に行ってきますね。鈴木さんも一緒に来ます?」

 凄い魔法使いの名前は三咲ミサキさんという女性の魔法使い。


「い、いえ! 私ごときが三咲様にお目汚しするわけにはいきませんから! カリンさん。マホヨさんの言うことをよく聞いて、礼儀正しくすれば大丈夫ですから。どうかお気をつけて」


「大げさですねー。優しい人ですよ? 怒ると怖いですけど」

「調布市の魔法課に配属された新人が最初に教わることが『三咲様の機嫌を損ねないこと』ですから……」

 この話は鈴木さんの前任の人も同じことを言っていたから、本当なのだろう。


「大変ですねー。じゃあ、吉祥寺に行こうか。カリンちゃん」

「は、はい。緊張します」

 あーあ、魔法課の鈴木さんが脅しすぎるからすっかり怯えちゃって。


 ミサキさんは、礼儀さえきちんとすれば別に怖くないし、なんなら色々とお世話を焼いてくれるおせっかいな人だ。


 カリンちゃんがどんな魔法が向いているのか相談してみるのも悪くないかも。


 会計を鈴木さんに任せて、私とカリンちゃんはカフェを出た。

 

 

 向かうのは『井の頭恩賜公園』を中心とする武蔵野の森。


 その中に住む通称『ウィステリアの魔女』とか『吉祥寺の魔女』と呼ばれる三咲・メアリーさんに私はとカリンちゃんは挨拶に向かうことになった。

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