第15話 海川カリンは修行する(後編

◇カリンの視点◇


「私たちマホヨさんとヒメノさんの隠れファンなの!! あの二人のことを教えて!!」


 気の強そうな赤毛の魔法少女から手を掴まれてお願いされた。


「「「お願いします!!」」」

 さらにまわりの同い年くらいの魔法少女たちからも同時にお願いされる。


「ちょ、ちょっと落ち着いてください。どういうことですか!?」

 混乱した私は、説明をもとめた。




 ◇◇◇




「じゃあ……マホヨさんとヒメノさんの『隠れファンクラブ』というのがあるの?」

「そうなんです。クラブ会員は東京近郊の魔法少女たち」

 ということらしい。


 ちなみに隠れというのは理由があって。


 有名な魔法少女には、表向きの普通のファンクラブが存在する。


 こちらは国が委託した業者が運営しており、クラブ会員費は運営費を差し引いて魔法少女に還元される。


 マホヨさんやヒメノさんには勿論ある。


 しかし、今話している子たちは普通のファンクラブじゃなくて、こっそりファンクラブを作っているらしい。


「なんでそんな面倒なことを?」

「い、いやだって……!」

 慌てた風に説明をしてくれるのは、最初に私に詰め寄ってきた赤髪の魔法少女。


 聞くと同い年の小学6年生だった。

 名前は『中村ハヅキ』ちゃん。


 火属性の魔法少女で、『花火の魔法少女マギ・ファイアワーク』って名前で活動中だとか。


「マホヨさんって最近だと魔法少女を卒業したがっているって噂で……、それなのに魔法少女が会員のファンクラブなんてあったらプレッシャーになっちゃうじゃない?」


「そ、卒業っ!? あー、でもそんな感じのことは言ってるかも」


 受験生なのに勉強時間がとれないとか。


 しょっちゅう、色んなエリアからヘルプで呼ばれるとか。


 東京の魔法少女は、下の世代はあんまり強い子がいなくて心配とか。


「やっぱり……」

「うぅ、私たちが不甲斐ないから」

「マホヨさんにご苦労をかけてしまって……」

 ずーん、と暗い顔になる魔法少女たち。


「で、でもマホヨさんやヒメノさんはまだまだ活躍されてますしっ……そんなに気にしなくても」

 私はフォローしたけど。


「だめよ! そんなんだから東京の魔法少女は光の魔法少女と、魅惑の魔法少女頼りでほかは雑魚って言われちゃうの!」

「そ、そんなことは……そんなことは……」


 否定しようと思って否定できなかった。


 確かにインターネットでもそんなコメントをちらほら見たことがある。


 東京都で起きる凶悪な怪人事件のほとんどは、マホヨさんとヒメノさんが解決しているとか。


「私も助けてもらったしなぁ……」

 新宿の怪人事件のことを思い出した。

 あの時は、私って全然役立たずだった。


「あなたも? 私もそうなの!」

「私も!」

「マホヨさん、かっこよかったなー」

「ヒメノさんだってすごかったよ!」

「綺麗だよねー、ヒメノさん」

 キラキラした目で語る魔法少女たち。


 みんなマホヨさんとヒメノさんが大好きみたい。


「じゃあ、マホヨさんとヒメノさんが戻ってきたら一緒に訓練しませんか? お二人とも優しいのできっと優しく教えて……」


「ま、マホヨさんと一緒に!?」

「ヒメノさまと!?」

「なんて恐れ多い!!」

「むりむりむりむり!!」

 一斉に首を横に振られた。


「えぇ……」

 なんでー。

 そんなに大好きなら友達になっちゃえばいいのに。


 まぁ、だからこそ隠れファンってことなのかなぁ。

 影から見守りたいと。


 ふとここで疑問が浮かんだ。


「ところで……、東京以外の、他の地域の魔法少女ってどんな人たちなんですか?」

 新人の私は東京以外の魔法少女事情はさっぱり知識がない。


 この子たちは、私よりは魔法少女歴が長そうだから色々知ってそう。


 私の質問にみんなが顔を見合わせた。


「やっぱり日本最強の魔法少女集団がいるのは……」

「あそこだよねー」

京都!」


「皇帝陛下の護衛が主な仕事だもんね、京都の魔法少女は」

「そりゃ負けは許されないよね」

「でもマナーとかめちゃうるさいらしいよ」


「京都の担当は大変そうだよねー」

「私は窮屈なのは嫌だなー」

「ねー、東京は自由でいいよね」


「なるほど~、京都ですか」

 聞いたことある。


 京都の魔法少女は、平安時代から続く陰陽師の家系から排出されることが多い。

 生まれながらの魔法使いが魔法少女になるから、最初から魔法の達人でとんでもなく強いとか。



「それから北海道の魔法少女は強いって噂だよね」

「日本で一番魔獣が出る地域だもんねー」

「試される大地……」


「雪の魔獣が多いんでしょ?」

「寒そー」

「北の方の魔法少女ってやっぱり厚着なのかな?」


「違うらしいよ。うちらと同じで肩出しでミニスカートなんだって」

「ひぇえ!」

 絶対嫌だー。

 私は東京でよかったー。



「あとは有名なのは富士山の魔法少女とか」

「青木ヶ原樹海ねー」

不死人アンデッドの怪人が多いんだっけ」


「「「「…………」」」」

 私たちは一斉に黙った。

 深く考えるのはやめよう。



「それから四国の魔法少女も強いって言われてるよね」

「八十八ヶ所霊場ごとに魔法少女がいるんだっけ?」

「たしか女神教会の所属じゃなくて、仏教系の魔法少女なんだよね


「修行がめちゃ厳しんだって?」

「瞑想して雑念があったら叩かれたり」

「滝行って冬はやりたくないなー」

「火歩きもするらしいよ」


「怖っ!」

 私は震え上がった。


 みんなで顔を見合わせる。


「「「「「東京の魔法少女でよかった~」」」」


 声が揃った。


「こうして考えると東京の魔法少女が弱いのってわかるね」

「ねー、私らって結構自由にさせてくれるし、厳しい訓練もないし」

「怪人の数は多いけど、あんまり強いのがいないし」


「強い怪人はマホヨさんとヒメノさんが倒しちゃうもんね」

「私たちって恵まれてるんですね……」

 最初に新宿の怪人と戦うことになった時は、怖くて震えることしかできなかったけど。


 助けを呼んで30分もしないうちに、マホヨさんが助けに来てくれた

 でも、他の地域の魔法少女はもっと大変なんだなー、と思った。


 ここで疑問が。


「もしかして……マホヨさんって全国の魔法少女と比べると普通だったりするの……?」

 いや、でもこの前の魔女様の弟子との修行の様子を見るに、それはないかな?


「何言ってるのよー、カリンちゃん!」

 ぱーん! と花火の魔法少女のハヅキちゃんに肩を叩かれた。

 

 この子、距離の詰め方が荒いなぁ。


「マホヨさんは魔法少女の全国大会三位だよ。しかも小学生の時に!」

「今出場したら絶対に優勝だよね!」

「でも、TVに映るのが嫌だから中学以降は出てないよねー」


 思い出した。

 

 テレビでも中継される全国魔法少女大会。


 魔法の箒の速さや、怪人に扮した魔法使いをどうやって倒すかなど魔法使いの実力を競う年に一度の大会。


 そこでマホヨさんは初出場で3位をとっている。


 しかも、史上最年少でのベスト三位。


 有名な話だった。


「やっぱりマホヨさんは凄いんですねー」

 そんな人から直々に色々教えてもらえるなんて本当にラッキーとしか……。


 そんなことをぼやっと考えていると。


「でね! 相談なんだけど、カリンちゃんも光の魔法少女と魅惑の魔法少女の隠れファンクラブに入らない!?」

「え?」


「マホヨさんって基本的には、単独ソロで活動してて組むのは魅惑の魔法少女くらいで、カリンちゃんみたいな新人の魔法少女って珍しいの!」

「…………」


 えー、どうなんだろう。

 今の私はマホヨさんに色々と教わっている立場で。


 それに隠れて、そういう集団に入っちゃうっていうのは。

 でも別に悪いことってわけじゃないし……。


 実際、魔法少女になる前からマホヨさんのファンだったのも確かだし。

 うーん……。


「だ、駄目かな?」

 無言になった私に不安を覚えたのか、顔を覗き込んでくるハヅキちゃん。


 魔法少女の知り合いは欲しかったし、同い年の子が多いってことはつまりこれから一緒に協力する場面もあるかもってこと。


 そこで、ちょっと気になったことを私は質問した。 


「ところでハヅキちゃんは、どこの地域の担当なの?」

「えっと、世田谷区かな……あっ」

「世田谷区!?」

 私は狛江市の担当魔法少女。


 つまりは『隣の』地区だ。

 間違いなく今後、一緒に活動する機会がありそう。


「私もファンクラブ入ろっかなー」

 そう答えた。 


 お隣の担当エリアの魔法少女とは仲良くするように。

 偉大なマホヨ先輩からの教え。


「じゃあ、あなたも今日からマホヨさん、ヒメノさんの隠れファンクラブメンバーね! よろしくねー! カリンちゃん!」

 赤毛の魔法少女に抱きつかれた。


「よ、よろしく」

 私は抱きつかれるがままになる。

 

「でも、ファンクラブって具体的には何をするの?」

 と聞くと。


「えっとね。まずはこのLINEグループに入って……」

 という説明を聞いている時。



「やっほー☆! カリンちゃーん! 友達ができたんだ!? よかったねー!」

 突然、目の前に光が落ちてきた。


 ターン! という地面を蹴る音と僅かに地面が振動する。


 派手な登場。


 真っ赤な戦闘ドレスに太陽の光を浴びてキラキラと光る長いツインテール。


 太陽の魔法少女マギサンシャインマホヨさんだ。


「っ!?」

「きゃー!」

「ま、マホヨさん」 

 一緒にいた魔法少女たちが蜘蛛の子を散らしたように去っていった。


 ハヅキちゃんは硬直している。

 が、慌てて逃げようとするので。

 ガシッ! っと身体を掴んで逃さないようにした。


「か、カリンちゃん! は、離して!」

「せっかくだから自己紹介しようよ、ハヅキちゃん」


「あれ? あなたのこと知ってるよ! 世田谷区の花火の魔法少女マギ・ファイアワークの中村ハヅキちゃんだよね?」

「わ、わたしのことを知ってるんですか!?」


「もちろん、前に一緒に怪人をやっつけたでしょ?」

「い、いえ一緒に戦ったというか私が怪人に捕まってたのを助けてもらったと言うか……」


 私の時とまったく一緒だ。


 どうやらマホヨさんの中で、『魔法少女を助ける = 一緒に戦った』扱いになるらしい。


「カリンちゃんとは担当地区が近いよね? 仲良くしてあげてね☆」  

「は、は、はい!」

 ハヅキちゃんはガチガチに緊張したまま。

 強引に会わせちゃって、悪いことしたかな。


「んー、他にもカリンちゃんと同い年くらいの魔法少女いたよねー。あの子たちの担当エリアは少し離れているけど、年代近いならきっとそのうち現場であうこともあるから仲良くしておいて損はないと思うよ」

 どうやらマホヨさんは、さっき逃げていった魔法少女のことも把握しているみたい。


「マホヨさん、詳しいですね」

 と聞くと。


「え? 東京の魔法少女の顔と担当は全部覚えてるよ? みんなそうじゃないの?」

「ぜ、全部ですか!?」

 マホヨさん、意識高っ!


 と思ったけど、どうやら東京中の魔法少女のヘルプに出ているので、ほとんどの魔法少女と面識があるらしい。 


 やっぱり光の魔法少女は凄いなー。


「マホヨー、健康診断終わったからって先に帰らないでよー」

 ヒメノさんが戻ってきた。


「あれ? カリンちゃんと一緒にいるのって世田谷区の担当の子だよね? カリンちゃんの友達になったの? じゃあ、私も友達だねー☆」

「はわわわわわっ……」


 いきなり抱きつかれたハヅキちゃんが子犬のように震えている。

 ヒメノさんのスキンシップも急だからなー。


(カリンちゃん! 私はどうすればいいの!?)

 きっ! と小声でハヅキちゃんに怒られた。


(仲良くなっちゃえばいいよ)

(心臓が持たないって!)


(とりあえず回復する炭酸水ヒールソーダ飲む?)

(飲む!)

 私が魔法で出した水を飲むと、一気飲みしてむせていた。

 炭酸を一気するから……。


 私とハヅキちゃんが、マホヨさん、ヒメノさんと話しているとさっき逃げていった魔法少女たちも戻ってきた。


 マホヨさんはもちろん、ヒメノさんも全員の顔と名前を把握していた。


 みんなそれに感激してるみたい。


 午後はみんなで訓練することになって。


 こうして私は、ちょっとだけ魔法少女の知り合いを増やすことができた。

 





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