第14話 α個体④ 一撃
オオカミから見ればクリムゾンカラーの円が回転しているように見えているだろう。
その円は男の身体を隠し動きの一切を見せない。
オオカミは不明な円に対し様子見をきめこんでる。
「なんだ来ないのか?ならばこちらから行くぞ」
男はグッと腰を落とすと突撃とともにオオカミにレイピアで突きをしかけた。
その突きはオオカミの胴体に深く突き刺さる。
しかし、それでも突撃の勢いは止まることなくオオカミは近くの家の壁へと押し込まれて激突した。
「ハハ。軽いな」
崩れた壁の瓦礫に埋もれて倒れこんでいるオオカミから男は笑いながらレイピアを抜く。
その一撃の破壊力にケンとベルは唖然としている。
「少年少女よ安心しろ。このオオカミはもう立ってはこない」
暗がりで確認はできないがオオカミは瓦礫に埋もれて動く様子もない。
男の言葉を信用してケンとベルは屋根から降りてきた。
「ありがとう・・助かったよオジサン」
男をオジサンと呼ぶケン。
近くに来て初めて見る男の顔は三十代後半くらいに見えた。
前髪を後ろに流し油で固めている品行方正な髪型をした凛々しいハンサムな男だった。
「あの、ありがとうございました」
ベルが男にお礼を言った。
「いや、遅くなってすまなかったな。キミは魔導師か?」
「はい、そうです」
「ではワタシの仲間からのメッセージは届いていたかな?」
「はい!何度もノッキングするような魔力の波を感じました。それでお仲間の魔導師さんにもお礼を言いたいんですけど、どちらに?」
男はスッと指を差す。
「あの、丘の上で野宿をしている」
暗くて何も見えないが昼間には確かに目立つ小高い丘が見えた。
「えーっと・・その丘って、この村から1キロ以上ありそうにも見えましたけど」
昼間の記憶でしかない情報だが、数百メートルなどという距離でないことは確かだった。
「まぁ、それくらいはあるかな」
「それくらいって・・冗談ですよね?」
ベルは索敵魔法で使う魔力の波をその距離から飛ばしてきたという話を信じられず笑って冗談か?と尋ねた。
が、男は笑うことなく本当だと答えた。
「ウソでしょ・・そんなことできるの」
自分の索敵範囲とは桁違いの魔導師がいる事実に愕然とするベル。
すると凹むベルをよそにケンが男に話しかけてきた。
「オジサンすごい強いね!何者なの?あの一撃は何流剣術?」
まくしたてるケンを落ち着けと掌をケンに向けて制止する男。
そしてケンが落ちつくと男は語りだした。
「オレの名前はヘロニモだ。冒険者をやっている」
「同じ冒険者・・でもすごい強い 」
「いや、少年もかなり強いじゃないか
「うん?今日初めて駆除依頼を受けた」
「なに!?」
ケンが初めて駆除依頼を受けたという事実に驚愕するヘロニモ。
「少年。首飾りは銀か?銅か?」
「首飾りは銅だよ」
ケンは服の中からぶら下げている冒険者の証である首飾りを取り出す。
ヘロニモはケンの首飾りに手をかけると裏返してエンブレムの裏側を見た。
「これは驚いた新米も新米じゃないか」
「何で分かるの?」
「ん?冒険者の首飾りの意味をパリのローランから説明されてないのか?」
「されてた気がする」
曖昧な答えのケンだが、もちろんローランは冒険者になる者に対してはしっかりと説明をしている。
ケンがただ聞いていなかっただけである。
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