第11話 α個体①
教会の扉の灯りが巨大なオオカミを照らし出す。
オオカミはメラニーの胴体を咥え、血が滴り落ちているのが見えた。
その光景に固まるケンとベル。
硬直の最中、鐘塔から聞こえたのは悲痛の叫び声だった。
「ケン!ベルさん!メラニーが食われた」
ジャンだ。
この一言を伝える間に何度も声が途切れかけていた。
もはや、まともな精神状態ではないことを思わせる。
「メラニーが・・死んだの」
目の前の悲惨な光景。
信じたくない事実を伝えられたベルがボソッと呟く。
「うそよ・・少し前まで生きてたのに」
冒険者になって初めて目の当たりにした人の死。
ベルは悲しみと恐怖に涙が溢れでてきた。
そして、ついには脚の力も抜けてその場に座り込んでしまう。
メラニーの死は鐘塔の上にいるジャンとフレディ、そしてベルの精神を見事に砕いてみせた。
しかし、そんなときでもオオカミのα個体は決して狩りを辞めない。
低い唸り声を鳴らしながらベルたちを見ている。
するとオオカミの足下でドサッと音が鳴った。
オオカミがメラニーの死体を口から離し地面に落下した音である。
「メラニー!」
ベルが地面に横たわるメラニーを見て叫んだ。
そして、同時にオオカミは弱りきったベルを目掛けて猛突進をしかけた。
「いや!」
異常な瞬発力で一瞬で巨躯がベルの目の前に迫った。
ベルはなす術もなく、反射的に顔の前に手を出して目を瞑ってしまう。
そんなベルをオオカミは口を開けて頭を噛み砕こうとした。
その瞬間。
「
ケンの鋭い飛び蹴りがオオカミの前足に叩き込まれた。
堅い木靴がオオカミの足関節にめり込む。
さすがの巨躯もバランスを崩してベルの頭を噛み砕きそこねた。
「重たい・・さすがに転倒まではいかないか」
オオカミを転倒させて時間を稼ぐつもりだったケン。
ケンの咄嗟の蹴りはオオカミのバランスを崩すまでに終わったが、僅かな時間を作ることに成功した。
ケンは間を置かず生じた僅かな時間で皆を叱咤激励する。
「みんな、やるべきことをやれ!!」
ケンは時間を浪費することのないよう最低限の一言で叱咤激励をする。
しかし、生じた僅かな時間はその一言を許すのみだった。
すでにオオカミの牙はケンの頭に襲いかかっていた。
そして、オオカミの口は止まることなく閉じられた。
「ふぅ・・あぶね」
だがケンは無事だった。
寸前まで、避ける体勢すら取っていなかったケン。
なぜ避けることができたのか。
「バカ・・危ないことして」
「ベルちゃん!サンキュー」
ケンの身体が発光している。
それはベルの身体強化魔法
ベルはオオカミの牙が届くときに既に魔法をケンにかけていた。
そして、ケンは即座にベルを抱えて民家の屋根に飛び乗り、オオカミとの距離を取る。
「ベルちゃん。オレの叱咤激励が効いたの?」
「バーカ、アンタがオオカミ蹴った瞬間には魔法の準備を始めたわよ」
一度ずつ危機を乗り切った2人は軽口を叩き合える程度には正気を取り戻していた。
「てゆーかアンタには死を悼む気持ちはないわけ?普通、仲間が死んだら、すぐに動けないでしょ」
「いや、一瞬ビックリしたけど動かないと死ぬし」
メラニーの死を悲しんでいないような言われようにケンは少し焦っている。
しかし、ベルはそれ以上は何も追及することもなくうっすら笑みを浮かべて一言。
「この人でなし」
ケンはその一言にえっ?と思わず驚嘆したのは発言とベルの表情は一致していないからだ。
そんな一言に首を傾げるケン。
しかし、ベルはそんなこたお構いなしに次の行動へと移った。
「さぁ、このデカブツを暴れさせたら村は壊滅よ!」
ベルはすぐさまジャンとフレディに村人を安全なところに避難させるよう指示をした。
2人は落胆しながらも動きを始めた。
「ケン!村人の方に行かせてはだめよ」
「分かってる!」
オオカミが鐘塔から降りてきたジャンとフレディを狙おうと顔の向きを変える。
しかし、オオカミの眼前に落ちてきたのはケンだった。
「行かせねーぞ。デカブツ」
ケンはオオカミの行く手を阻む。
オオカミとの戦いが再び始まろうとしていた。
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