第3話 新米冒険者③ 戦闘

 街の往来でケンと剣の男が睨み合う。

  

 「チビガキ。オレをぶっ倒すとかほざいてたな」

 「そうだよ。でも、おとなしく立ち去るなら何もしない」

 「フハハ!随分と態度のでかいチビだな」

  

 剣の男は手をかけていた剣を抜きケンの顔の前に突きつける。


 刃を顔の前に突きつける威嚇で、ケンを萎縮させるつもりだろう。


 しかし、剣の男の思惑通りにはならなかった。


 ケンは萎縮するどころか微小してみせる。


 「何だ?笑ってんのか」

 「あぁ、街のゴロツキたちに囲まれてたオレにはこんな脅しはきかねーぜ」


 ケンの言葉に剣の男は大笑いをしだした。


 ケンはその大笑いを訝しげな表情で見ている。


 「オレはな蛮族との戦いで10人はぶち殺したんだ。街のゴロツキたちを相手にしているつもりでいたのなら死ぬぜ」


 剣の男は大笑いを辞めて開いていた大口を閉じた。


 すると高揚を抑え静かに話しだした。


 「見ろ、この傷の数々を」


 男は顔のキズを1つ1つ指出なぞり、ケンに見せびらかす。


 それをケンは目で追うように見る。

 

 「戦いの証だ。この数が強さの証だ、これだけのキズを負っても生きているんだからな」


 そう持論を語る剣の男。

 

 しかしケンにはそれが到底理解できず首を傾げている。


 すると何かを閃いたようにケンは剣の男に向かって話した。

 

 「それはおかしいだろ?キズは弱いから負うんだぞ」


 剣の男の持論を根底からひっくり返すようなケンの発言。


 痛快なショーを見ているようでギャラリーたちもクスクスと笑う声が聞こえた。


 この状況に剣の男はドンドンと顔が赤くなっていく。


 「こ、このチビガキ・・」


 怒りのあまりに言葉が出てこない剣の男。


 最早、言葉による戦闘の開始は必要ない。


 剣の男は怒りに任せて剣を振りかざして踏み込んできた。


 「殺してやらーーー!」


 突っ込んでくる剣の男にケンは怯むことなく腰を落としてサッと構える。


 そして、剣の男の出足に合わせて膝関節を足底でストッピングした。


 「うおっ!!」


 剣の男は勢いよく躓いたようにケンを超えてすっ飛んでいき、半回転して石畳の地面に叩きつけられた。

 

 「いってぇーー」


 受け身も取れずに後頭部を強打した男は悲鳴を上げて地面に寝ている。


 「挫蹴エントロス・シャッセ。立つと膝関節が痛いよ」

 「このチビガキ!猪口才なことをしやがって」


 身体を起こしケンを睨みつける剣の男。


 頭がふらつくのか思うように動けてはいない。


 腕をついて起き上がろうとしている。


 「しゃーねー追撃で終わらせるか」


 ケンがトドメを刺そうと腰を落として構えた、そのときだった。


 「そこまでだ!!」


 2人を止める声がこの場に聞こえてきた。


 ケンは聞き覚えのある声に身体がピクっと固まった。


 「この声は・・ 」


 声の聞こえてきた方角は冒険者商館の方からである。


 ギャラリーが左右に展開していく。

  

 すると足音とともに1人の男が現れた。

  

 声の主は冒険者商会のローランだった。

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