第4話 新米冒険者④ 調停

 ケンと剣の男の前に駆けつけたローラン。


 ローランの登場によりケンも剣の男も動くことをやめ、視線をローランへと向ける。


 「おまえらすぐに喧嘩を辞めろ。これ以上やるなら上に報告するぞ」


 商会の管理側の人間に盾を突くことは冒険者の御法度。


 怒りに満ちていた剣の男も冷静になる。


 ローランはとりあえず事態が収束したことにふぅと息を漏らした。


 そしてケンの方を向いて一言。


 「ケン何をしている?」


 ケンはローランから厳しい口調で尋ねられた。


 ローランの口調と視線にケンも少し気圧されたのか、額から汗をかいている。


 「いや、このオッサンが、あのオジサンに難癖つけてたから助けただけで・・」

 「それは言い訳だ。聞けばケンもこの男を煽っていたそうじゃないか」

 「ぐ・・ そうだけど」

 「争う意思があったことは明確だ。お前なら連れて逃げることもできるだろ」


 ローランに諭されてケンはぐうの音も出てこない。


 「まったく・・」


 ローランはつぎに剣の男へと視線を向けた。


 剣の男はまだ床に座ったまま萎縮した様子で上目遣いでローランを見つめている。


 「キミはリヨンの冒険者だな?パリでの勝手な振る舞いは困る」


 リヨンは冒険者商会のある別の都市の名前だ。


 冒険者の首飾りのエンブレムで登録都市の判別できるようになっている。


 「ちょっとからかってやろうと思っただけで、チビガキが絡んでこなければ、こんなことになってねーよ」

 「揉め事の発端はキミだろ?軽率な行動が招いた結果だ」

 「うっ・・」

 「リヨンには報告せずにいてやるから、すぐにパリを出ていけ!」


 ローランは声を荒げた。


 剣の男はローランから視線を背け、何も言わずに立ち上がり踵を返して去っていった。


 そのさいに剣の男は肉をうっかり忘れていった。


 ケンはそれを見逃してはいない。


 「さてと・・」


 ローランは再びケンの方を向いた。


 「ケン、お前たちも家に帰れ。ここにいては騒ぎが収まらない」


 ケンはローランに従い、帰ることにした。


 路上の肉を拾い上げ、金額を返そうとしたことろでケンはローランへ念を押していこうと思いついた。


 押したい念は駆除依頼を受ける条件についてだ。


 「ローラン、そういえば」

 「なんだ?」

 「駆除の依頼。経験者が同行すれば受けてもいいんだよね?」

 「うん?それならば、かまわんが・・ 」

 「えへへ、約束だぞ」

 

 ローランはアテがあるのか?というような表情で笑顔のケンを見つめる。


 「じゃあねローラン!」


 ケンはローランに背を向けて、向かう先は弓の男。


 弓の男のもとへ行き、交渉の結果を聞いてみる。


 「オジサン。ちょっと思ってたフィナーレとは違ったけど、約束の件はどうだろう?」

 「駆除依頼の同行の件だよな」

 「それそれ」

 「もちろん、いいとも。少年は恩人だからな、今回はホントにありがとう」


 弓の男はケンのお願いを快諾してくれた。


 2人は握手を交わし、約束は成立。


 「少年。明日の午前は空いているか?」

 「うん。掃除しかやることないから暇だよ」

 「じゃあ、冒険者商会に来てくれ。そこで詳細な話をしよう」

 「分かった!頼んだぜ」


 うっすら笑みを浮かべてコクリと頷く弓の男。


 それを何気なく見ているローラン。


 「ん?あの弓の男は駆除系冒険者のジャンか・・あっ!?」


 ローランは2人が握手を交わしているのを見て感づいた。


 「そういうことかケン。この騒ぎはアテが見つかったから・・」


 しかし、ローランはそれ以上は語らなかった。


 理由はどうあれケンが弓の男を助けたことには変わりないから。


 「ケン、お前というやつは単純に見えて打算的というか現金というか・・」


 ローランはケンという人間を考えて少し呆れるように微笑したのだった。

 

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