第5話 オオカミ駆除①
食卓に並ぶ肉と野菜くずを煮込んだスープにライ麦パン。
肉の味が染み込んだスープにライ麦パンを浸して食べる。
これが昨日のケンとベルの夕食だった。
「おはようベルちゃん」
幸せな食事をした次の日の朝がやってきた。
「良い天気だよ」
ケンは1つしかない部屋の窓を開ける。
ギイっと古びた音がして窓が開くと光が差し込み部屋の中で舞う埃を照らした。
「埃すごいわね。街の掃除よりもこの部屋の掃除したいわ」
「まぁ安いボロ賃貸だからね。新米冒険者に貸してくれる部屋なんてこんなもんだって言われたし」
「悲しい話よね。元ボンボンもこうなっては哀れだわ」
横で自分を悪くいいながら嘆くベルを見てケンは苦笑い。
「でもさ。今日からはちょっとマシな生活できるかもよ」
「それもそうね。駆除の依頼をこなせば毛皮や肉が手に入るから報酬プラス素材で儲けられるわ」
「エヘヘ、楽しみだね」
「さぁ!膳は急げよ」
ケンたちは弓の男と約束した午前中に商会へと向かうことにした。
ライ麦パンと残りのスープを食べ身支度を済ませ部屋を出る。
部屋を出て5分ほど歩くと商会は見えてくる。
「着いた」
川沿いの大通りの3階建ての大きい建物。
それがパリの冒険者商会である。
朝から冒険者や依頼人が多く訪れていた。
「さて、オジサンはいるかな?」
ケンたちは館内へと入ると大勢の人が受付へやって来ていた。
ケンはすぐさま待合の机に弓の男がいないかと見渡すと片手に葡萄酒を持っている弓の男と仲間を見つけた。
弓の男も気がついたのかケンに手を振ってここだと声をかけてきた。
ケンたちもそこへ駆け寄る。
「やぁ、少年。昨日はホントに助かった」
「いいよいいよ。それより、依頼の件」
「待て待て。オレたちはまだお互いをよく知らないんだ自己紹介くらいはさせてくれ」
ケンは駆除依頼へ行ける楽しみのあまり気持ちが先走っている。
弓の男は鼻息を荒くするケンを落ち着かせる。
そして、弓の男の冒険者パーティーの自己紹介が始まった。
弓の男のパーティーは男2人に女1人である。
弓の男がリーダーで名前はジャン。
年齢は29歳で、少し老け顔である。
体躯はそれほど良くないが高身長でなかなかの色男である。
ジャンは弓を扱う冒険者で狩人を生業とする家の生まれである。
主にオオカミやシカなど人との生活圏に近い獣を狩る依頼をこなしている。
もう一人の男はフレディ。
こちらも弓を扱う冒険者でジャンよりもかなり歳下で年齢は20歳の若手。
中肉中背の若者。
そして最後に魔導師のメラニー。
年齢は20代後半だという魔導師の女性だ。
ベル同様、黒いマントを羽織っている。
「ジャンのところはみんな
「あぁ、オレにはそれしか能がないからな。それに群れ相手に狩りをするなら遠くから狙うのが一番楽だ」
「へ〜オレ弓を使ったことないしな。どうしよう?」
「問題ないよ。ケンの格闘術はピカイチだからな」
「群れ相手に格闘術って使える?」
ジャンはケンの質問に対して丁寧に説明をしてくれた。
接近戦が強い仲間がいれば群れをおびき出す囮もやれるし隠れている群れを外に炙り出すこともできる。
そこを射手が撃ち取れば、依頼は早く済むと。
「オレたちは群れが全容を現すまで2、3日同じ場所で見張ることもある。ケンみたいな強い仲間がいればだいぶ楽になるよ」
「へ〜そうなんだ。オレがいれば楽になるのか」
ジャンに褒められてケンは嬉しそうだ。
そんなケンをベルは腕組みをし、呆れた表情で見ている。
ベルには嬉しそうにしている締りのない顔が少し不安に感じたのかもしれない。
「アンタね、今の話はホントに大丈夫なの?」
「何が?」
「何が?じゃないわよ!確かにアンタはパリのゴロツキの中でも2番目に強いけど相手はオオカミの群れよ」
眉を吊り上げて、厳しく忠告すベル。
しかし、その忠告もケンには糠に釘。
ケンはニコニコと笑顔をベルに向けて言った。
「やばくなったらベルちゃんの身体強化でオレを強化してくれれば大丈夫だよ」
忠告を全く聞かないケンに呆れ返るベル。
「アンタはまた勝手に人をアテに・・まぁ、いいわよ。ホントに言い出したら聞かないんだから」
人をアテにするなと言いかけて辞める。
他人を信用しきるケンに歯がゆい気持ちもあるが、言ったところで聞かないのはベルには身に沁みている。
ベルはため息をつくと諦めて、ジャンによろしくと伝える。
「決定だ!ケン、ベルさん。よろしく頼むよ」
こうしてジャンのパーティーに同行して駆除の依頼を受けることとなった。
受付に行くとオオカミの駆除、シカやクマと色々な駆除の依頼があり報酬が一番高いのはオオカミであった。
「オオカミが一番難しいからな。ただ毛皮は高く売れるから儲かるよ」
ジャンのこの言葉にケンとベルは迷いなくオオカミ駆除を選んだ。
そのときの2人は金に目がくらんだ軽率な若輩者といったところだ。
「大丈夫かな・・?」
ジャンはその姿に一抹の不安を感じながらも受付のローランのもとへと歩いていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます