第17話 ヘロニモ② 十勇士

 ヘロニモの黄金に輝く金の首飾り。


 αアルファ個体を一撃で仕留める強さも合点がいくというもの。


 「ヘロニモさん金なんですか!?とゆーことは十勇士パラディンの1人・・」

 「そうだ。十勇士パラディンの10の席を担っている」

 「道理でものすごく強いわけだ・・」


 ヘロニモが十勇士パラディンの1人だという事実にジャンとベルが驚く。


 一方でケンは何のことだか分からないという様子で2人を見ている。


 「ねぇ十勇士パラディンって何?昔話とか叙事詩とかに出てくるアレ?」

 「アンタねぇ無知も大概にしなさいよ。金の首飾りを貰えるのは冒険者商会のお偉いさんたちから認められた超エリート冒険者10組のみなの」

 「そうなのか。だからヘロニモは超強いのか」


 十勇士パラディンの意味を知りヘロニモの強さに納得するケン。


 次にケンは木靴のつま先をトントンと地面に叩きつけて履き心地を調整しだした。


 他の皆がケンの突然の行動を不思議に見ていると、次にケンが放った言葉に皆が驚かされた。


 「なぁヘロニモ。オレと試合してくれないか?」


 突然の申し込み。


 ジャンとベルは呆気に取られている。


 「ん?何故だ少年」

 「ヘロニモが冒険者の頂点に近い男だっていうなら確かめてみたいんだ。パリで鍛えてきたオレの格闘術がどれだけ通用するのか」

 「ふむ。よかろう」

 「ありがとう」


 ヘロニモとケンはお互いに一足一撃の距離を取る。


 さすがは十勇士パラディンと言うべきか、ヘロニモが構えただけでケンの額には大量の汗が噴き出した。

 

 「ベルちゃん合図をお願い!」

 

 ケンはヘロニモの強大な圧から逃れたい一心で合図を急かした。


 ベルはコクリと頷くと手を上げた。


 「いくわよ――始め!!」


 ベルの手が振り下ろされ号令とともに火蓋は切られた。


 ケンは定石通り相手の初撃に合わせて挫蹴エントロス・シャッセを叩き込むために脚を出そうと動いた瞬間。


 すでにヘロニモのレイピアはケンの喉元を捉えていた。


 「まいった!!」


 開始から一秒と経たず勝敗は決した。


 ヘロニモはレイピアを喉元から引き腰の鞘へとレイピアを納めた。


 ケンも張り詰めていた緊張が緩んだのか足下から崩れて座り込んだ。


 「かなり遠いな・・」

 「タイミングも悪くない。が、ワタシの方が早いだけの話だ」

 「その差が埋まるイメージが沸かないから落胆してるんだよ」

 「その差は無数の鍛錬や死闘を経験しているかどうかの差にすぎない」

 「うーん?よく分からないけど、そうゆうものなのか」

 「詳しく教えたほうがいいか?」

 「いや、いいよ。そうゆうことは自分で考えて得た方が身につくし」


 ケンの言葉に少し嬉しそうに笑うヘロニモ。


 「少年、名前はケンとか呼ばれてたな」

 「そうだよパリの冒険者ケンと魔導師のベルちゃん。まだ駆け出しだけどね」

 「覚えておくよ。久しぶりに出会えた、しぶとそうなルーキーだからな」

 「ハハ、変な褒め方だな」


 ヘロニモはケンに対して冒険者に対しては最高の褒め言葉だと笑って言う。


 「さてと―――」

「どうしたヘロニモ?」

 「やることはやったし、オオカミの毛皮や肉を回収して朝まで休もうか」

 「おぉ忘れていた!αアルファ個体の取り分だけどヘロニモが持っていってくれよ!オレたちじゃ倒せなかったし」

 「いや、ワタシは止しておこう」


 ケンの申し出を断るヘロニモは既にケンたちに背を向けていた。


 「仲間の魔導師を迎えに行ってからパリへ行きたい」

 「パリに?何をしに?」

 「ローランに説教だよ」

 「ローランに??」


 ヘロニモはパリまでローランに説教をしに行くという。

 

 「今回ワタシがここに来たのはαアルファ個体のオオカミの目撃情報が近隣の村であったからだ」


 遠くを見つめて話すヘロニモは話を続けた。

 

 「近くまで来て仲間の魔導師が索敵魔法を使ったらαアルファ個体が誰かと交戦しているとか言うから風の如く走ってきてみれば、まさかの新米冒険者だ」

 「ヘロニモさんが来なかったらワタシたち死んでたから助かったわ」

 「その通りだベル。そして、これは新米冒険者にαアルファ個体のいる危険な依頼を任せたローランのミスだ」

 「αアルファ個体がいることを知らなかったんじゃないの?」

 「ローランの仕事は依頼の情報を得て難易度を精査することであって知らないでは済まされない。実際に人死にも出た」


 ヘロニモの言葉にベルもそれ以上は何も言わなかった。


 「だからワタシはローランを説教しに行くのだ」

 

 誰もそれ以上はヘロニモに追及することはなかった。


 そしてローランは皆に別れの挨拶を告げるとパリへと向かって歩き出した。


 ケンたちは暗闇の中にクリムゾンのマントが消えゆくのを見送ったのであった。

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