第1話 新米冒険者①

 高い城壁のなかに木造の集合住宅が所狭しと立ち並び街の中央を大河が流れている。


 街を流れる大河には島が浮かび、右岸には王の住まう立派な城がそびえ立つ。


 この街の名前はパリ。


 パリには王様や貴族が住んでいるほか市民や商人、移民がこの街の豊かさに惹かれるように寄り集まっている。


 そんな裕福と貧困の混じり合うパリに2人の男女がいた。


 少年の名前はケン。


 黒髪の短髪で小柄な15歳の少年である。


 少女の名前はベル。


 金髪の長いツインテールの少女。


 2人は最近、冒険者商会に登録したばかりの新米冒険者である。


 今まさに依頼をこなしている真っ最中。


 2人は牛革で作られた袋と箒を持って街の掃除をしていた。


 生ゴミ、人糞など様々なものが道の隅に集められているのは市民が生活上で発生するものを自分の家の前に捨てているからだ。


 「くっさ・・」


 ボソッと文句を呟いたのはベル。


 「何でワタシたちは冒険者になって冒険せずに街の掃除してんのよ」

 「仕方ないだろ。新米に任せてくれる依頼がこれくらいしかないんだから」


 新米。


 首もとで揺れている鋳銅製の首飾りがそれを示している。


 冒険者は経験を積んでいくにつれて鋳銅製、鋳銀製、鋳金製の首飾りへと変わってゆく。


 「海の外に行くとかドラゴン討伐をするとか豪語してた矢先の掃除だもの。文句の1つも出るわよ」

 「知らなかったんだよ。最初はこんな地味な依頼しか受けられないなんて」

 「は〜とんでもないリーダーのパーティーに入っちゃったわ」


 ベルは冒険者になってからというもの毎日街の掃除で糞やゴミの処理をさせられていて鬱憤が溜まっている。


 「まぁまぁ人生長いし。気長にいこうよ」

 「ワタシはアンタに夢見させられて冒険者になったんだから、そうゆうことをアンタが言うとムカつくんだけど」

 「アハハ怖いな〜ベルちゃん。あそこの子供が怯えてるよ」

 「は〜調子のいいやつ・・」


 文句を言いながら渋々掃除を続けるベル。


 糞や生ゴミを革袋に入れて、荷台へと移していく。


 「いつになったら稼げる依頼を選べるのかしら・・」

 「どうなんだろうね?実績を積んでいけば紹介してもらえると思うけど」

 「行き当たりばったりってわけね。道端で占い師やってるのと変わらないわね」


 2人は荷台に溜められたゴミや糞を街の外へ運び川に放り込む。


 街にとって必要な仕事だが夢を抱いて冒険者になった2人には退屈で、こんな仕事がいつまで続くのかと不満があった。


 担当の場所が終わると仕事は終わり冒険者商会の受付へと戻る。


 「やーおつかれさん。新米のかわいい冒険者さん」


 受付で待ち受けていたのは細身の中年男性。


 顎に髭を生やしたその男の名はローラン。


 商会で依頼の受付をしいる。


 報酬を渡したり、冒険者の実力を見計り適正に依頼を用意をしたりする。


 「ローラン。ほかに冒険者っぽい仕事はないのかよ」

 「そうよ。ワタシたち掃除屋じゃないんだから」

 「ハハハ、生き急ぐなよ若者」


 ローランはいつもこんな感じでケンたちの話をはぐらかしてくる。


 「頼むよローラン。オオカミ退治とかやらせてくれよ」

 「そうよ。ワタシたち、けっこうやれると思うわよ」


 ケンたちの要求に悩むローラン。


 あごひげを触って、何かを考え込んでいる様子だ。


 「う〜ん。お前らの強さはゴロツキたちから聞いているから知ってるけど、猛獣退治とかは単純に強ければ良いってわけじゃないからな〜」

 「どうゆうことだよ?」

 「群れを相手にすると数の暴力に食われることもある。オレはそれなりの冒険者たちがやられたのを何度も見てきたんだ」

 

 それを聞くとケンたちは緊張でゴクリとつばを呑んだ。


 しかし、どこか納得しきれずもどかしそうな表情だ。


 「どうしても退治依頼を受けたければ経験豊富なパーティーと組んで依頼を受けるんだな」


 ローランはそう言うが、ケンたちにそんなアテはない。


 紹介してくれと頼むが、甘えるなと一蹴されて終わりだった。


 「さぁ報酬もらって帰った!帰った!」


 ケンたちは報酬の小銀貨数枚を手に握らされて帰宅をあおられた。


 ローランは金を渡して子供をあしらうような態度に2人は少し腹が立ったが、疲れていたのでパンを買って帰ることにした。


 いきつけのパン屋は冒険者商会の3件先にある。


 白パンは売っておらずライ麦や大麦のパンを取り扱う貧困層向けのパン屋だ。


 「ライ麦パンを小銀貨2枚分ください」

 「ベルちゃん、たまには白パン食べようよ」

 

 ベルが店主にパンを頼むとケンは白パンが食べたいと駄々をこねた。


 「うっさいわねボンボン。庶民はみんなこれを食べてんのよ」

 「トホホ。冒険者になってからというものライ麦パンと野菜くずのスープばかりだ」


 硬い黒パンをスープにつけて食べる毎日は貴族出身のケンにはたまらなくひもじいようである。


 貴族の使用人が白パンを持って歩いているのを物欲しげに指を咥えて見ている。


 「家賃も払わなきゃいけないし贅沢できないのよ。クソ貧乏冒険者なんだから」

 「あ〜金払いのいい依頼を受けたい」


 家賃や食費で収入の大半が飛んでいく。


 そんな生活から脱却するためには稼げる依頼をこなすしかない。


 しかし、その依頼を受けさせてもらえないという板挟み状態に頭を悩ませるケン。


 どこかに金になる話は転がっていかと周りを見ていると、誰かが揉めている声が聞こえてきた。


 「おい!!どこ見てんだ」

 「ご!ごめんなさい」


 揉めているの2人の男。


 2人とも首から冒険者商会の鋳銅の首飾りをぶら下げている。


 弓を背負った男が剣をぶら下げた男にぶつかって肉を地面に落としたとかで難癖をつけている。

 

 「いや、そちらが急に方向を変えてぶつかってきたんだ」

 

 弓の男も言い返してはいるが随分と引け腰なようだ。


 剣の男はガタイもよく顔に傷があるので引け腰になるのもなんとなく頷ける。


 「この肉を2つ分弁償しろ。そしたら許してやる」

 「そんな・・」

 「オレたちはな北の蛮族と前線で戦ってきた帰りで疲れているんだよ。気が立ってるから怒らせんじゃねーよ」

 「うっ・・ 」


 北の蛮族というのはヴァイキングだろう。


 「オレたちは獣の駆除の依頼をこなしている冒険者だ。そんな肉を買う余裕はない」

 「なんだと!どうやら痛い目を見て〜ようだな。ハハハ蛮族どもを殺してまわった剣技を見せてやらー」


 ケンは今の話を聞いてニヤリと笑っている。


 それを見たベルは不思議に思い、ケンにどうしたのかと訪ねるとケンは笑ってチャンスだと答えた。


 「チャンスだよベルちゃん。あの難癖つけられてる男は駆除系冒険者だ。助けて同行させてもらおう」

 「あっなるほど。金の匂いがしたから笑ってたのね」

 「そーゆーこと」

 

 ケンは不満をたらしていときとは一変。


 血に飢えたサメのように金の匂いへと駆け寄っていった。

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