第20話 最初のテスト

 城の中に入ったあとは、驚いた事に丁寧な客人扱いをされた。

 大人の兵士たちはみんな優しくて、つい委縮してしまう。


 ミリシアは別の棟で、俺とルージュは同じ部屋になった。

 独立したベットが二つ。窓からは王都の街並みが一望できる。


 既に小物や戸棚が置いてあるところからすると、先住の人がいたのだろう。


「なんか拍子抜けだな。めちゃめちゃ厳しいって話だったのに」

「どうだろう。でもこういうときって、鬼教官みたいな人いるよね」

「はは、確かに。あれだろ、仁王立ちのスパルタ女性みたいな」

「そうそう」


 創作物を思い返しながら、どこの世界でも同じなんだなと考えつつ集合場所へ急いで向かう。


 するとそこには、仁王立ちの女性が立っていた。

 既にミリシアがいるが、おそろしいほど姿勢を正している。

 背骨まっすぐすぎないか?


 嫌な予感がする。ルージュと目を合わせた後、並走していたら――。


「お前ら、早く来い」


 静かだが、ドスの利いたような、けれども綺麗な声でその女性が言った。

 近づけばその人が恐ろしく美人だということがわかった。


 王都の制服を着ているが、ありえないほど気崩している。

 胸が大きくてつい見てしまいそうになるが、本能で殺されるぞと信号を発した。


「揃ったな」


 そのとき、突然にそう言った。

 え、まだ3人しか――。


「あ、あの」

「なんだ?」


 するとミリシアが手を挙げた。


「私たち、だけですか?」

「ああ私が担当・・するのはな」


 なるほど、そいうことか。

 さすがにこの人数だけとは思わなかったが、それだと理解できる。


「私の名前はココア・アリツィ。名前でいじったら殺す。呼び捨てしても殺す。わかったか?」


 誰も返事はできなかった。

 空気で、悟ってもらうしかなかった。


「わかったみたいだな。ここは第一、ココア班だ、第10まである」

 

 ということは、単純計算で30人が候補生ということか。

 一体、何人が選ばれるのだろうか。


 しかしまるで軍隊だ。

 まさかこんなことになるとは思わなかった。


「姿勢」


 突然に言われて、俺たち3人はふたたびピシッと姿勢を正す。


「お前たちは宮廷魔法結界師、魔法使い、索敵師――の候補生だ。これから約一年間生活を共にし、試験を重ね、そして合格したものだけが名前を名乗ることができる。だが重要なことを先に伝えておく。――全員が仲良く合格することはできない」


 その言葉に、ルージュがおそるおそる手をあげた。どういうことですか? と。

 俺も、まさかと心の中で声をあげた。


「言葉通りだ。3人のうち合格できるのは1人しかいない」


 つまり俺たちの中の二人が不合格になるということだ。

 そんなの……。


「……ほかの班も同じということですか?」

「その通りだ」


 10人しか合格できないということになる。

 こんなことなら、同じ班じゃないほうがよかった……。


「今10人か、と思っただろう。そんなことはありえない。半数も残ればいいほうだからだ」


 更なる衝撃だった。

 甘く見ていたわけじゃない。

 

 けど、想像以上に過酷だ。


 横を向けばミリシアとルージュの表情を見る事ができる。

 だが見ることが出来なかった。


 どんな表情をしているのか、知りたくなかったからだ。


「今日は説明のみ。――だったが、気が変わった。今から訓練を行う。異論は?」


 明らかに言える雰囲気ではない。

 だが願ったりかなったりだ。


 冷静に考えてみると、優秀さを見せつければいいだけだ。


 俺たちは試験を一位で合格した。

 魔印だって、五本ある。ルージュだって、ミリシアだって凄い。


 そしてココア――先生は、少しだけ俺たちと距離を取った。

 俺たちを見据えて、一言。


「3体1、どんな攻撃を使ってもいい。私をに全力で攻撃しろ。殺しても構わない。手加減してもいいが、どうせ無駄だとすぐわかる」


 その言葉に、心の底からふつふつと何かが湧いてくる。

 理不尽とまではいわないが、聞かされてなかった情報ばかりだからだ。


 そこでようやく、俺はルージュとミリシアの顔を見た。


 ――同じだ。


 絶対、後悔させてやる。


「何してる? おじけづいたのなら、すぐにここから出ていけ――」


「――『魔結界』」


 俺は、人差し指と中指を立てた。

 

 この世界に来てから誓ったのだ。


 誰にも屈しないと。


 俺は――その言葉を、忘れてない。


「ココア先生、後悔しないでくださいよ。――『魔滅』」


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