第8話 能力の確認
度肝を抜かれたとはこのことだろう。
神殿の中は、俺が思っていた何倍も広く、そして人で溢れていた。
「どうぞこちらです」
銀色の甲冑を着込んだ兵士たちに誘導されるがまま、前に進んでいく。
玉座の間みたいだ。左右に並んでいるのは貴族だろうか。
俺と同じぐらいの年齢の子供もいる。
「クライン、大丈夫だ。私がついてる」
どうやら父には見透かされていたらしい。
おもちは俺の肩に乗っていて静かにしているが、近くで立っていた貴族がおもちに気づいておお、と声を漏らしていた。
めずらしいのか、それとも苦手なのかはわからない。
それからも人がどんどんと増えていく。
いつまで待てばいいんだろうと思っていたら、衛兵の一人が高らかに声をあげて姿勢を正した。
「第一王子、フィリップ様が見学に来られた! 静粛にせよ!」
それに伴って、全員の顔が切り替わる。
話し声はピタリと止み、現れたのは20代前半の若い男性だった。
対照的に近衛兵と思われる男たちはみな屈強で、まるでプロレスラーだ。
「ありがとう、でもみんなそう気を張らないでくれ。父上の代わりに来ただけで、邪魔するつもりはない」
どんなに厳しい人なのだろうと思っていたが、第一声はとても優しさに溢れていた。
おかげで俺の心も少し和らぐ。だが次の言葉で、すぐその想いは消え失せた。
「今日の祝福の義を終えた時、人生が変わる人もいるだろう。良い意味でも悪い意味でも、周りの目も変わるだろう。だが誇ってほしい。君たちは既に選ばれた人間だということを」
次の瞬間、揃えたように掛け声を上げた後、全員が足を揃えた。俺は少し遅れてしまったが、事前に教えてほしかったなと父を少し恨んだ。でも父の表情を見ていたら、俺と同じで緊張しているとわかった。
第一王子は豪華な椅子に腰かけると、その権力を象徴するかのようにどっしりと構えた。
その後、ゆっくりと現れたのは怪しげな黒衣を着た五人だった。
黒子のように姿形が見えず、性別もわからない。
だが彼らのことは事前に聞いている。名前はない、ただ、魔法使いと。
祝福の義の詳細は教えてくれなかったが、能力の鑑定をしてくれるとのことだ。
彼ら、あるいは彼女らは解析の魔力を持つ人たちだという。
能力が低い、もしくは魔力の質を断定する際、逆恨みされないように、また買収されないように姿を隠して儀式を行う。
もちろん仕事を受けたことは他言してならない。
ただし俺は驚いた。
黒衣から突き破るくらいヒシヒシと魔力が伝わってくるのだ。
だが俺以外はそこまで感じていないのか、誰も表情を崩すことはない。
みんな、魔力に耐性があるのだろうか。
第一王子が視線で合図を送ると、祝福の義が始まった。
「ビアリス家の子、ルージュ! こちらへ!」
一人目は、父に嫌味を言っていたインバート卿、その息子、ルージュだった。
緊張しているらしく、歩き方はどこかぎこちない。
黒衣の真ん中の椅子に座ると、手の平を翳される。
一体何が起こるんだろうか。痛みとか伴うのは嫌だが、そんな様子はない。
次の瞬間、真っ白い光がルージュを覆う。
そして、黒子の一人が、隣にいたおじさんに耳打ちをした。
「魔印、中指、【
次の瞬間、歓声が上がった。
「魔滅か。一本指とはいえ、インバート家は安泰だな。大体の魔物をやれるぞ」
「ああ、悪くない」
周りの貴族たちの話しぶりから凄いらしい。
第一王子も「ほう、いいですね」と言っていた。
俺はどなるんだ……と、思っていたが、その考えよりも先に次の人が呼ばれた。
馬車で一緒になったミリシアだ。
金髪を揺らせながら前に出る。どうやらかなり緊張しているらしく、歩き方がぎこちない。
それがなんだか可愛くて、少し微笑んだ。
そして――。
「魔印、人差し指【
またもや歓声が上がる。魔獣とは、俺のおもちと同じなのだろう。
第一王子が見せてくれ、というと、ミリシアは何か口ずさむ。
すると空中に黒い塊が出てきたかと思えば、そこからウサギが出てきた。
まだ小さいが、みんな微笑む。
「愛玩型か、サーチ能力だろうか」
「魔結界との相性もいいだろう。彼女も安泰だな」
それからも貴族たちは呼ばれ続けた。
一本指、二本指、というのはそのままの意味であり、多ければ多いほど理由は、やはり能力が多いからだ。
俺は自分の手を眺めた。魔印が二本、そして見えない三本を合わせて五本。
……どうなるのか。自分でもわからなかった。
「ロイク家の子、クライン!」
そしてついに自分の番が来た。父上が軽く背中を押してくれる。
「私がついてるぞ」
おもちを肩に乗ったまま、周りがざわめく。
「なぜ初めから召喚しているんだ? 見せつけか?」
「魔力を消費するというのに……ロイクは何を教えてるんだ」
だがあまり肯定的ではないようだった。
椅子に座ると、何とも言えない空気が漂っていた。
黒衣の人たちが、俺に手を翳そうとする――だが、何かやら様子おかしかった。
今までにはない時間、なぜか黒衣の人たちは話し合いはじめる。
その後、何事もなかったかのように続けられた。
身体中がピリピリする。まるで電気を流し込まれているかのようだ。
なぜかわからないが、調べられている、とわかった。
体重や、身長、身体をくすぐられている気分になる。
そして這うような電気が、やがて指先に到達すると、ピリピリと魔印が痛みはじめる。
だが決して声が出るほどではない。
人差し指、親指、そして見えないはずの中指に到達した瞬間、黒衣の一人が、「え……」と声を漏らした。
女性の声だ。そしてそれは連鎖するかのように動揺していく。
薬指、そして小指を終えると、黒衣の集団は驚きを隠せなかったらしく、おじさんに耳打ちする時の声、身体が震えていた。
何かしたのだろうか。
不安がっていると、おもちが俺の頬を舐めてくれた。
「ぐるぅ」
「ありがとう、落ち着いたよ」
そしてついに、その時がやってきた。。
「ま、魔印、人差し指【
隣で黒子の翻訳をしていたおじさんが、思い切り叫んだ。
歓声は上がらなかった。静寂。
もしかして何か悪いことをしたのだろうか。
そう思った瞬間――。
「ご、五本指!?」
「バカな!? そんなのありえるのか!?」
「世界を変える強さじゃないのか……」
「五本だと!!!???」
周りが騒めき、歓声が上がった。
父が喜んでくれるのかと思って視線を向けたが、驚きのほうが勝っているようだ。
びっくりさせようとおもっていたが、もしかしたらやりすぎたのかもしれない。
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