第25話 見抜いた嘘と真実

 ドルスティは、剣に密度の高い魔力を漲らせて魔滅を叩き切った。

 淀みのない所作、攻撃力に思わず驚いた。


 そのまま魔結界をも叩き切る。

 ミリシアも随分と強くなったのだ。そんな簡単に切れるわけがない。

  

 しかし俺は奇妙な音に気づく。

 ジジジジ、目を凝らすとすぐにわかった。


 俺は、急いで叫ぶ。


「剣が振動してるぞ! 防御は効かないはずだ。気を付けろ!」

「ほぉ、なんだ気づくのがはええな」


 小刻みに動いている。

 魔力の波をあえて作ることで貫通力を高めているのだろう。

 元の世界の知識がなければわからなかった。


「魔結界!」


 しかし関心してる場合じゃない。

 何でも切れる剣と過程しても、防御とは関係ない。

 

 俺はいくつもの結界を出現させた。

 小さな魔結界だ。手足を囲ってそれぞれに20つほど。


 複数出せるメリットは壊されにくいことだ。


 一つだと切れ目を入れられたり、魔法で解除されることもあるが、複数で覆った場合解除に時間がかかる。

 その分、魔力の消費はあるものの、効果は高い。


 そして――魔滅。


「やるじゃねえか。けど、まだまだだな」


 だが驚いたことに、ドルスティは身体から溢れるほどの魔力を漲らせた。

 その全て振動している。


 当然、波が打っているので魔結界の効果を著しく弱める。

 そのままなりふり構わず動かして強制解除。


 そして、突っ込んできた。


「さあ、どうだ?」

「下がってろ、クライン、ミリシア!」


 カウンターでルージュが魔滅を放つ。良い手だが、ドルスティはいとも簡単にはじき返す。


「悪くない。けど俺にはきかねえぞ!」


 ぐんぐんと迫りくる。

 だが――。


「そうだな。ならこれはどうだ?」

「あ? ――がぁぁっああ」


 するとルージュの魔獣、リスのポリンが下から現れた。

 そのまま頭突きで一撃。これには驚いたのだろう。


 俺も後に知ったが、ポリンは怪力タイプの魔獣だった。

 小さくても力が強い。

 その重みは鋭く、ドルスティが痛みでのけ反る。

 そしてミリシアも黙っていない。


 間髪入れず魔結界を詠唱するも、それは明らかにいびつな形をしていた。


 ――凄い。


 おそらく振動を分散させる為、強制的に形を変えたのだ。

 

 一緒に訓練するようになって分かったが、彼女は天才だ。


 だが俺も――負けてられない。


「魔結界」


 小さく小さく、多くの魔結界でドルスティを覆う。

 振動には振動を。

 俺は魔変で性質を変化せた。微量な魔力で振動、つまり相殺だ。


「――ルージュ!」

「わか――ってるぜ!」


 タイミングを合わせることで、ドルスティに確実に止めを刺す。

 俺は小さな魔結界すべてに魔滅を、ルージュは人差し指で魔滅を放つ。


 これは避けれない。


 止めにおもちが炎を放つ。


 現状で一番の連携だ。


「……なるほど、お前ら優秀だな」


 しかしドルスティは笑った。

 次の瞬間、魔結界を全て解除して高く飛び上がる。


 ありえない力。


 だがすぐにわかった。


 これは――圧倒的な魔力の差だ。


 技術でも、小手先でもない。


 魔力総量が違う。


 俺たちも訓練を始めてから魔力がぐんぐんとあがっている。

 だけどまだ子供だ。――足りないのだ。


「じゃあなガキども」


 そしてドルスティは木を使って空中転換、俺たちに向かって飛んできた。


 いくら何でも3人同時にはやられない。


 ならば俺が前に出る。


 だがそれより、俺の予想が正しければ――殺されない。



「クライン!?」

「クライン!」


 さらに俺はあえて魔力を全部閉じた。

 そのまま前に出る。ルージュとミリシアは当然だが、ドルスティも驚いていた。


 無謀すぎる謎の行動だ。


「――ハッ、なんだお前、諦めたのか」

「ああ。――綺麗に勝つのはね」


 そしてドルスティの剣が俺に突き刺さる――前に魔滅を放った。


 ルージュと違って制御はできない。手のひらから出たのは、ただの黒い塊だ。

 まるでカーテンや毛布を投げたように広がる。

 

 俺は全魔力を漏出した。ダメージもないだろう。


 だが――視界は遮られた。


「な、んだと?」


 そのとき、剣が寸前で止まる。

 ミリシアが俺の前に魔結界で覆っていたからだ。


 歪な形だが、俺が魔結界で更に強固にしている。

 相手に油断させる為に目くらましをしたのだ。


 本命は、ルージュだ。


「――これで終わりだ」


 〇距離からの魔滅。いくらドルスティでも防ぐことは容易じゃない。


 俺の横から魔滅が、放たれる――。


 が。


「ルージュ、おしまいだ」


 俺は、ゆっくりと手を下げさせた。

 それにはドルスティも、ミリシアも驚く。


「クライン、何すんだよ!?」

「終わりなんだよ。――ですよね。ドルスティ。いや、ドルスティさん」


 すると突然、はっはっはっと笑い出した。


「いつから気づいてた?」

「初めから何となく。でも確信したのはその強すぎる力です。俺たちの連携技は完璧でした。今のは元騎士には破れるわけがない。そう考えると、自然なことでした」

「クックックッ、自分の優秀さで気づいたってか。傲慢だな」

「違います。仲間を信じていたからです。それに元騎士のドルスティ・ブルの経歴を見ました。その戦力を見極めたうえです」


 事前に調べた情報、ココア先生の譲歩からドルスティの力はここまで強いとは思えなかった。

 更に振動の刃も知らないわけがない。


 つまり――。


「――ったく。ココア! お前の言う通りおそろしいほど優秀じゃねえか!」


 すると後ろから声がする。


「だろう? だがまさかお前が追いつめられるとはな」

「ハッ、俺ならあの後も防いでたさ」


 どういうことかわからないとルージュとミリシアが困惑する。


「おいクライン説明してくれよ!?」

「そうよ、これは……なに?」

「これこそがテストだったんだ。いくら俺たちが候補生とはいえ、元騎士を追いかけるなんておかしい。それに七日間という指定も変だ。違う街に行っている可能性だって高い。それをテストにすることも疑わしい。ただ確信したのは、ドルスティ・ブル――彼の強さは異常だ。いくら俺たちが候補生とはいえ、魔結界と魔滅、更に魔獣の連携攻撃もあった。資料通りなら勝てないわけがないんだ」

「でも、それ以上に強かっただけかもしれないだろ?」

「そうだねルージュ。けど、魔結界は俺たち貴族、それも血筋がしっかりとしている遺伝魔法だ。彼の名前は貴族だけど、生粋の魔法使いじゃない。なのに、明らかに初見の動きではなかった。――ここからは俺の予想だけど、ドルスティさん、あなたは宮廷結界師じゃないんですか?」


 それにドルスティさんは笑う。


「はっはっ、そうだ。だが間違ってるな。俺は宮廷結界師だが、魔法使いでもあり、索敵師でも、んでももって戦士でもあるぜ」

「……それは」

 

 そこで、ココア先生が補足する。


「クライン、彼の本当の名前はドスティ・ブル。我ら宮廷魔法使いを束ねるリーダー。今最も【守護神ガーディアン】に近いと呼ばれている男だよ」

「え、ええええええええ!?」

「ええええええ!?」


 ルージュとミリシアが驚くも、俺が一番口をあけていた。

 ただものではないと思っていたが、まさか……そんなすごい人だったなんて。


「す、すみませんそれなのに数々の失礼を!?」

「いいや。構わないぜ。随分と楽しめた。お前らは優秀だった。合格と言いたいところだが、まだまだ期間はある。他の班にも粒が揃ってるらしいからな。――けど、候補生の試験は合格だ」

「候補生の試験?」

「これが候補生の本当のテストだ。修練の儀の合格は、あくまでも権利に過ぎない。――お前ら、よくやった」


 そこでルージュの力を抜けたらしい。ぺたんとおしりをつく。


「ふう、もうわけわかんねえよ。けど、流石クラインだ」

「いや、ルージュの力あってこそだよ。もちろん、ミリシアも」

「そんなことはないわ。さすがよ」


 ぐるぅと、おもちの声が聞こえる。もちろん、君もだよ。


「色々とつもる話もあるが、とりあえずおめでとうと言っておく。そして今からドスティがおごってくれるらしいぞ、良かったなお前たち」

「おいココア、七日間も働いてその仕打ちか? ――までも、優秀な後輩だもんな。いいぜ、着いてきな」


 そして俺たちはわあっと喜んだ。


 けど、ここからが本番なんだろう。


 頑張らないとな。

 

 街へ戻っているとき、ドスティさんが声をかけてきた。


「クライン、お前は素質があるぜ。俺が見た中でもぴか一だ」

「買いぶりすぎですよ。でも、ありがとうございます」


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