第5話 フェア・レディス(side)

 私、フェア・レディスはロイク家に仕えるメイドです。


 メアリー様はどんな方にも優しく、リルド様は厳格ではありますが、思慮深く、それでいて情に厚い人です。

 命を賭ける仕事をしていていつも不安ですが、何よりも家を大事しておられます。


 そんなお二人様の間に、ついにご長男が誕生されました。


「フェア、私の息子――クラインよ。これからもよろしくね」

「はい。メアリー様と同じで可愛らしく、リルド様に似て恰好いいです!」


 クライン様は生まれながらにして強い魔力を保有していたらしく、すぐに魔獣を出現させていました。

 名前はおもち。


 おそらくですが、子竜でしょう。


 ……おそろしい才能です。


 ですが、素晴らしいことです。


 魔印も無事に出現し、メアリー様とリルド様はホッと胸をなでおろしていました。

 しかしながら、クラン様はとても苦しそうです。


 力が強すぎるのでしょう。


 朝は早く、夜は遅く、メアリー様はほとんど寝ていませんでした。

 リルド様も家を支える為に必死に働いています。


 私も、少しのその支えが出来ていたら良いのですが……。



「クライン――お前は――かわいいでちゅね」


 厳格だったリルド様の子煩悩っぷりには驚いた。

 思わず笑ってしまいそうになるが、頑張って堪えている。

 あまりにも可愛すぎるのだ。


 メアリー様はとても嬉しいらしく、私も見ていて幸せだ。


 こんな愛情深いロイク家に仕えることができて、とても誇らしい。



 平穏な日々が続き、クライン様がようやく歩けるようになった頃、私は――とんでもないものをみた。


 いや、見てしまった。


 というか――やばすぎる。


「魔結界!」

「ぐるぅ!」


 まだ三歳だというのに、クライン様は魔結界を習得していたのだ。

 更に魔獣とも心を通わせていて、とてつもない速度で動いているおもちを捕まえようとしていた。


 意思疎通はもちろん、魔力供給にも長けているのだろう。


 ……凄すぎる。


 メアリー様に伝えようと思ったが、クライン様は二人をびっくりさせたいらしい。


「おもち、秘密だぞ!」

「ぐるぅ!」


 私はただのメイドだ。クライン様の意思を尊重したい。

 とはいえそれとは別に、とても愛らしいが。


 その日から、私はできるだけメアリー様やリルド様にバレないようにする仕事が始まった。


「フェア、クラインは――」

「今、おもち様とすやすた寝ているみたいです!」

「あらそうなの? 少し様子を――」

「大丈夫です! 私がしっかりと見ていますので!」

「そう。ありがとね、フェア」

「とんでもございません!」


 なかなか大変だったが、これもまた、愛するクライン様の為。


 そして――。


「魔結界、魔結界、魔結界!」


 ……え、いま三連続じゃなかった?


 ……え、今の動きなに!?


 ……凄すぎる。


 クライン様の成長がとても楽しみだ。


 きっと、とてつもないことになる。


 私が言うのもなんだが、今のロイク家は厳しい立場にある。

 辺境だということもあって王都との連携が厳しく、魔物の活発化で仕事が大変すぎるのだ。


 ですが……クライン様ならきっと変えてくださる。


 私は、それが楽しみで仕方ない。


 ……それに、クライン様は良いお人だ。


「ふぇあ、いつもありがとう」

「とんでもございません。何かありましたら、いつでもお申し付けください」

「ぐるぅ」

「おもちも、ありがとうって」

「ふふふ、クライン様は何でもわかるんですね」

「うん!」


 しかしある日、私は気づいてしまった。


 魔印が、他の指にもあることに。


 ……凄いなんてもんじゃない。

 歴史が変わるだろう。


 私はこの目で見てみたい。


 クライン様がどんな世界を作っていくのか。


 その手助けを、少しでもできたら嬉しい。



 私のこの、汚れた手でも、きっとできることはあるはずだ。


「フェア、私の留守中、二人を頼んだぞ」

「もちろんでございます。私は戦う事しかできませんから」

「そんなことない。フェア、お前はもう変わったんだ。メアリーもクラインも、お前を慕ってるよ」

「ありがとうございます、リルド様」


 私は幼い頃から暗殺・・・を生業としていた。

 生きる術が、それしかなかったからだ。


 そんな私を、リルド様が拾ってくれた。


「フェア、どうしたの? 何かボクの顔についてる?」

「いえ、愛らしいなと思ってみていただけです」

「ええ!? あ、ありがとう」


 ――クライン様、私はあなたに全てをささげます。


 私が命に代えて守りますので、ご安心くださいね。


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