第14話 修練の儀
「ぐるぅ」
「ああ、頑張ろうねおもち」
「メアリー、身体は大丈夫か?」
「心配してくれてありがとうリルド。王都は久しぶりだけど、人が多いわね。――でも、楽しいわ」
微笑む二人を見たあと、前を向きなおして歩く。
ついに修練の儀がやってきた。
基礎訓練はそれこそ毎日やったし、フェアの秘密特訓も合格点をもらった。
『クライン様、色々お伝えしましたが、あなたという存在がいるだけで私たちは幸せです。くれぐれも無理なさらずに、そして楽しんでくださいね』
家を出る前、膝を折りたたんで目線を合わせていってくれたフェアの言葉は、生涯忘れることはないだろう。
彼女はメイドとしての仕事があるので屋敷に残っている。
凄く信頼されているので、留守を任せたいんだろう。
本人はかなり来たがっていたが、留守も大事な仕事だと。
そして今回は、メアリーも来てくれている。
久しぶりの王都が楽しいらしい。
「あっちが城だよ!」
「ふふふ、クラインは何でも知ってるわね」
ちょっとだけドヤ顔で案内する。
やっぱり家族でいると幸せだ。
だが今回も観光じゃない。
俺たちは王都の中から北門の近くまで歩き、更にそこから馬車で山のふもとまで移動した。
大勢の馬車だ。
数十分するほどすると目的の場所に到達した。
馬車から降りると、大きな門がそびえている。
魔術で書かれた模様が、淵に描かれていた。
「ぐるぅ」
「ありがとう、大丈夫」
俺が緊張しているのが伝わったらしく、おもちが頭をこすりつけてきてくれた。
修練とはいわれているが、今からするのは戦闘試験に近いらしい。
――何があっても、頑張ればいい。
「パパ、ボク、頑張るね」
「頑張れよ、パパはみてるからな」
「ママ、私できるかな」
「あなたなら大丈夫よ」
周囲は貴族で溢れていた。
祝福の儀のような晴れやかな感じではなく、動きやすい恰好でみんな気合が入っている。
以前よりも変わったことといえば、やはり魔獣がみんな成長していることだろう。
鷲のような魔獣、犬のような魔獣、小さいリスのような魔獣も。
その中に、あのムカつくルージュがいた。
背が随分と伸びていて、赤髪が強調されていた。
あんな髪色していたのか、前は気づかなかった。
それより――。
「ピルルル」
「クライン、元気にしてた?」
「――ミリシア、久しぶり」
現れたのは、ミリシアとインバートさんだった。
相変わらず可愛い。インバートさんは、少しふくよかになったかも。
親たちが話している間に、二人で会話する。
「ついにこの日だね。準備はどう?」
「一生懸命やってきたよ。特にフェアが厳しくて」
訓練を思い出す。
といっても、フェアが指導してくれたのは謎の特訓だけじゃない。
彼女はああみえてかなり強い。
フェアは魔結界を使えないが、戦闘訓練を俺に施してくれた。
思い出すと震えるが、それもまた生かされているはず。
「そうなんだ。凄く優しく見えるのに」
「厳しくて、でも優しいよ」
「一番いいことだね」
「ああ、そうだね」
ミリシアの言う通りだ。
ただ優しいだけってのは意味がなかったりする。
俺のことを考えてくれているからこそ厳しい。
ウサギのリリは相変わらずぷにぷにしている。
「それではお集まりの皆さん、修練の儀を始めるにあたっていつも通りですが注意しておきます。この中に入るとすぐに出ることはできません。試験を終えるか、致命的な怪我を負うか、最悪の場合死んで外に出ます」
その言葉に、更に緊張が高まった。
同時に門が光輝いた。
中はまるで異次元の扉だ。
これは古の修行用に編み出された魔法具らしく、中に入ると全員同じ場所に飛ばされる。
敵を倒し、前に進み、最後の門をくぐれば正式に外に出る。
俺たちの様子は映像のように外から見られるらしい。
死、という言葉が出たが、それは最悪の場合でほとんどないとのこと。
致命的な怪我を負うと、外に出されるとのことだ。
もちろん怪我は外、つまり現実世界では治っているとのこと。
詳しい事は試練なので話せないらしい。
「クライン、お前は俺の息子だ。だが選択肢はもちろんある。本当に――」
「大丈夫だよ。僕が一番になってくるよ」
リルドはこうやっていつも最終決断を俺に任せてくれる。
本当に優しいと思う。頭ごなしに全てを押し付けてこない。
試験の目的は、実践、つまり戦いに参加していいかどうかを判断するのだ。
落ちた場合は失格。
その場合は来年だ。
――必ず合格して、俺は一人前になる。
家族の幸せの為にも。
そして――。
「ミリシア、行こう」
「――うんっ」
俺は、彼女の手を取った。
合格するなら、彼女と一緒がいい。
実はこれも、フェアの特訓の成果。
『ミリシア様は門を前にして不安なはずです。そこで、恰好良く手を差し出すのですよ! もうこれで間違いなしです!』
「ぐるぅ」
「もちろん、おもちもね」
初めの作戦は成功した。
ミリシアは喜んでくれたらしい。
さあ、だがここからが本番だ。
そして俺たち子供たちは、修練の門をくぐった。
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