第30話 交流会と生き残りの魔女
「よォ、大変だったみたいだな」
ルスティ先生が、俺たちを見下ろしていた。
俺たちの顔を見た後、笑いながら消えていく。
空がすっかりと暗くなっていた。
俺、アクリル、エウリは普段から鍛えているだろうけれども、限界を超えた結果、あおむけに倒れていた。
「し、死ぬ……息ができな……い」
「クラインがいなきゃ、マジで死んでたかもな……」
「……同感で……す」
牛の魔物を倒した俺たちは、幾多の道を超え、最後は左右から襲い掛かる魔物たちに精一杯対処した。
とんでもない数だった。
力を合わせなきゃ乗り越えるどころか、死んでいたと思えるほどに。
呼吸が落ち着いたあと、上半身を起こす。
驚いたことに周りは――誰もいなかった。
そのとき、見慣れた女性が歩み寄ってきた。
「クライン、楽しかったか?」
「……ココア先生、ありがとうございます。みんなのおかげで乗り越えられました」
「ああ
「知ってる? どういうことですか?」
次の瞬間、門から大勢の候補生たちが現れた。
それも同時にだ。
ルージュとミリシアの姿もあった。
訳が分からない。同じく困惑しているアクリルとエウリと顔を見合わせる。
すると、ココア先生が全員の前に立つ。
「交流会はこれで終わりだ。既に反省点を理解しているものもいるだろう。だが得たものは大きいはずだ。――そして今回の門をクリアしたのは、クライン、アクリル、エウリのみ。――よくやったお前たち」
それでようやく気付く。
一位を目指すどころか、俺たちしかクリアしていなかったことに。
二人に顔を向ける。アクリルは少し恥ずかしそうにして、エウリは微笑んでいた。
「ありがとな、クライン」
「……はい。あなたのおかげです」
「そんなことないよ。二人のおかげだ」
交流会は、ただ仲良しこよしで挨拶するだけじゃない。
お互いの能力をちゃんと出し合い、そこから更に意見を交わして敵を倒す。
それが本当の目的だったのだ。
よく考えれば、今後こういった場面は何でもあるはずだ。
合格したとしても、毎年大勢の兵士が入団する。
時には他国との連携もあるだろう。
そのとき、常に最善の手を出すことができるのか、それこそが今回の目的だったはずだ。
合否には関係ないのかもしれないが、もっと大事なことを教えてもらった気がする。
なんだか名残惜しくも二人と別れ、ルージュとミリシアからも話を聞いた。
一緒になった仲間とはうまく連携が取れず魔物にやられてしまって、別の広場みたいなところでずっと待機していたという。
やられても死ななかったことを考えると、少しだけホッとした。
「次はもっとうまくやる。だよな、ミシリア」
「そうね。いかに自分がクラインに頼ってたのかわかった」
「そんなことないのに」
この世界の住人は強い。
これは俺の勝手な考察だが、死が身近にあるからだと思っている。
今日笑っていた人が明日いない可能性もある。
……だからこそ、後悔はしないように生きるのだ。
それに今回は味方だったが、次に対面したとき、アクリルとエウリは敵の可能性のほうが高い。
それも、覚悟に入れておこう。
「とりあえず腹減ったな……。試練にクリアできなかったら飯抜きとかないよな?」
「流石に……いや、ありえるかも」
「それはないんじゃないかな? わからないけど……」
そんな不安を抱えていると、再度号令がかかる。
これで終わりだと思っていたが、次だ、と言われてしまう。
全員が絶望の顔をしていた。
王城に案内され歩いていると、アクリルとエウリが仲間と話しているのを見かけた。
話口調が変わっているわけじゃないが、随分と心を許しているみたいだ。
当然だが、みんな同じように訓練を受けていたのだと思うと、心にくるものがあった。
とはいえ、今から戦うのかもしれない。
そう思いながら、普段は入らない大きな扉の前に案内された。
そのまま扉を開くと――。
「す、すげえなんだこのご馳走は……」
「私の大好きなチョコがある……」
「ははっ、すごい」
大きなテーブルに、所狭しとご馳走が並んでいた。
見たこともないような食事ばかりだ。
後ろでルスティ先生がガハハと笑う。
「流石に俺たちも鬼じゃねえ。ま、ハッキリいえば予算は国から出てるから俺は無関係だが。遠慮せず存分に食べてくれ」
半信半疑のまま俺たちは順番に座っていく。けれども嘘じゃないとわかり、ココア先生が食べていいぞと言われ、すぐに食べ始まる。
全員が貴族のはずだが、そうは見えないほどにがっついていた。
「ぐるぅ」
「わかってるよ。おもちの分もちゃんとあるから」
「ぐるぐるぅ」
「うん、ありがとね」
おもちも頑張ってくれたのだ。ちゃんと労ってあげよう。
同じく隣では、ポリンとリリもご飯を食べていた。
アクリルとエウリには魔獣がいなかったが、俺たちの国だけの特殊な存在らしい。
色々地域差があるのは驚いた。
時折、アクリルとエウリの視線が合って、なんだか不思議な感覚になる。
ざっと見たところやはり15人ほどだ。
想定していたよりは少ないが、全員がライバルだと思うと多い。
どこの組が受かって、どれだけの組が落ちるのかはわからない。
――今日はゆっくり休んで、明日から意識を切り替えよう。
「……クライン、ルージュ、一つだけ伝えておきたいんだけど」
そのとき、ミリシアが小声で俺たちの服の袖を掴んだ。
静かに耳を傾ける。
「あの子」と言われ、視線を向けた。
白髪で笑顔の綺麗な女の子だ。
周りの仲間と楽し気に笑っている。
まるでお嬢様のように見える。
「あの子がどうしたんだ?」
「私と同じパーティだったの。それで……わかったんだけど」
俺とルージュは、しっかりと耳を傾ける。
「……プラタなの」
「……嘘だろ? あの? 『生き残りの魔女』か?」
その名前に聞き覚えはない。
しかしルージュは違うらしい。
怯えた顔をしている。
「え、なに? どういうこと?」
「クライン、知らないのか?」
「そうよ。有名じゃない」
そう言われても俺はこの世界の住人じゃない。
いやでも二人と年齢が変わらないなら知ってもおかしくないのか?
でも、メアリーとリルド、フェアは他人の話なんてほとんどしない。
辺境に住んでいたからかもしれないが。
「知らないよ。あの子がどうしたんだ?」
「……名前はプラタ・リース。8年前のある出来事で、世界で最も有名な少女になったの」
「ある出来事?」
俺の問いかけに、ミシリアはより一層声を落とした。
「あの子が生まれたオッド国は、魔人と呼ばれる魔族の生き残りに狙われた。そのときの唯一の生存者が五歳のプラタだった。でもその後、不可解なことが三つも発覚した。両親の姿がどこにもなかったこと、彼女の記憶がなかったこと。そして魔法適正が――闇属性だったこと」
魔法適正とは、俺たちがやった魔印と同じようなものだ。
地域で色々判別方法が異なるとは聞いている。
「闇属性だと何かダメなのか?」
「魔人は闇魔法を使うの。だけどプラタの両親は二人とも光属性だった。属性は遺伝する。つまり、ありえないのよ。といっても、血縁関係は周りの話から確かなもので、他人の説はないらしいけど……」
「つまり、どういうことなんだ?」
「……これは私が言ったわけじゃないけど、よく言われているのは『生き残りの魔女』プラタは、魔人の可能性、もしくは手先の可能性があるって。他の噂では、両親が仕向けたってのもあるけど、何もわかってないわ」
ふたたび視線を向ける。ただの女の子だ。
「……流石に信じられないな。ありえないだろ」
「そうね。だけど、闇魔法の使い手は、例外なく残虐性を持つと歴史が証明してるのよ」
そんな性格診断あてになるのか? と思ったが、ルージュもだよなあと頷いていた。
俺は詳しく知らないが、相当確かなものらしい。
「でも別に何も言うつもりはないし、私も心から信じてるわけじゃない。一応伝えておきたかっただけよ」
「……なるほどな。ありがとう」
ふたたびプラタを見た。友達と笑いながらご飯を食べている、だが闇属性の使い手。
とはいえ、俺にはただの女の子にしか見えなかった。
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