第35話 他候補生
他候補生について。
アブダル国。
俺と初めにチームを組んだ『アクリル』がいる
結界師、魔法使い、索敵師で攻守のバランスが良い。
自国が湖や川、水が多いことから特殊な水魔法を使う。
個人のレベルが高く、特筆すべきはアクリルの水壁。
一度囲われてしまえば逃げる事は難しい。
アルト国。
俺と初めにチームを組んだ『エウリ』がいる
支援魔法使い、魔法使い、魔法使い、やや魔法特化ではあるが、その分爆発力に長けている。
近接も弱いわけじゃない。
特筆すべきはエウリの観察眼と支援魔法。
一歩下がって味方を守ることで、安定度が増している。
ヴェルド国
俺と
しかしプラタの吸収魔法はオールラウンダーが可能なため、状況に応じてどんな動きも可能である。
現状、総合成績が一番いい。
そして残りは、アドリアル国だったのだが――。
「ルージュ、アドリアルは何で除隊になったんだ?」
「訓練についていけなかったって聞いたな。でも、それしか教えてもらえなかった」
「……にしても、3人同時ってよっぽどだよな」
俺たちは、自室で他チームについてまとめていた。
今までも思ったこと、わかったこと、それぞれの弱点や長所をできるだけ共有している。
これは、ミリシアからの発案だ。
仲間でありライバル。それを忘れない為にもしっかりと情報は得ていたほうがいいと。
俺としては少し卑怯な気もするが、これは遊びじゃない。
◇
昼、いつものように食堂でご飯を食べていたら、ミリシアがとんでもないことを言い放った。
「嘘だろ……その一人が辞めるっていったからってことか?」
「それしか考えられないわ。アドリアルのミーシャって子、覚えてる?」
「……確か、少しオドオドしてた魔法使いの子だよな」
「俺も覚えてるぜ。成績は確か下らへんだったはずだ。でも、風魔法は凄かったぜ」
「偶然だけど、応接間に入っていくのを見たの。仲間の二人は意欲的だったし、おそらくだけどね」
「……にしてもそんな……一人が除隊を決めたら、一緒に二人も辞めさせられるなんて」
「シッ、クライン声が大きいよ。まだ確定してないんだから」
「ああ、悪い」
ミリシア曰く、アドリアルのナーシャが除隊を申し出たことで、残りの二人も辞めさせられたのではないか、ということだ。
思えば合同訓練が始まる前にも、少なくとも4か5チームはいなかった。
全員が辞めたいと思うなんて不自然だし、確かに1人辞めた場合は二人だけ残される。
だからといって……いや、当然なのかもしれない。
俺たちは家族同然だ。1人が苦しいときに寄り添ってあげられてないことになる。
ルージュとミリシアに視線を向ける。俺はちゃんとわかっているだろうか。
他候補生が来てからというもの、中より外に意識を向けすぎている。
思えば、ミリシアとゆっくり話したのも随分前だ。
棟が違うこともあるが、彼女はいつも一人なのだ。
これは他人事じゃない。俺も、もっと二人に目を向けてみよう。
「……ど、どうしたのクライン。なんか私の事ずっと見てない?」
「え? あ、ああ。え、ええーと、綺麗になったなーなんて」
「え? ええ!? ど、どういうこと!?」
「おいクライン、突然愛の告白か?」
「ち、違うよ。でもなんか本当にちょっと変わったなって」
「そうかしら?」
綺麗になったのは本当だが、何か変わった気もする。
食事が終わると、いつもの基礎訓練だ。
一日の中でこれが一番辛い。
走って、筋トレして、走って、筋トレして。
たまにここで無茶な追加もされる。
ため息を吐いたら追加もされる。
無言でも元気がないと追加される。
つまり、追加される。
それが終わると個別での訓練だ。
魔法使いは魔法使いで固まる事が多い。
俺は、アクリルとここで一緒になる。
そしてプラタの仲間である、エヴィとも。
「今日もよろしくね」
金髪で爽やかなイケメン。
プラタと同じチームなだけあって能力が凄く高い。
光結界を使うのだが、その速度はまさに異常だ。
強度はそれほどないみたいだが、光滅までの速度が速く、防御を漲らせるまでに倒すのがセットらしい。
恐るべきは体術で、近接を織り交ぜた光結界を使う。
エヴィは魔印三本で、光の性質を変えたりできる。
まだあまりわからないことが多い。他人の能力に気づくのも訓練の一つだからだ。
「おいエヴィ、早くどいてくれ。私の番だ」
「すまないアクリル。自分の力に少し酔いしれてしまっていたんだ」
あと、ちょっとナルシ入ってる。
待ち時間の間、ミリシアに視線を向けていた。
彼女は社交性に長けているので、明るく話している。
ルージュも同じだ。俺たちの班に限って辞めるなんてそんなことあるだろうか。
そう思っていたが、ほんの少しだけ、ほんの少しだけだが、変化に気づく。
「クライン?」
「ん?」
「あなたの番だよ。何ボーッとしてんの?」
「ごめんごめん」
「僕の光に酔いしれていたんじゃないかな。罪な男だ」
エヴィ、囲ってみようかな?
◇
「どうしたのクライン、こんな夜に。まさか……また何かあった?」
訓練が終わり深夜、おもちに頼んでミリシアを呼んできてもらった。
いつもの渡り廊下だ。
「ぐるぅ」
「ありがとうおもち。ちょっと、リリを乗せて空の散歩にいってきてもらえるかな」
「ピルルル」
おもちは、頭の上にリリを乗せてとんでいく。
二人きりで話したかった。
「ミリシア、痩せたよね」
「え?」
「前から違和感は感じてたんだけど、すぐに気づいてあげられなかった。ごめん」
「……別に痩せるのはいいでしょ。女の子だし」
「いや、昼もそんなに食べてないし。筋肉が増えて引き締まっているのは俺もだけど、それでも痩せすぎだよ。昼の話から違和感を覚えたんだ。もしかしてだけど――辞めたいと思ってるの?」
「なんでそう思うの?」
「……わからない。わからないけど、そう感じたんだ」
ミリシアは少しため息を吐いた。
そしてその後――。
「……ナーシャのことなんだけどね――」
人には
それはほんの小さな変化だ。
誰か1人でも脱退したらチームごと辞めさせられると話したのは、きっとミリシアすらもわかっていない心の苦しみだと感じた。
プラタの時もそうだ。俺は人の痛みがよくわかる。自分が弱いからこそ、他人の心の変化に気づきやすいのかもしれない。
けど、もっと早く気づくべきだった。
ミリシアは、話を続ける。
「彼女と同室で仲が良かったの。でも、訓練についていけてなくて、更に家族とも会いたいって寂しがってた。辞めたいっていってたから、後押しをするわけじゃないけど――それもありなんじゃないって言ったのよ」
「……それを気にしてたのか」
「残りの二人も除隊になるなんて思ってもみなかった。事実かはわからないけど、知らなかったで済まされないことだわ。きっと私を恨んでるに違いない」
「そんなわけないだろ。気にしすぎだよ、ミリシア」
「……一つ間違えたら、私もそうしてたかもしれないのよ」
そのとき、ミリシアが涙を流した。
俺はなぜ気づかなかったのだろうか。
彼女も、ミーシャと同じ気持ちだったのだ。
「辞めたいのか?」
「……訓練が苦しいわけじゃない。付いていけないとも思わない。でも、皆と違って私にはたいそれた夢がない。クラインは、家族の事を一番に想ってる。未来を見てる。ルージュはちゃんと認められたいって強い心を持ってる。他候補生のみんなもよ。でも、私が候補生になったのは、リリと一緒に認められたらいいなって気軽な気持ちだった」
「それの何が悪いんだ? それでいいじゃないか」
「ミーシャが辞めたいって相談してきたとき、ほんの少しだけど私の中に最低な気持ちがあったの。ライバルが減るって気持ちが。それが、許せない。そんな人が、宮廷付きになっていいとは思わない」
ほんの少しだけ返答に困る。
だが、それが悪い事だとは思わない。
人生は綺麗ごとじゃない。
元の世界でもそうだ。上を目指すと、誰かを落とすことになる。
だけど、それは結果論だ。
落ちた人が、落ちてしまった人が不幸せなんて限らない。
俺みたいに幸せになってるやつだっている。
何が成功なんて、幸せなんて、今すぐにはわからない。
……伝えよう。彼女に。
俺が、元の世界から来て、今幸せなことを。
君に出会って、嬉しかったことを。
今の――気持ちを。
それを、ミリシアに伝えようとした。そのとき――。
「ミリシア、俺は――」
鐘が、鳴り響く。
それは、宮廷付き、候補生も含む非常事態が宣言されたときの集合の合図だった。
ココア先生やルスティ先生からも言われている。
とにかく急げと。
だが、ミリシアは? 辞めたいと思っているはずだ。
「――クライン、行きましょう。私はまだ、この国の候補生だから」
「……ああ、おもち!」
「ぐるぅ!」
「ピルルル」
ミリシアの顔に迷いはなかった。
何が起きたのかはわからない。
ただ、自分のやるべきことをやる。
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