第12話 新たな試験

「ぐるぅ!」


 おもちが、空を駆けあがっていく。

 子竜だったドラゴンは、少しだけ大きくなり、の俺より少し低いくらいの大きさになっていた。

 

 それを見ながら、人差し指と中指を立てる。


 ――『魔結界』


 空中でジジジという音と共に透明な箱が形成される。

 それは、今のおもちの余裕で覆いつくした。


 だが、それだけじゃない。


 ――『魔滅』


 間髪入れずに力を籠める。

 透明な箱の中が、黒くなっていく。


 その後、箱が自然に消えていく。


 だがおもちは、元気に飛び出してきた。


「ダメか―……」


 早いもので、俺は六歳になっていた。

 その横で、少し大人びたミリシアが、同じように人差し指と中指を立てる。


「――『魔結界』」


 次の瞬間、油断していたおもちが、ぴったりと箱に覆いつくされる。

 ぐるぅと、まるで降参しているかのようだ。


 そのまま解除され、おもちは俺たちの元に降りてくる。

 頭をよしよしと撫でる。大きさは70センチほどだろうか。

 身体も随分と大きくなっている。


「凄いね。ミリシアはいつもピッタリだ。」

「ふふふ、すごいでしょ。でも、私はあれほど大きなのは作れないよ。というかクライン、魔滅までしちゃって、おもちちゃんが怪我したらどうするの?」

「しないよ。おもちは、強いからね」


 鱗を撫でながら、おもちを労わる。

 この数年の間、俺とミリシアは時間があればいつも訓練していた。


 その結果、彼女の魔結界の技術は俺をもしのぐとわかった。


 父リルド曰く、細かい技術は女性のほうが得意だと言われているらしい。


 その分、男は魔力が強く、大きさに優れているとか。

 

 確かにミリシアは正確な箱を出すころができる。

 無駄な魔力と使わない分、強度も増しているんだろう。


 だが魔滅が使えないので、もしこれが魔物なら俺が敵を倒す必要がある。

 とはいえ、捕まえられなければそもそも倒すこともできないが。


「ピルルル」

「リリが、お茶の時間だよおーって」

「ああ、それにしても凄いね。魔力探知も格段に上がってる。――ほんとだ、フェアが来た」

「凄いよねえ。でも、全部クラインのおかげだよ。ここへ来てなかったら、私は怠惰に過ごしてたかも」


 たいしてウサギのリリは、大きさが変わらない。

 ミリシアの頭の上でほよほよしている。能力は段違いだが。


 その後、フェアがやってきた。

 やはり右肩に乗せたテーブルと椅子、その後、そっと紅茶とお菓子を置いてくれた。

 もはや見慣れた光景だが、いつみても笑える。


 予め置いといてもいいと言ってるのだが、邪魔になりといけませんので、と返されてしまう。


「ほんと、いつもおいしい。フェアさんありがとう」

「いえ、とんでもございません。それで、順調ですか?」

「うん、だいぶ強くなってきたよ」

「……そうですか」


 なぜかフェアが肩をすくめる。


 フェアとミリシアはとても仲が良く、俺としても嬉しい。


 そのとき、フェアがなぜか俺に目をウィンクしてきた。

 よくわからないが、ウィンクを返す。


 なんだろう? たまにしてくるんだよなあ。



「それじゃあもうすぐだね。修練の儀、頑張ろうね」

「ああ、またねミリシア」


 夕方、ミリシアを馬車まで見送った。

 修練の儀とは、祝福の次に行う次の儀式だ。


 それは、授かった力を見せ合う。


 これによって、今後の力関係も変わるらしい。


 祝福の儀はあくまでも確認、次が本番とのことだ。


 そのたびに頑張ってきたといっても過言ではない。


 随分と成長した。楽しみだ。


 それにミリシアとも随分と仲良くなれた。

 俺の心はやっぱり年齢と同じらしく、恋心のようなものを抱いているのかもしれない。


 とはいえ、一番は家族の幸せだ。


「さて戻ろうか。――フェア?」

「まったく成長していません。クライン様!」

「え、ええ!?」


 どういうことだろう?

 心を見透かしている?

 とはいえ、俺は頑張っている。

 おもちもデカくなり、魔結界も魔滅も強くなったはず。


 なのに、成長していない!?

 

 だがフェアはいつも傍で俺の世話をしてくれている。

 それこそ赤子の時から一緒なのだ。


 彼女が言うならそうに違いない。


 フェアは悲しそうだった。

 お出の努力が足りないのか――。


「クライン様、どうしてですか!?」

「ごめん。もっと努力――」

「どうしてさっき、『俺がいるから大丈夫だよ』『安心して、俺が守る』などと言わないんですか!? もうじれったい! ずっと我慢してきましたが、もう我慢できません! この二年間、フェアはもうじれったくてたまりませんでした! 少し距離が近づいたかと思えばまた修行を繰り返す! 違います修行はあくまでもきっかけなのです! もっと、愛を成長させてください!!! 愛です! 最後にすべて愛が勝つのです!」

「ど、どうしたのフェア、一体何の話を……」

「修練の儀で、絶対に一歩リードしてくださいね!」

「え? リードっていうのは」

「返事、はいしかありません クライン様! もうフェアは限界なのです!」

「え、ええ――はい」

「はい! 頑張りましょう! 私は味方です! 明日から試験に向けて特訓ですからね!」


 よくわからないが、修練の儀とは別に、新たな試験も追加されたらしい。


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