第9話 ミシェルのランチパーティー

お茶会の許可をしてから約1ヶ月。その日は見事な晴天となった。

ミシェルが呼んだご令嬢方は伯爵家以上…男爵が呼び出せる相手じゃないだろう普通。

だが、皆快諾だったらしい。

「新しいドレスありがとうねレイ君」

「良く似合っているよミシェル」

私達は今玄関先でお客様方を待っている状態だ。

ガリムから知らせの馬が来ており、これから徐々に馬車が到着する。

順番は伯爵家からだな。

しかし、道が整備されたおかげでガリムからタリムまでが馬車で2時間もあれば来ることができるようになった。

距離にして15㎞程度しか離れていないから、整備前に半日かかった道も今では時間が短縮できている。


*****

「ようこそおいで下さいました」

続々と伯爵家のご令嬢方が我が家を訪れていてミシェルと共に挨拶をしている。

今日の茶会で一番爵位が上なのはべリリム侯爵令嬢だ。

ほかの伯爵家の方々はミシェルの学園時代の友達方で全部で12名が参加となる予定。

中には婚約者を連れてきてくださった方もいる。


「レイノルド、後で相談があるんだが…」

挨拶の途中、苦々しい顔で声をかけてきたのはチルベント伯爵令息。

たしか今来られたベアロン伯爵令嬢の婚約者だ。

学生時代には名前で呼び合う仲だったが、まずは礼儀としてちゃんと家名で呼ばなければ…

「構いませんが…チルベント様どうされました?」

「学生時代の仲じゃないか、ローランと呼んでくれ…詳しくはその時話すが、ガラテアがらみでな」

また、名よびを許してくれるのか。それほど深い付き合いでもなかったとは思うが認めてもらえるならそのほうが良い。

「わかったよローラン。私で力になれれば」

「頼む、ガラテアから必ず教えてもらえと、かなりきつく言われていてな」

なるほど、婚約者の扱い方の話か。

どうもタリム男爵はおしどり新婚夫婦みたいな風潮があって、こうして婚約者の扱い方を教えてくれという同期男性陣から相談を受けることが多い。

別にコツなんてないんだが…相手を思いやる気持ち次第だと思うが、上位貴族になるほど相手のことを考えるのが苦手になんだよな。

マウントの取り合いなら上手いのだが。


そんな話をしていると、べリリム家の馬車が到着した。

皆今日の昼食会に参加するために領都ガリムに前泊されていて、そこから馬車でいらっしゃってくださっている。

ちなみに、ほとんどの方は昼食会後にガリム戻って宿泊されて翌日以降に帰られるが、べリリム侯爵令嬢だけは我が家にお泊りになる予定。

なんでもミシェルと夜な夜な話したいことがあるらしい。

男爵家に侯爵令嬢が遊びに来るとはなぁ…ミシェルはすごい。

タリムの位置は王都からは馬車で最大5日といったところだから、道中5泊されても来る価値があると思われているわけだ。

「「ようこそおいで下さいましたべリリム侯爵令嬢様」」

「ごきげんようミシェル、お久しぶりですね。お声掛けいただきありがとう」

「ごきげんようジェニファー様。今日もお美しいですわ」

「ふふ、ありがとう。それとレイノルド男爵もお久し振りですわね」

「お久しぶりです、べリリム様」

「貴方もジェニファーと呼んでいいわよレイノルド様」

「ありがとうございますジェニファー様」

ミシェルの旦那として認められたようだ。

学生時代は残念ながらべリリム侯爵令嬢との接点はなかったから名呼びの許可はもらっていなかったんだよな。

とはいえ、今日のホストはミシェルの為、ジェニファー様はミシェルに声をかけられる。

「今日はアネットやヘンリエッテも来ているのでしょう?」

「えぇもう到着しておりますわ。ご案内いたします」

私達は最後に到着されたジェニファー様と一緒にダイニングへと向かった。


*****

今日の昼食会は全てミシェルが計画した。

当然計画の中身については私も把握しているが、今回メインは鶏肉と卵料理を食べてもらうことにある。

タリム男爵家としてタリム復興を始めてから半年が経過し、第一陣の鶏の出荷が出来る状態となったのがこの間の事。

今回はオスの若鳥をメインとして何種類かの料理を食べていただく予定だ。

養鶏場を管理しているハンスからは「まだ3ヶ月しかたっていないのに出荷早いのではないか?」といわれたが、ミシェルは問題なく太っており若鳥として出荷可能と判断した。

たしかに成獣にくらべてとれる肉の量は少ないかもしれないが、若鳥特有の肉の柔らかさが重要だからとのことだ。

上座にジェニファー様が座り、その向かいの下座側に私たちが座る。

本来は爵位が上の伯爵令息令嬢方が座る場所にホストということで座っている。

「本日は皆さまのお時間をいただき大変ありがとうございます。

 いよいよ我がタリム家の特産となる鶏肉の出荷が始まりますため、一度皆様方にご試食頂こうと本日の会をひらきました。

 ぜひご堪能下さいませ」

ミシェルの合図でメイドたちがスープの配膳を始める。

これ、捌いた鳥の骨と野菜や香草を水に入れ煮だしたしたものを濾して、黄金色になった液体に塩コショウで味をつけたものだ。

ミシェルは”コンソメ”と呼んでいて、ブイヨンをさらに進化させたものとのこと。

アクセントにパセリを少し散らしている。

「こちらコンソメというスープです。ご賞味ください」

皆がスープを口にすると、驚きの顔をする。

私も昨日初めて食べたが住んだ味わいながら深みのがあり、驚いたものだ。

「とても澄んだ味わいながら、複雑な味わいがありますわね。おいしいです」

「野菜のスープと違ってとっても高級な感じがいたしますわね」

「皆様のお口にあったようで嬉しゅうございますわ」

ミシェルがいつもは見せない自信満々な顔を見せる。

確かにこれはすごくおいしいスープだ。何杯でも飲みたくなってしまったものな。


次に出てきたのは若鳥のソテーに特別なソースをのせたもの。

もちろん生の肉に塩コショウで下味をつけたものに、玉ねぎやセロリなどの野菜を細かく切った物をとろみが出るまで炒めたものをかけて食べる。

付け合わせのニンジンのグラッセもタリムの地で取れたものだ。

「こちら若鳥のソテーです。ディアボラソースでお食べ下さい」

「まぁ悪魔のソースですって?」

ソースの名前を聞いてジェニファー様が声を上げる。

「えぇ悪魔的に美味しいので、このような名前にしてみました」

「ミシェルが言うなら期待できるわね」

そういってジェニファー様は若鳥のソテーを一口食べて、目を輝かせた。

他のみなも同じように目を丸くしたりしながら食べ進めている。

「とてもおいしゅうございましたわ。悪魔的…その通りですわね」

「おほめ頂きありがとうございます」

「それに、この鶏肉も我が家の鶏とそん色がないレベルですわね。お譲りした買いがありましたわ」

「より肉質の良い鶏が開発で着ましたら献上いたします」

「よろしくたのむわ、ミシェル」

ジェニファー様から直接のお褒めの言葉をいただけた。

ミシェルの目はさすがだ。子爵令嬢とはいえ家の稼業とも違う養鶏業に何でこれほど精通しているんだか…一番の謎がそこだな。

メインの後には蒸し鶏を使たパスタを提供。添えられたのは半熟?の卵。ミシェルは温玉と呼んでいた。

まだ白身も固まり切っていない状態の卵を溶いてパスタと混ぜて食べる。

濃厚な卵が麺と絡まり絶妙な味かげんになる。

皆美味しいと言ってくれた。

これ等の料理はタリムの特産になるな。

特にディアボロソースは平民が食べているクズ野菜のスープから発想を得たとミシェルは言っていたが、それがこれほど美味しくなるのであれば、

「では最後にデザートプディングをどうぞ」

そうして目の前に出されたのは淡い黄色い円筒形のお菓子。

卵と牛乳、砂糖を大量に使い蒸し固めたものだ。

普通プディングと言えば王国北の地域で食べられる主菜の一つだが、今回のこれは甘くデザートとして作られている。

その上に煮詰めて茶色くなったカラメルをかけて食べる。

「まぁ綺麗だこと」

「普通のプディングとは違うようですわね」

令嬢方が次々と見た目に感想を述べる。

「カスタードプディングと言います。カラメルの苦みとプディングの甘味をお楽しみください

 お好みで生クリームをお付けしてもおいしいですわよ」

皆が思い思いにプディングにスプーンを入れる。

少々やわらかめのプディングはスプーンに押されて形を変える。

その柔らかさへの驚きもあったようだが、口へ入れた時のトロリと崩れる触感と適度な甘さが皆様の口にもあったのか笑顔がこぼれる。

「非常に美味しいお菓子ですわね。ミシェル後ほどレシピをいただけます事?」

「申し訳ございませんジェニファー様。こちらはタリムの特産お菓子としてタリムの街でしか食べられないものとしたく、ご容赦いただけませんか?」

ジェニファー様は扇を広げ目を閉じる。

「たしかに、ミシェルはずっとタリムの特産品を作る為に私との交渉をしておりましたのをしっております。今回は容赦いたしますわ」

「ありがとうございます」


*****

その後、食後のお茶は男女別に行った。

男女で分かれて行ったので、ローランほか同席いただいた男性陣の相談にはそこで乗ることができた。

それに料理の感想ももらうことができた。

今回は残念ながら”唐揚げ”は出せなかったが、若鳥のソテーは男性陣にも好評だった。

もう少し量が欲しいとは言われたが、それはもう2羽分食べてくれとしか言えないやつだな。


ジェニファー様を客間に通して他の伯爵家の方達を見送れば、今日の”私”の仕事は終わりだ。

いや、厳密には夜の会食も残っているか…

「皆様好感触でしたわ。

 高級料理店があればタリムにわざわざ遊びに来たいとも仰っていただけました」

「そうか、男性陣からは量が足らなかったと言われたが、評判は問題なかったよ」

「やっぱり男子向けに唐揚げの開発が必要ね!」

何やらミシェルが気合を入れている。

ミシェル自らが台所に立つことはないが、どこからかレシピを仕入れてきて自分で書き留めているのだが、どこから仕入れてくるんだろう?


今日来ていたローランからは「”テンセイシャ”ってやつじゃないか」と言われた。

なんでも他の世界、異世界人の魂が宿っているんではないかというのだ。

というのも、ディクトシス帝国の現皇帝マーダ・マトモアは幼少期突然性格が変わったといわれており、本人は「神のお告げがあった」などと言っているそうだがその豊富な知識量と突飛な考え方から別の世界の知識を持っているのではなどと言われているらしい。

ミシェルもその類ではないかというのだ。

確かに突飛な考え方をする彼女だが、神のお告げだとか、彼女の両親や周辺の親族から幼少期に性格が変わったというような話は聞いたことはない。

ただ単に一部の分野に対して”天才的”なだけだろうと思うのだが…

どうなんだろうな?

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