第14話 借金返済!完済!

タリムの復興を始めて3年目の冬、今日はミシェルと一緒にガリム本家にお邪魔している。

理由は簡単、借金の返済だ。


「ガリム伯爵、お借りしていた金貨1000枚の最後の100枚となります」

「うむ、これにて完済だな」

今はあくまでもガリム伯爵に対してタリム男爵が借りた金を返す行為なので、ちゃんと伯爵名で呼ぶ。親しき中にも礼儀ありである。

「さて、レイノルド。これで完済となった訳だが、今後のタリムはどうするつもりだ?」

「税収は安定しました。そろそろ養鶏場の売却を考えています」

「研究所は男爵家に残すと言っていたが進捗はどうなのだ?」

「なかなか難しいですね…ミシェルも直ぐに結果が出るものではないと言っていますし」

父と今後についての会話をする。

「しかしレイ、まさか3年でタリムの借金を返しきるとは思わなかったぞ」

同席しているゲイリー兄さんからも褒められてなんだかむずがゆい。

「タリムの税率はどうするつもりだ?当初の予定では増税すると言っていたが」

「現状で維持するつもりです父上、現状の税収を考えればガリム領に納める税金も払いきれますから」

「そうか、せめて領都ガリムと合わせてほしいところなんだがな」

「…わかりました検討いたします」

うむと父が頷く。

少々領都からの人口流出が多すぎたらしい。

もともとタリムについても税率は3年間の時限式だと通達しているので多少上がっても問題ないだろう。

「ではミシェルとも協議しますが、ガリム全体と同じく1割5分に定めます」

実はガリム領全体の税率が下がってきている。

当初は戦後復興のための資金のため3割としていたが、今は1割5分である。

タリム領と比較しても5分しか変わらないため、住民の負担も少なく済むだろう。

これ、実はタリムでの養鶏業の成功が影響している。

復興1年目で住民の移住は落ち着いたのだが、2年目からは王都からの店の出店、卵のガリムへの販売などによる人流と物流の影響で結構な金額が領内で動いた。

何よりタリム→ガリム間は関税が無い。

そこから先王都へでるためには関税がかかるのだが、お菓子貿易がことのほか好調でかなりの税収が上がっている。

おかげで住民向けの税率が下がったのだ。

「菓子類への関税に関しても見直しを提案いたします」

「菓子類への関税は徐々に下げている。おかげでタリムからの焼き菓子の輸出はいまだ右肩上がりじゃないか」

タリムの小麦と卵を使い輸入された砂糖にて菓子を作る。

この流れかなり良い風を吹き込んでいる。

いまじゃタリムはお菓子町なんて呼ばれる始末だ。

それでも現地でしか食べられない菓子”プリンアラモード”は超高級品として話題になっており王都からわざわざ訪れる貴族もいるほどだ。

「ありがとうございます。ですが、あまり下げすぎる必要はありません。むしろ少し上げてもいいぐらいです」

「それはどういうことだ?」

ゲイリー兄さんが訝しむように訪ねてきた。

それはそうだ。税金が高くなれば店の売上が減るのだから、出ていく工房だってあるかもしれない。

「タリムでしか食せないお菓子というのは思ったよりも多いのです。

 カスタードプリンだけではなく、クリームパフという菓子もできました。

 これらは生菓子と言われケーキと同じで日持ちがしません。王都までは持っていけないのです。

 つまりタリムに来ないと食べられない…これはわざわざ王都に輸出する必要がなくその場で採算がとれるような経営状態にすることも可能となるはずです。つまり輸出に頼らないで済むように物の流れを変えるんですよ」

父と兄が唸る。

関税でも稼ぎつつ、領内にもお金を落としてもらう。

商家が儲かればその分税収は上がるので相乗効果があるはずだ。

とはいえ、そのバランスは難しいだろうが…

「分かった、ガリム領内でお金が落ちることは望ましいことだ。

 税率については微調整しながら様子を見よう」

「ありがとうございます父上」

会談が終わり、メイドさんがお茶を出してくれ一息つく。

「ところで、レイノルド。子供はまだか?」

「今年中には何らかの良い報告ができればと思っております」

「そうか、じゃあ私も頑張るかな」

「兄上もですか?」

「あぁ年の近いものが親族にいたほうが何かと良いだろう?」

まぁそれもそうか。

教育など伯爵家相当のものを一緒に受けられればそれに越したことはないとも思う。

とはいえ、いくらガリム伯爵家の身内とはいえうちはあくまで男爵家子供も弁えてもらわねばならないので、限度はあるな。

「とはいえ、神様のみぞ知ることですから兄上の第二子とご一緒できるのであればありがたい限りです」

「うむ、期待しているぞ。乳母が必要になったら言いなさい。うちのメイドの中でタイミングが良いものがいれば見繕う」

「ありがとうございます」


*****

父と兄との打ち合わせが終わり昔の私の部屋に行くとミシェルがすでに待っていた。

「母上と義姉様とのお茶は終わったのかい?」

「えぇ、いつものように子供をせがまれたわ。

それと、今日もゲルちゃんはとっても元気だったわよ」

ゲルちゃんとはゲイリー兄さんの子供だ。

名をゲルハルトという。

「今回は私も子供について聞かれたよ。結婚して3年、もともと子供を作るのは3年後以降と言っていたから余計だろうな」

「貴族である以上しょうがないことよね。私の時代ではモラハラなんて言葉があって、結婚したカップルにあんまり子供をせがむのもハラスメントになったのよ」

「そうなのか…とはいえ私たちはタリム男爵家でありガリム伯爵家の分家という立ち位置だから本家が子供の心配をするのはやむなき事だから我慢してくれよ?」

「そこは弁えているわ。まだ若いからと3年は子供を作らないということを認めてもらえただけでも義父様は良い方だと思っているもの」

ちなみにガリム伯爵家には家以外にガーリウム子爵家という分家がある。

主に王都にてガリム伯爵系の仕事をしている。

私が王都で学校に通っていた時は子爵家の人たちにお世話になったのだ。

ちなみに私の執事をしてくれているウィルはガーリウム子爵家の三男だったりする。

今は平民の奥さんと結婚しており爵位は持っていない。

「そういえば、乳母についても相談されたがうまく行けばウィルの子供も同じタイミングかもしれないな」

「待っていてくださったんだっけ?悪いことしたわよね」

「そんなことはないと思うぞ。ウィルはすでに20歳だが嫁さんは歳下だったから、ミシェルのいうあまり若く妊娠すると母子ともに危険があるという話を信じて彼女が18になるまで控えていたそうだから」

ウィルの奥さんであるメイドのニーナは最初にタリムについてきてくれた3人のうちの1人だ。

将来的に侍女長となるよう勉強している。

ミシェル付きのメイドであるヴィータは侍女長になるつもりがないという。

今ではうちのメイドも5人に増えている。

といっても伯爵家の30人に比べれば遠く及ばないが、うちの大きさなら5名もいれば十分まわっている。

「悪いことでもないだろう、ニーナが乳母になってくれれば君の負担も減るだろう?」

「そうね、気心が知れた人が乳母になってくれた方がいいわね。まぁ子作りができなくてもウィル君が困らないようにニーナには手ほどきをしたからそれほど恨まれてないわよね」

「まってくれミシェル。君はニーナに何をした」

「ナニもしてないわよ?ちょっとテクを教えただけ」

「…それはそれで生殺しじゃないか?」

ミシェルは未来知識をもとに妊娠周期というものを計算しているようで、ダメな時はダメと断られるのだが、その代わりとして閨で随分な手段で愛し合うことがあるのだが、アレをニーナにも教えたのだろう。

「ミシェル…あれはあんまり広めない方がいいのではないか?」

「そう?愛し合いたくてもさまざまな理由でできないことがあるんだから、こういう技は大切だと思うわよ」

あっけらかんと言わないでほしい。

未来にはもっとすごい閨の技があるとのことだ…しかも、道具も豊富だという性に関して随分明け透けな世界なんだなんと思う。

私は学生時代に一度遊びに行ったことがあるが、それはサッとやることをやって終わりという感じであった。

それに比べミシェルとの閨は随分と時間をかける。

その代わり愛されているとも感じるし、私自身ミシェルを愛する気持ちをよく伝えられているとも思っている。

普段の会話によるコミュニケーションだって大切だが、こうしてお互いを感じることができるのだって良い事だ。

「じゃあ早速今夜から頑張りますか」

「そういうことを言葉に出さないでくれミシェル」

とはいえ、ミシェルはやっぱりどこかズレている気がするな…

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