第2話 結婚式

結婚式当日、ガリムの城下町にある大教会にて私とミシェルの結婚式が執り行われる。

合わせて、私の男爵の叙爵が執り行われタリム男爵となる。

レイノルド・タリム男爵として、旧タリム地域に着任することになる。

とはいえ、現在修繕中のタリム邸の工事が終わるのは2週間後となる。

それまではガリム城にて執務を行うことになる。

基本的な生活基盤となる下水道の整備も並行して行っており、旧タリム地区における中心地の整備は進められている。

そこに、今回ミシェルが提案してくれた養鶏場とそれに併設される研究施設の建設許可を父からもぎ取らないといけない。

いくら伯爵家と言っても、予算が無限にあるわけじゃない。

特に復興予算は現在の領地収入から割り当ててもらっている。

領民の税金を使うのだから投資によるリターンをうまいこと説明しなければならない。


*****

とはいえ、まずは結婚式だ!

ようやくミシェルと結婚できる。

タリム邸に行くまでの2週間は蜜月期間だ。

ミシェルにはあまり仕事をしないでゆっくり過ごしてもらいたいと思っている。

彼女は働きすぎだ。

先週相談したあとから追加で必要となるであろう概略予算と投資によるリターンの予測をまとめてくれてた。

結婚式の一週間前なんて、ウエディングドレスの再調整や式後のパーティーの準備などやることは盛りだくさんのはずだ。

いくら母義姉兄嫁のサポートがあるとはいえ、一体どこにそんな時間があるんだか…

まったくミシェルは優秀すぎる。

「レイノルド様、そろそろお時間です」

「あぁ、分かった。着飾ったミシェルを見るのが楽しみだ」

私付き執事のウィルに言われて席を立つ。

ウィルがさっと衣装のシワをなおしてくれ、私は待機していた部屋をあとにする。

この教会は新郎と新婦の待機部屋が礼拝堂を挟んで別れており、新郎は結婚式のとき初めて新婦の晴れ姿を見ることができる様になっている。

名を呼ばれ礼拝堂に入れば、ガリム家にわざわざ遠くから来てくださったシルヴァーナ子爵夫妻がおられる。

昨日挨拶したときには、ミシェルが立たている計画をぜひ実現してほしいと念押しされてしまった。

貴族が婚姻を結ぶというのは互いの家に益があることが重要ではあるが、そんなに期待されているとは、絶対に失敗できないと心を新たにしたものだ。

「新婦の入場です」

助祭の司会で礼拝堂の入り口が開くと、ミシェルが現れる。

真っ白なドレスは彼女の華奢な体のラインを強調していて、スカートは何枚もの微妙に色彩が違う白い布が重なりボリューム感がある。

何度か作成中のウェディングドレスについて彼女から聞いていたが、真っ白なウェディングドレスというのは珍しい。

今の流行は赤や黒など濃い色で艶やかに染めることが”財力を持つ”ことの象徴とされ、貴族の結婚式では一般的なのだが、彼女は頑なに「ウェディングドレスは白!!」と譲らなかったが…

だが、どうだろう?

ゆっくりとウェディングアイルを進むミシェルはとても堂々としており、一般的な貴族女性と比べると華奢な体つきだからこそ、とても豪華に見え美しい。


祭壇に登り、ミシェルが私の隣に立つ。

花嫁の顔を隠すためのベールから薄っすらと見える彼女の顔から目が離せなくなる。

「オホン」

司祭の咳払いで慌てて前を向く。ミシェルに見とれてしまっていた。

フフッと小さく笑った彼女があまりにも可愛く今すぐ部屋に連れて帰りたい。

こんなに美しい彼女を他の男に見せたくないと思う私は心が狭いのだろうか?

「・・・・・・・・・は、誓いますか?」

もんもんと考えていると、司祭の祝福が終わって誓いの言葉まで来ていた。

「ち、誓います!」

思わず声が上ずってしまう。

誓いの言葉自体の内容はもうすっかり覚えている。

いついかなる時も夫婦で支え合うことを誓うのだ。

本番で半分聞いていなかったなんて後で言えないな…

「では、新婦ミシェル様、あなたは・・・・・・・・」

「誓います」

「では、指輪の交換を」

助祭が持ってきてくれた結婚指輪を受け取り、私はミシェルの手を取りそのロンググローブを外す。

これもミシェルがこだわったことだ。

ノースリーブという肩が出る形のデザインのウェディングドレスは肌の露出が多くなるため、肘よりも丈があるグローブをつけて、肩の上から総レースのショールを掛けている。

そのため、指輪をつける際彼女の左手のグローブを外す必要があるのだが、これがなんとも扇情的だ。

指輪をはめて、グローブを再びミシェルにつけると、今度はミシェルが私に指輪をつくてくれる番だ。

その細い指が私の左手を取りそっと持ち上げ、ゆっくりと指輪をはめてくれる。

彼女の指が触れるたびゾクゾクとしてしまう。

「では、誓のキスを」

司祭に促され、私はようやく彼女のベールをめくる。

彼女の頬は若干上気しており、琥珀色アンバーの瞳が涙に揺れている。

軽く彼女の唇に触れるようにキスをする。

「これにてガルム伯爵家次男レイノルド様と、ミシェル様は晴れて夫婦となりました」

司祭の言葉に観客席から拍手が巻き起こる。

私達は皆に祝福されている。

ミシェルとともに皆の方へ向き、私が右手を上げるとより一層の拍手で持って私達の門出を祝ってくれる。

先程までは緊張のあまり気にかけられなかったが、貴族学校時代に仲良くしていた連中もちゃんと来てくれていた。

ミシェルの友達たちも同じように祝福してくれている。


「皆様、わたしたちの門出を祝福していただきありがとうございます。

 ミシェルとともに幸せな家庭を築き、常にともに支え合うことをここに誓います!」

私の締めの言葉で結婚式”は”終了となった。

このあとはガルム城塞の大広間にて私の叙爵式と結婚披露宴のパーティーが開かれる。

私達は夫婦となったことで、今度は同じ控室に戻る。

「ミシェル、とてもきれいだ。その純白のドレス、とても素晴らしいよ」

「ありがとうレイ。実家が総力を上げて私のデザインを実現してくれたの。

 本当に嬉しいわ、こんな理想的な結婚式ができて」

「ミシェルが喜んでくれてよかったよ…さぁ今度は僕の授爵式と披露パーティーだ。

 流石にその格好のままパーティーには出ないだろ?」

「もちろん。それに私もレイの礼服姿を見るのが楽しみよ!

 私のドレスも期待しててね」

そういうとミシェルはお付きのメイドとともに奥の部屋へと入っていく。

さて、私も着替えなくては。

従者に手伝ってもらい礼服に着替える。

実は結婚式で着ていたコレ、ミシェルがデザインしてくれたものだ。

ちゃんと礼服としての基準は満たしながらも独特なデザインをしている。

ミシェル曰く、タキシードという形式の服であるらしい。一般的に男性は結婚式では燕尾服を着る。

普段は着ている元の比べると、ベストにジャケットと何着も重ね着するのはこういった服装は珍しい。

これもミシェルから猛烈にお願いされた結果で、ミシェルと合わせた白が基調の衣装だった。

「絶対に白い礼服にしてください!」と念押しされて、ミシェルのドレスの色と合わせた彼女がデザインしたものを着ていた。

普通の礼服よりもよっぽど着やすかったな。


これから着る礼服は我ガルム家の色である紺色を基調とした衣装で、伯爵騎士団のデザインを踏襲している。

私が着替え終わってからしばらくすると、隣の部屋からミシェルが出てくる。

ガリム家の色である紺色のドレスにはガリム家の家門とは別に、新たに設けられるタリム男爵家の家紋が銀糸で刺繍されている。

私の礼服にも同じような刺繍がある。

そして、彼女の胸元には私の瞳の色であるエメラルドの宝石が光っている。

シルバーの台座のネックレスはとびきり豪華という訳では無いが、清楚な雰囲気のミシェルによくあっている。

「おまたせレイ。じゃあ披露宴へいきましょう!」

ニッコリと笑いかけてくれるミシェルが眩しい。

私は彼女の手を取ってエスコートし、馬車に乗り込む。

エスコートするために取った手には交換した指輪が光っており、つい嬉しくなってしまう。

教会からガリム城塞に着くまでは10分ほど、すでに結婚式に出席してくれた人たちは移動を完了していた。

その間は少しの間だけ本当に二人きりの時間だ。

「ミシェル、僕は君を必ず幸せにしてみせるよ」

「私もレイと幸せになれるようにお互いに支え合いましょうね」

「あぁ、一緒にだ!」

互いに手をしっかりと握り合い、見つめ合あっているとミシェルがすっと顔を近づけてくる。

私はそれに答えてキスを返し二人でほほえみ合う。

なんて幸せな時間なんだろう。

でも、夜までは我慢しなくては…

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