第17話 非正規組織と正規組織
「またまた大分空いてしまったけれど、ここで国家というものがどうなるのかというのを考えてみたいと思うわ。アメリカのダロン・アセモグル博士の本の受け売りだけど……」
『自由主義とか共産主義とか?』
「それとはちょっと違うわね。基本的には国家権力と国民の力関係によって3種類あるわ。まずは国家権力が強すぎる場合、これは中国を代表とする独裁国家になりがちね」
国が国民を押さえつけるわけだな。
「大体イーブンになるのが、いわゆる西側の先進国。最後に国民が国家より強すぎるのがレバノンのような国家になると言われているわ」
『国民が国家より強いってどうなるのー?』
おまえ、女神なんだからそのくらい理解しろよ。
「ちょうど良い感じの国家にしてもらった日本には分からない感覚かもしれないけれど、日本もそれに近い形になった可能性はあるのよ。時は太平洋戦争終結直後、アメリカ軍が進駐してきた時よ。この時、日本は総力戦を戦い抜いて負けたわけだから国家の強さは極限まで低下しているわ」
確かに、警察や軍もボロボロだろうな。
「物資がなくて闇市場が広がったわけだし、一部地域では中国人や朝鮮人が暴れたとも言われているわ。彼らは今まで劣位に置かれていたけど、日本が負けて立場が逆転したから自分達の天下だと暴れたわけね」
いわゆる三国人の騒動というやつか。
「で、警察が頼りにならないからということで、自治組織やらが対抗していたわけ。これを背景にヤクザが育ってきたのよ」
政府が頼りないから民間組織が暴力で対抗するようになったわけだな。
「もちろん、日本に関してはアメリカもソ連も自勢力に引き込みたいという思いがあったから、そのまま放置せず、アメリカが色々テコ入れしてくれて今の日本になったわけだけど、仮にアメリカもソ連も『日本は危険だから分裂しているくらいでちょうどよくね?』と考えたらどうなったかしら?」
「山口組とか工藤会が関西やら九州を支配したかもしれない、と?」
「可能性はゼロではないわね。昭和30年代くらいに警察が頂上作戦をかけて、彼らの勢力を減じたけれど、そういうのがなければ少し前のコロンビアとか現代のメキシコみたいになっていたわけよ。元々明治維新の前までは緩い統率の下で諸国バラバラだったわけだし」
なるほど、戦国時代再びみたいな感じもありえたわけか。
『そう考えると、みんなが何で戦国時代が好きなのか分からないねー』
「……現在のハマスやヒズボラ、古くはPLOにしてもそういう形で生まれてきた組織なわけね。もちろん、周辺国が直接関与したくなくなったというのはあるわ。イスラエルに負けて『アイツラたいしたことねーでやんの!』とは言われたくないからね。周辺国が関与したがらない、地元には弱い組織しかない、という中で自分達で何とかするしかないのだと生まれてきたというわけだけど、国という機構を介さないから何でもアリでその辺りがイスラエルをムカつかせるわけよ」
『むむむ、国際社会もアテにならないし』
「国際社会についてもそのうち説明したいけど、アテにならないのは間違いないわね。ということで、国と国の対等な関係で考えると難しい部分があるわけよ」
「だからハマスやヒズボラをテロ組織として殲滅を企てているネタニヤフを狂人に喩える人もいるけど、例えば1980年代にシチリアマフィアと戦って殺されたイタリアの検察官ジョヴァンニ・ファルコーネを馬鹿と言う日本人はほとんどいないでしょ」
多少宗教色があるもののイスラエルからすると山口組みたいな認識というわけか。
「この部分をどうにかしないことには解決の糸口がないのも事実ね。パレスチナにしっかりした国家を建てたいのか、イスラエルを宥めて(現在はイスラエルと関係が良い)エジプトあたりに任せてしまうのか、出口もないのに『やめろ』と言ってもどちらも納得しないものよ」
イスラエルとパレスチナ【リアル中世外伝】 川野遥 @kawanohate
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