第7話 逃げ場のない者達

「周辺国の歴史はそんな感じよ。本当はイランとエジプトも見るべきなのでしょうけれど、長過ぎるから今は飛ばすわ」

『どこもかしこも悲惨よねー』

「悲惨だし、ここから導き出される話がもう一つあるのよ。周辺国の後はイスラエルとパレスチナの続きをするつもりだったけれど、この部分は説明しておかないといけないから、もう一話別の話をするわ」

『もー一つ?』

「どこもかしこも破綻していることもあって、イスラエルとパレスチナが喧嘩しても、誰もパレスチナの難民を引き取ってくれないのよ」

 新居千瑛の言葉に、現代の女神は一瞬、あーそっかと反応したが、何かに気づいたようだ。

『あれ? さっきシリア難民はレバノンとかヨルダンに行っているって話になっていなかった?』

「そうね」

『だったら、パレスチナ難民も引き取るんじゃないの?』

「ヨルダンは引き取ってはいたけど、元々小さな国だから限界があるわ。残りの国、エジプトやシリアは逃げてきたら銃で撃ち返すのみね」

『……』

「喩えとして適切ではないかもしれないけど、イスラエルとパレスチナはDV関係みたいな話よ。家主のイスラエルが弱い立場のパレスチナにDVをする。そういう側面は否定できないわ。さて、知り合いがDVに遭っているとして、貴方達はどうする? 相手のパートナーをぶっ殺すかしら? イスラエルをぶっ倒せという意見は多いわよね?」

『それはないでしょー。話し合いをしたり、あるいは殴られている側を一時避難させる感じかしら?』

「周辺のアラブ諸国はパレスチナ難民を引き取らないわ。引き続きDVされてこいと追い返すのよ」

『何でよー?』

「その方が都合がいいからよ」


 今までの話から分かる通り、アラブ人同士でも結構やりあっている。

 で、それは話題にもならないが、イスラエルに関しては話題になる。

 だから、周辺国としてみると、イスラエルに叩かれてほしいからパレスチナ問題が解決するとまずいわけだな。

「パレスチナ難民がデモを起こしているのはアメリカとかヨーロッパよ。サウジアラビアやイランでは起きないわ。そもそもいないんだもの。最初から言った通り、イスラエルは一番マシだとは思うのだけど、それでもイスラエルが正しいわけではないし、逃げるべき人達もいるわ。だけど、そのイスラエルに耐えられない人を周りは引き取らないの。結果として待つのは更なる悪循環よね」

『そんな状況だと、パレスチナの人たちは周辺も恨まないの?』

「ひょっとすると恨んでいる人もいるかもしれないわ。だけど、あまりいないのでしょうね」

『どーしてよー?』

「周りのアラブ人がパレスチナ難民を嫌うくらいには、パレスチナ難民も周りのアラブ人を嫌っているでしょうから」

『って、アラブの連携とか唱えているんじゃないの?』

「こういう言葉があるでしょ? それはそれ、これはこれって。極論すれば、アラブ人諸国に日本人や中国人の10分の1でも連携しようという意識があれば、イスラエルはとっくの昔に中東から追い出されて別のどこかに移住しているはずよ」

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