第8話 両国の歴史・第二次世界大戦
「第一次世界大戦期間中のイギリスやフランスの動きによって、中東地域はパレスチナも含めてしっちゃかめっちゃかになってきたわ。改めてパレスチナに戻ると、ユダヤ人のホームグラウンド建設が認められて、望む人達がどんどん移住してきたの」
「そうなると、アラブ人は怒るだろうなぁ」
「ま、それでも最初の頃に散発的な暴動があって以降、しばらくは小康状態だったみたいね。きっかけは経済の悪化よ。ユダヤ人もアラブ人も失業が増えてきて、お互いへの怨嗟も募り、しかも、暇な人間も増えて来たわ」
いつの時代でも、経済が悪くなると、人心も荒んでくる。
圧迫されているアラブ人も不満だが、ユダヤ人にしても失業が増えてくると労働力として使われているアラブ人に不満を溜めたらしい。
「とはいえ、この時代もまだそこまで酷いものではなかったわ。イスラエルも自衛組織を作ってはいたけれど、基本的には『イギリスが守ってくれるだろう』と楽観視していたのね。実際、アラブ人の反発も鎮圧されつつあったし。ところが」
『イギリス、またやっちゃったのねー!?』
何で嬉しそうなんだ、現代の女神。
「第二次世界大戦の足音が近づいてくるにつれて、イギリスはアラブ人も味方につけたいと思うようになったのね。また、アラブ人も単に抵抗するだけじゃなくてイギリスに対して不満も叩きつけていたの。その結果として、マクドナルド白書とも呼ばれる、イギリスのユダヤ人側への支援を制限する白書を発表したわけ」
「バルフォア宣言の事実上の撤回となってしまったわけだな」
「そう。バルフォア宣言も下手を打ったと言えるけれども、このマクドナルド白書発表におけるユダヤ人社会への裏切りこそが、現在のイスラエルが国際社会の要望を無視する原点といってもいいでしょうね」
イギリスもアメリカも守ってくれない。俺達を守るのは俺達だけだってわけだな。
「しかも、妥協したのにアラブ人社会はイギリス側につかなかったのだから最悪ね。現在の問題として第一次世界大戦時のことが語られることが多いけれど、イギリスの第二次世界大戦時の行動もそれに負けないくらいいい加減なものよ。仮にイギリスがアラブの支援を断り続けていたのなら、イスラエルは今ほど国際社会に反抗的になることはなかったし、パレスチナにはある種の諦めが確立されて今よりは良かったでしょうね」
『やっぱりイギリスは悪いのね』
「ただ、そうしていたら、イランやイラク、シリアの状況がもっと酷くなっていたわ。あちらを立てれば、こちらが立たずというような話よ」
『あらら……』
「ということで、イギリスは妥協したのだけれど、アラブ人社会も不信感も強かったのよね。ただ、ここでイギリスと敵対したのは明らかな失敗だったわ。アラブ人指導者のハッジ・アミン・アルフセイニはナチスと組んでしまったの。彼はとことんまでユダヤ人嫌いだったからヒトラーのホロコースト計画にも賛同してしまっていて、これが後々禍根となったわけね」
『ホロコーストも酷いよねー。酷すぎるわー!』
だから、暴れるな!
ナチスと組んだのは確かに第二次大戦後を考えると失敗だったんだろうな。
「ユダヤ人社会はイギリスへの不信感は強かったけれど、それ以上にナチス・ドイツが危険だということは承知していたわ。ユダヤ人組織のリーダーだったダヴィド・ベン・グリオンの有名なセリフがあるわね。ともあれ、結果的にイスラエルは戦勝側で終わり、アラブ側は敗北側で終わったの。これでユダヤ人社会が正式にイスラエルとして独立するめどが立ったわけね」
『アラブはナチスについてホロコースト支援したのは痛かったわねー』
「それどころか、現大統領のネタニヤフは『アルフセイニがヒトラーを唆してホロコーストを実行させた』とまで言ったわ。これはさすがに言い過ぎとして非難が多いけれど」
『うーん』
「……と、このあたりも非常に殺伐としているけれど、何度も言うようにパレスチナだけが殺伐代表ではないという点は認識してほしいわね。中東各地で色々な民族同士が争っていた、その中の一つが殊更目立ってしまっているというわけ」
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ベン・グリオンのセリフ『ユダヤ人社会は、白書が無いかのようにイギリスの戦争を助け、戦争が無いかのように白書に反対しなければならない』
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