第6話 両国周辺の歴史・3(シリア)
「サイクス・ピコ協定に影響を受けた国の中で、現時点でもっとも悲惨な国家になってしまったのがシリアね」
『何でシリアはあんなに悲惨になったんだろう』
「まず、シリアはフランスの委任統治領となったわ。ちなみにこの時にレバノンが切り離されているわね。で、先程のイラクで出てきたファイサルを国王にしたんだけど、フランスが影響力を行使しようとすることに多くの者が反対して各地で戦闘行為を始めてしまって、すぐにクビになってしまったの。その後ファイサルがイラクに行ったのは先程見た通りね」
『じゃー、シリアはフランスが支配したの?』
「フランスはシリアを更に分割して別々の国にして、それらが次第に融合されていって一応シリアとして独り立ちできそうになったわ。ただし、その後すぐに第二次世界大戦が勃発して、紆余曲折を経て、戦後に独立を達成したの。とはいえ、ご多分にもれず、不安定な政権運営が続いたわ」
おそらく、中東の安定化をはかる上では、この分離気質や民族気質をどうにかしないとダメなんだろうな。
「で、エジプトでナセル政権が成立して反イスラエルを高らかに唱えると、同調した面々がシリアでクーデターを起こして、エジプトと合併することにしたのよ。延々言っているけれども対イスラエルで中東の国同士が本当に協力したケースってこれくらいじゃないかしらね。1958年の話よ」
『じゃー、両国は連合国になって対イスラエルに向けて努力したの?』
「それができればよかったんだけど、エジプト政府は腐敗がひどいし、『自分たちが中東一だ』と偉そうだし、おまけにナセル政権は共産主義に近かったからシリア内で反発が起きたのね。ということでイラクでもおなじみバアス党がクーデターを起こして、シリアは連合国から離脱したわ。ただし、シリア内には連合派も残っていたから、更に喧嘩相手が増えたとも言えるわね」
処置なしだな。
「そのバアス党で権力闘争が起きて勝ち抜いたて大統領となったのが、現在のバッシャール・アサドの父ハーフィズよ。彼が比較的シリアをまとめたのだけど、外を見ればイスラエルとの関係が第三次中東戦争で最悪になり、おまけにレバノンにはイランが影響力を行使しようとしてきてこれとも対立しないといけない。反イスラエルだから欧米は支援してくれないからソ連に近づいたら、更に欧米の猜疑心を招くと散々だったわけね」
アサド政権をロシアが支援しているのは、父親の時代からの影響というわけか。
「そうね。アサド政権とロシアとの関係は、些細なことですぐに宿敵関係になる中東において例外的と言っていいほど長く続いているわね」
つくづく嫌な地域だなぁ。
「2000年にハーフィズが死んで、バッシャールが大統領となり、人々は改革に期待したのよ。バッシャールは元々世襲候補ではなくて、ロンドンで医者として勤務していたこともあったからね。妻のアスマーもヨーロッパでモデルをしたりして働いていたから、親近感があったのね」
「でも、結局はダメだったと」
「バッシャールを擁護するなら、①元々の後継者じゃなかった(後継候補だった長男が事故死した)から、権力を掌握できていなかった。②改革後すぐにアフガンやらイラクやらが攻撃されて、特にバアス党という共通項のあるイラクが攻められたことで対アメリカに過敏にならないといけなくなった、というのはあるわね」
『そーかー。アメリカの影響もあるのね』
「でも、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン(MBS)皇太子も英米文化の影響を受けて育ったと言われるけど、独裁志向は似たようなものだから、多分変わりはないわ」
「で、チュニジアに端を発したアラブの春がエジプトのムバラク政権も打倒して、シリアにもやってきたのね。バッシャールは当初『シリアはチュニジアやエジプトとは違う。自分はあいつらより改革派だ』と高をくくっていたみたいだけど、実際には激しい運動になってしまって、弾圧を決意することになったわ。で、変革派と戦争しているうちにイラクからISIS(イスラミック・ステート)もやってきて、シリアは今や北斗の拳もびっくりの群雄割拠の血みどろの世界となってしまったというわけ」
「一言でいえば、シリアはいつも何かと戦っています、という状態なわけか」
「そうね。その認識で正しいわ」
「ちなみにレバノンは切り離されて以降、常に不安定な政権が立ってきたわ。生まれたばかりの子鹿のような状態のままずっと生きている国と言って差し支えないわね。だから、当然、周辺から常に狙われることになるわ。特に革命が起きて以降のイランが影響力を強めてきて、それに対抗してシリアも軍を派遣して内戦になってしまったの。このあたりはパレスチナとも関係があるから、また出てくることでしょう」
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