第16話 ヨム・キプール戦争②
「この時代の中東問題というのは、基本的にはアメリカとソ連の問題よ。アメリカがイスラエル側に立っていて、ソ連がシリアとエジプトの側に立っていた」
イスラエルとシリアに関しては、この構図はソ連がロシアとなった現代まで続いているな。
「現代という点では、このくらいの時代からアメリカはエジプトの取り込みにも掛かっているのよ。そういう点では戦争そのものの終着点も非常に難しいものになるよわね。アメリカとしてはイスラエルを勝たせなければならない。しかし、エジプトが完膚なきまでに負けるのも困るから、良い加減のところで仲介してあげないといけない」
『そんな都合の良い話がありうるわけ?』
「結果的にはそういう都合の良い話になったわね。当時の情勢を考えると、エジプトが奇襲でもしなければイスラエルが苦しむことはなかったわね」
『何か、昨年から続くイスラエルとパレスチナの問題と似ているわねぇ』
「そうね。しかも、当時と違って現代はアラブの後ろにソ連のような存在がいないわ」
「一応、イランがいるわけではあるが……」
「イランは後ろ盾とするにはあまりに中途半端な存在よね。言うなれば、この当時はヤクザの抗争で、今は片方が半グレみたいなものよ。ヤクザが本格抗争しはじめると大変だけど、管理システムや情報が少ない半グレの方が収拾をつけづらい側面はあるわね」
なんちゅう喩えだ。
「話がずれたけど、基本的にはイスラエルが体制を立て直して、すぐに反撃を開始するわけ。予想より立て直しに遅れたけど、立て直してからは一方的な戦いになったわ。前回の最後に触れたけど、ヨム・キプール戦争を野球に喩えるなら初回終了時点ではエジプトが5-0でリードしていたけど、最終スコアは7回コールドで11-10でイスラエルが勝ったようなものね」
「7回コールド?」
「途中からはエジプトの劣勢が明らかになったから、ソ連もエジプトに『さっさと降りろ』と言っていたのよ。エジプトのサダトもそれを認識して受け入れたわけ。その時点でエジプト軍は壊滅寸前だったし、シリアは首都ダマスクスが砲撃範囲に入るところまで侵攻されていたわ」
ということは、アラブ側の負けみたいなものだな。
「ヨム・キプール戦争の後、アラブ側も正規戦でイスラエルに勝てないということははっきり認識したわ。しかもエジプトはこの後次第にアメリカに接近していくから更に厳しくなっていくわね。だから、この時代以降は非正規戦に活路を見出すようになったわけよ」
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