第4話 両国周辺の歴史・1(サウジアラビア)

「……さて、イギリスとフランスが結果的に中東を翻弄した結果、この地域は色々と変わることになるわ。ということで、周辺もちょっと見てみましょう。まずは一番騙されたことになっているフサイン・マクマホン協定のフサインね」

 フサインというのはフサイン・イブン・アリーというのがフルネームで、イスラームの聖地メッカの当主だ。

 アラブ人の独立のために四人の息子達と反乱を起こして、オスマンを攪乱した。

「彼は騙されたと怒ったのかどうかは分からないけど、ヴェルサイユ条約への参加を拒否しちゃったのね。まあ、それは分かるんだけど、結果的に彼の行為は高くつくことになったわ。それはパレスチナではなく、アラビア半島よ」

 新居千瑛はサウジアラビアのあたりを指さした。


「18世紀くらいまで、アラビア半島は首長の支配する部族単位の地域だったけれど、サウード家が出て来るのね。彼らはイスラームの中でももっとも厳格なワッハーブ派とタッグを組んで、周辺地域の制圧をしはじめるの」

 厳格な戒律がある方が、敵対部族に対して「あいつらはイスラームに違反している」と敵対もしやかく、支配もやりやすいということなんだろうな。

「サウード家とワッハーブ派は危険な存在だから、オスマンも結構神経質になっていて、エジプトと協力したりして叩いていたの。それでサウード家は追放されては戻ってきたりが続いていたのだけど、1900年代に入ってアブドゥルアジズ・イブン・サウードという傑物が出てくるわ」

『知らないわー。誰なの~?』

 って、サウジアラビアの初代国王だぞ。

 一応、女神なんだから知っておけよ。

「アブドゥルアジズはイフワーンという民兵組織を組織して、フサインがオスマンとやりあっている間にアラビア半島に強い勢力を持つに有したの。で、フサインがイギリスと対立している間隙を縫って、イギリスに近づいて、メッカもメディナも奪ってしまったのね。そのままこの勢力はサウジアラビア王国となっていくのよ。で、もっとも厳格な戒律支配の下、今でも人権は大いに蔑ろにされているわけ」

 つまり、ファイサルはイギリスと喧嘩している間に、アラブ人の別勢力に出し抜かれてしまったわけか。

 聖地メッカの当主だったのに、メッカを奪われてしまったというのは悲惨だな。


「ある意味、イギリスの場当たり的な外交の恩恵にもっとも浴することができたのはサウード家とサウジアラビアと言ってもいいのかもしれないわね。ほとんど話題に上ることすらないけれど。パレスチナが表だとすると、裏ではこういうこともあったわけ。というより、表と裏で似たようなことが行われているけれども、裏のことは誰も知ろうとすらしない状況と言えるわね」

『うーん、どこもかしこもこんな感じなのね』

「次はシリアとイラクも見てみましょう。そのうえでパレスチナに戻るわよ」

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